魔王LIFE
4話 流されるがまま
次の日の朝まで、ミシェルの事を思い出しては悶えるのを繰り返していた。
ㅤ夢にまで出てきてしまい、洗脳されてるんじゃないかと疑ってしまうようにもなり、気を紛らわすために商店街にやってきた。
ㅤ朝からの商店街は人が多い。ただ走るだけの人や、買い物をしにきた人。皆がイケメンと美人で、俺の顔がどうなっているのか更に気になった。
「おぉそこの嬢ちゃん、見ていかないかい?」
「こっちの商品も安いわよ〜!」
色んな人から呼び止められる。つまりそれだけの美少女という事だ。
ㅤとりあえず雑貨屋に行って便利そうな物を買うことにした。
ㅤ現在金貨49枚に銀貨92。買えないものはないだろう。
ㅤ雑貨屋には、筆記具や紙。鏡やクシなど色々とある。
ㅤ鏡を手に取り、自分の顔を確認する。
「うっ…………わぁ〜」
あまりの美しさに今まで見てきた女がゴミに思えてきた。
ㅤ自分の顔だからなのか、かなり自分のタイプだ。
ㅤ肩まで伸びた黒髪は枝毛が全くなく、サラサラ。顔はクールでボーイッシュながらも女性の可愛さがあり、耳に片方の髪をかけただけでも印象が変わる。
ㅤ値段は……5銅貨。その横に500マニーと書いてある。
ㅤ他に買うものは特にない、店員さんに鏡を渡して銀貨1枚を渡す。
「はい。お釣りの銅貨95枚だ。君随分と持ってるね、貴族さんかい?」
「いえ、普通の一般人です」
「可愛いね〜」
「あははは、ありがとうございます」
自分でも分かってる。だから店員のオジサンに笑顔を向けて雑貨屋から出た。
ㅤこれでこの世界の物の価値が分かった。
銅貨 - 100マニー
銀貨 - 10000マニー
金貨 - 1000000マニー
つまり俺はミシェルに500000000マニー貰っていたということだ。もっとお礼を言っときゃ良かった。こんな大金を貰えるなんて、やっぱり《モテモテ》の技能の効果か?
ㅤいま硬貨の入ってる袋が盗まれでもしたら……大損だ。大事に持っておこう。
ㅤその後、適当に美味しそうな果物をいくつか買い、持ちきれなくなったので宿に一度帰った。
ㅤほんの少し買い物しただけで凄く得をした気分だ。
ㅤ大量に金持ってるんだし、何か面白い使い道はないか考える。森の方に一軒家を建ててみるか? いつまでの魔王が国の中にいるってのもダメな気がしてきたしな。
ㅤただそうなると、家の場所を知られる訳にはいかない。自分1人で建てないといけないな。
ㅤ他に使い道は……。こんなに金持ってても使い道ないし、とりあえず無理に使おうとするのはやめよう。
ㅤ魔の森らへんに拠点を構えれば人も近寄らないだろう。後は魔物だが……あまり戦いたくないな。まあ魔王なんだし襲ってくる魔物なんかいないだろう。
ーーー
荷物を持って街の出口に行く。
ㅤ門番さんが立っているので、話しかけないといけないのだろう。
「街の外に出たいのですが」
「お、昨日の君か。俺だよ、外側にいた」
「あぁ今日は内側なんですね」
昨日話した門番さんだった。俺の顔を覚えていたんだな。
「なんだもう出ていくのか?」
「はい、人が多いところは苦手なので」
「まあそんなに可愛かったらジロジロ見られるもんな。……それにノーブラだろ?」
「え……なんで分かったんです?」
俺はずっとノーブラ。ミシェルにガッシリ掴まれた時もだ。……なんでアイツの名前が出てくるかな。
「そりゃ……まあなんだ。隠れてたとしても形が見えたりするもんだ」
「形?」
門番さんが言いづらそうに、視線を逸らしながら言った言葉に疑問を感じ、自分の胸を確認する。
ㅤ形……そりゃ胸の形は……あっ。先っちょが……ね。
「み、見なかったことにしてください」
「おう……またいつか帰ってこいよ」
「帰ってくるか分かりませんが、さようなら」
門を潜って、なるべく胸を見られないように森の奥へと走っていく。
ㅤまさか知らない間に痴女アピールしていたとはな。でも、これからは人がいないような場所で生活するんだ。こんくらい大丈夫。
ㅤ白い翼を出して、魔の森がある方向へと飛んでいく。
ーーー
「おっ、見えた見えた」
黒い植物だらけの森。なぜか俺は、この森に魅力を感じる。理由なんかは分からないが、住むならこの森が良い。
ㅤ地面に足を付き、住みやすそうな場所を探す。
ㅤ上空から見て、辺りは木しかない。洞窟なんかがあればそこで住めるんだがな。
ㅤしばらく魔の森を歩いていると、何らかの気配を感じた。俺の後ろから何か視線を感じる。それもかなり近い。
ㅤ振り返ると女性が立っていた。
「……人?」
「やはり気づきましたね」
どうやら人間ではないみたいだ。白い髪に犬のよう耳。服は動物の皮を巻き付けた簡単なものだ。
「獣人族か?」
「獣人族であり、人狼です」
狼か。なぜこんな森にいるのだろうか。
「私がなぜここにいるか。疑問のようですね」
「まあな。理由があるのなら教えてくれ」
「貴女が魔王様だからです」
あ、やっぱり魔王って偉いんだ。
「うん、魔王だけど。なんでここに?」
「…え? いや、ですから貴女が魔王様だから会いに来たのです」
「なんで魔王様だからって会いに来るの?」
俺は普通に1人でゆっくり暮らしたいんだが。
ㅤ魔王だから会いに行く、ってそんな理由で来られちゃ迷惑なんだよな。
「その……魔王様の従者に、ならせていただきたいと……」
人狼の女はさっきまでとは違い、耳をしょんぼりとさせている。
ㅤ魔王の従者か。確かにゲームなんかで「私を倒せなければ魔王様には会えぬ」なんていうボスいたな。
ㅤってことは、こいつは俺の配下に入るってことで良いのか?
「名前は?」
「リアンと申します」
「俺の配下になる。ってことで良いんだな?」
「はい」
なるほど忠実な部下か。そうだよな、俺は魔王なんだし仲間は必要だよな。
ㅤそうだよ、魔王らしくしないとダメじゃないか。なんで俺は普通に生活することを考えていたんだ。魔王として生きる人生を選んだんだ。俺は魔王だ。
「じゃあこの荷物持ってくれる?」
「え……」
「重いから持って」
「……あ、分かりました」
これで俺に良い荷物持ちができた。
「ありがとう、えっと……」
「リアンです」
「うん、リアンありがとう」
「魔王様の命令ならなんなりと」
そのまま魔の森を歩いていく。
ㅤ住むのに最適な場所を探してるんだが、どこにも良い場所が見つからない。
「何を探しているのですか?」
「平たい土地」
「では、魔王様が土地を平たくすれば良いのではないでしょうか」
俺が土地を平たく……? 確かに、イメージで翼を出せるのなら魔法を使えるんだよな。じゃあ試してみるか。
ㅤ今俺が居る場所からなるべく広い空間を包むようにイメージする。
「こ…これは……」
名前忘れたが、何やら驚いているようだ。
ㅤ俺がイメージした範囲を囲むように、透明な丸いドームが出来た。
「えっと、人狼。危ないと思うからこの範囲から出てくれ」
「リアンです。分かりました」
重い荷物を持っているのにも関わらず、素早い動きで範囲外へと出たリアン。
ㅤそれを確認した俺は、更にイメージする。
ㅤ範囲内にある邪魔な木、ボコボコした地面。それらが全て無くなるように念じた。
ㅤすると、これまであった黒い木が黒い光となって消えていった。地面も綺麗に整い、この丸い空間だけ綺麗な土地へと変化した。
「流石です魔王様」
「自分でも驚いた」
まさかイメージするだけで想像通りに行くとは……もしかすると、魔王って化け物なんじゃないか?
ㅤじゃあ今度は家をイメージして見るか。綺麗になった土地の外に出て、なるべく魔王らしい黒いレンガの家をイメージする。内装は……宿で見たような部屋で良いだろう。
ㅤ何も無い土地に黒い煙がモクモクと現れ、それが無くなった頃にはイメージ通りの家が建っていた。
ㅤただ、普通に日本風の一軒家って感じで魔王らしさは感じられない。
「いっそのことお城を作ってみたらどうでしょうか。これから魔王様の従者になろうとする者がどんどんやってきます」
「何……? 他にも来るのか?」
「はい」
魔王ってなんでそんなに人気者なんだ……。皆1人で住んでろよ。
ㅤそんな事言っても変わらないんだよな。仕方ない、城建てるか。
ㅤ今度はさっきよりも更に広い空間を綺麗にして、城を作ることにした。
ㅤイメージは……某ネズミの国の城の黒バージョン! 相変わらず独創性のない俺だが、仕方ない。複雑なイメージって頭が痛くなるんだ。
ㅤかなり大きな煙が現れて、城を作っていく。
ㅤ内装は何も考えていない。勝手に良い感じに作ってくれてたら嬉しいんだが。
「お、おぉぉ!! さすが魔王様! こんな素敵なお城を建てるなんて!」
リアンがはしゃいでただの女の子になってしまった。
ㅤただこの城、不思議な力によってイメージ通りの形にならなった。これはネズミの魔法かな。
「入るぞ」
「はいっ!」
城の中に入って、最初に見えたのは大きなホール。
ㅤそこから色んな部屋へと行けるのだろう。階段やら扉やらが沢山ある。
ㅤ何故か城の構造が記憶の中にあった。
「今から俺の部屋に行く、走り回ってないで着いてこい」
「はい!」
やっぱり狼だから、広い場所は走りたくなるのだろう。今は後からにしてくれ。
ㅤ無駄に大きな階段を上り、更に上り、更に登って、その更に上へと上り。無駄に広い廊下を真っ直ぐ進んでいく。
ㅤそうして大きな扉が現れた。
「ここが俺の部屋だ」
「……はい」
階段や廊下は紫色の炎がついた松明が壁にかけてあり、明るかった。この部屋も扉の隙間から紫の明かりが見える。
ㅤ大きな扉を開くと、宿のVIPルームのような部屋だった。
ㅤ生活しやすそうな場所だな。ただこの部屋に来るまでが面倒だ。
「魔王様」
「ん?」
「荷物はここに置いてよろしいですか?」
「あ、そこのソファの上に置いてくれ」
「分かりました。私の部屋はありますか?」
リアンの部屋……?
「どっかにあるんじゃないか」
「で、では探してきても良いでしょうか」
「おう、行ってこい」
「では!!」
勢いよく部屋から出ていき、俺に一礼すると扉を閉めた。
ㅤ廊下を走る音がする。結局走り回りたかっただけだろうな。
ㅤベッドに横になると、頭にミシェルが思い浮かんだ。
ㅤこの部屋で胸を鷲掴みにされた……かなり痛かったものの、初めて触られたんだ。記憶に嫌でも残る。
ㅤ嫌ではないけどな。
「はぁ……魔王か……」
リアンに言われるがまま、土地を作って城を建ててみたものの何をしたらよいのかさっぱりだ。
ㅤ魔王らしく世界を征服? となると従者やら仲間が集まるのを待たないとな。
ㅤいずれ相手の方から来るんだ。ゴロゴロしてよう。
ㅤ夢にまで出てきてしまい、洗脳されてるんじゃないかと疑ってしまうようにもなり、気を紛らわすために商店街にやってきた。
ㅤ朝からの商店街は人が多い。ただ走るだけの人や、買い物をしにきた人。皆がイケメンと美人で、俺の顔がどうなっているのか更に気になった。
「おぉそこの嬢ちゃん、見ていかないかい?」
「こっちの商品も安いわよ〜!」
色んな人から呼び止められる。つまりそれだけの美少女という事だ。
ㅤとりあえず雑貨屋に行って便利そうな物を買うことにした。
ㅤ現在金貨49枚に銀貨92。買えないものはないだろう。
ㅤ雑貨屋には、筆記具や紙。鏡やクシなど色々とある。
ㅤ鏡を手に取り、自分の顔を確認する。
「うっ…………わぁ〜」
あまりの美しさに今まで見てきた女がゴミに思えてきた。
ㅤ自分の顔だからなのか、かなり自分のタイプだ。
ㅤ肩まで伸びた黒髪は枝毛が全くなく、サラサラ。顔はクールでボーイッシュながらも女性の可愛さがあり、耳に片方の髪をかけただけでも印象が変わる。
ㅤ値段は……5銅貨。その横に500マニーと書いてある。
ㅤ他に買うものは特にない、店員さんに鏡を渡して銀貨1枚を渡す。
「はい。お釣りの銅貨95枚だ。君随分と持ってるね、貴族さんかい?」
「いえ、普通の一般人です」
「可愛いね〜」
「あははは、ありがとうございます」
自分でも分かってる。だから店員のオジサンに笑顔を向けて雑貨屋から出た。
ㅤこれでこの世界の物の価値が分かった。
銅貨 - 100マニー
銀貨 - 10000マニー
金貨 - 1000000マニー
つまり俺はミシェルに500000000マニー貰っていたということだ。もっとお礼を言っときゃ良かった。こんな大金を貰えるなんて、やっぱり《モテモテ》の技能の効果か?
ㅤいま硬貨の入ってる袋が盗まれでもしたら……大損だ。大事に持っておこう。
ㅤその後、適当に美味しそうな果物をいくつか買い、持ちきれなくなったので宿に一度帰った。
ㅤほんの少し買い物しただけで凄く得をした気分だ。
ㅤ大量に金持ってるんだし、何か面白い使い道はないか考える。森の方に一軒家を建ててみるか? いつまでの魔王が国の中にいるってのもダメな気がしてきたしな。
ㅤただそうなると、家の場所を知られる訳にはいかない。自分1人で建てないといけないな。
ㅤ他に使い道は……。こんなに金持ってても使い道ないし、とりあえず無理に使おうとするのはやめよう。
ㅤ魔の森らへんに拠点を構えれば人も近寄らないだろう。後は魔物だが……あまり戦いたくないな。まあ魔王なんだし襲ってくる魔物なんかいないだろう。
ーーー
荷物を持って街の出口に行く。
ㅤ門番さんが立っているので、話しかけないといけないのだろう。
「街の外に出たいのですが」
「お、昨日の君か。俺だよ、外側にいた」
「あぁ今日は内側なんですね」
昨日話した門番さんだった。俺の顔を覚えていたんだな。
「なんだもう出ていくのか?」
「はい、人が多いところは苦手なので」
「まあそんなに可愛かったらジロジロ見られるもんな。……それにノーブラだろ?」
「え……なんで分かったんです?」
俺はずっとノーブラ。ミシェルにガッシリ掴まれた時もだ。……なんでアイツの名前が出てくるかな。
「そりゃ……まあなんだ。隠れてたとしても形が見えたりするもんだ」
「形?」
門番さんが言いづらそうに、視線を逸らしながら言った言葉に疑問を感じ、自分の胸を確認する。
ㅤ形……そりゃ胸の形は……あっ。先っちょが……ね。
「み、見なかったことにしてください」
「おう……またいつか帰ってこいよ」
「帰ってくるか分かりませんが、さようなら」
門を潜って、なるべく胸を見られないように森の奥へと走っていく。
ㅤまさか知らない間に痴女アピールしていたとはな。でも、これからは人がいないような場所で生活するんだ。こんくらい大丈夫。
ㅤ白い翼を出して、魔の森がある方向へと飛んでいく。
ーーー
「おっ、見えた見えた」
黒い植物だらけの森。なぜか俺は、この森に魅力を感じる。理由なんかは分からないが、住むならこの森が良い。
ㅤ地面に足を付き、住みやすそうな場所を探す。
ㅤ上空から見て、辺りは木しかない。洞窟なんかがあればそこで住めるんだがな。
ㅤしばらく魔の森を歩いていると、何らかの気配を感じた。俺の後ろから何か視線を感じる。それもかなり近い。
ㅤ振り返ると女性が立っていた。
「……人?」
「やはり気づきましたね」
どうやら人間ではないみたいだ。白い髪に犬のよう耳。服は動物の皮を巻き付けた簡単なものだ。
「獣人族か?」
「獣人族であり、人狼です」
狼か。なぜこんな森にいるのだろうか。
「私がなぜここにいるか。疑問のようですね」
「まあな。理由があるのなら教えてくれ」
「貴女が魔王様だからです」
あ、やっぱり魔王って偉いんだ。
「うん、魔王だけど。なんでここに?」
「…え? いや、ですから貴女が魔王様だから会いに来たのです」
「なんで魔王様だからって会いに来るの?」
俺は普通に1人でゆっくり暮らしたいんだが。
ㅤ魔王だから会いに行く、ってそんな理由で来られちゃ迷惑なんだよな。
「その……魔王様の従者に、ならせていただきたいと……」
人狼の女はさっきまでとは違い、耳をしょんぼりとさせている。
ㅤ魔王の従者か。確かにゲームなんかで「私を倒せなければ魔王様には会えぬ」なんていうボスいたな。
ㅤってことは、こいつは俺の配下に入るってことで良いのか?
「名前は?」
「リアンと申します」
「俺の配下になる。ってことで良いんだな?」
「はい」
なるほど忠実な部下か。そうだよな、俺は魔王なんだし仲間は必要だよな。
ㅤそうだよ、魔王らしくしないとダメじゃないか。なんで俺は普通に生活することを考えていたんだ。魔王として生きる人生を選んだんだ。俺は魔王だ。
「じゃあこの荷物持ってくれる?」
「え……」
「重いから持って」
「……あ、分かりました」
これで俺に良い荷物持ちができた。
「ありがとう、えっと……」
「リアンです」
「うん、リアンありがとう」
「魔王様の命令ならなんなりと」
そのまま魔の森を歩いていく。
ㅤ住むのに最適な場所を探してるんだが、どこにも良い場所が見つからない。
「何を探しているのですか?」
「平たい土地」
「では、魔王様が土地を平たくすれば良いのではないでしょうか」
俺が土地を平たく……? 確かに、イメージで翼を出せるのなら魔法を使えるんだよな。じゃあ試してみるか。
ㅤ今俺が居る場所からなるべく広い空間を包むようにイメージする。
「こ…これは……」
名前忘れたが、何やら驚いているようだ。
ㅤ俺がイメージした範囲を囲むように、透明な丸いドームが出来た。
「えっと、人狼。危ないと思うからこの範囲から出てくれ」
「リアンです。分かりました」
重い荷物を持っているのにも関わらず、素早い動きで範囲外へと出たリアン。
ㅤそれを確認した俺は、更にイメージする。
ㅤ範囲内にある邪魔な木、ボコボコした地面。それらが全て無くなるように念じた。
ㅤすると、これまであった黒い木が黒い光となって消えていった。地面も綺麗に整い、この丸い空間だけ綺麗な土地へと変化した。
「流石です魔王様」
「自分でも驚いた」
まさかイメージするだけで想像通りに行くとは……もしかすると、魔王って化け物なんじゃないか?
ㅤじゃあ今度は家をイメージして見るか。綺麗になった土地の外に出て、なるべく魔王らしい黒いレンガの家をイメージする。内装は……宿で見たような部屋で良いだろう。
ㅤ何も無い土地に黒い煙がモクモクと現れ、それが無くなった頃にはイメージ通りの家が建っていた。
ㅤただ、普通に日本風の一軒家って感じで魔王らしさは感じられない。
「いっそのことお城を作ってみたらどうでしょうか。これから魔王様の従者になろうとする者がどんどんやってきます」
「何……? 他にも来るのか?」
「はい」
魔王ってなんでそんなに人気者なんだ……。皆1人で住んでろよ。
ㅤそんな事言っても変わらないんだよな。仕方ない、城建てるか。
ㅤ今度はさっきよりも更に広い空間を綺麗にして、城を作ることにした。
ㅤイメージは……某ネズミの国の城の黒バージョン! 相変わらず独創性のない俺だが、仕方ない。複雑なイメージって頭が痛くなるんだ。
ㅤかなり大きな煙が現れて、城を作っていく。
ㅤ内装は何も考えていない。勝手に良い感じに作ってくれてたら嬉しいんだが。
「お、おぉぉ!! さすが魔王様! こんな素敵なお城を建てるなんて!」
リアンがはしゃいでただの女の子になってしまった。
ㅤただこの城、不思議な力によってイメージ通りの形にならなった。これはネズミの魔法かな。
「入るぞ」
「はいっ!」
城の中に入って、最初に見えたのは大きなホール。
ㅤそこから色んな部屋へと行けるのだろう。階段やら扉やらが沢山ある。
ㅤ何故か城の構造が記憶の中にあった。
「今から俺の部屋に行く、走り回ってないで着いてこい」
「はい!」
やっぱり狼だから、広い場所は走りたくなるのだろう。今は後からにしてくれ。
ㅤ無駄に大きな階段を上り、更に上り、更に登って、その更に上へと上り。無駄に広い廊下を真っ直ぐ進んでいく。
ㅤそうして大きな扉が現れた。
「ここが俺の部屋だ」
「……はい」
階段や廊下は紫色の炎がついた松明が壁にかけてあり、明るかった。この部屋も扉の隙間から紫の明かりが見える。
ㅤ大きな扉を開くと、宿のVIPルームのような部屋だった。
ㅤ生活しやすそうな場所だな。ただこの部屋に来るまでが面倒だ。
「魔王様」
「ん?」
「荷物はここに置いてよろしいですか?」
「あ、そこのソファの上に置いてくれ」
「分かりました。私の部屋はありますか?」
リアンの部屋……?
「どっかにあるんじゃないか」
「で、では探してきても良いでしょうか」
「おう、行ってこい」
「では!!」
勢いよく部屋から出ていき、俺に一礼すると扉を閉めた。
ㅤ廊下を走る音がする。結局走り回りたかっただけだろうな。
ㅤベッドに横になると、頭にミシェルが思い浮かんだ。
ㅤこの部屋で胸を鷲掴みにされた……かなり痛かったものの、初めて触られたんだ。記憶に嫌でも残る。
ㅤ嫌ではないけどな。
「はぁ……魔王か……」
リアンに言われるがまま、土地を作って城を建ててみたものの何をしたらよいのかさっぱりだ。
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