魔王LIFE

フーミン

3話 恋する乙女

ミシェルが自分の手を眺めながら、時々恥ずかしそうに顔を俯けながら街の案内をしてくれた。
ㅤ商店街、住宅街。城下町中心部にはハンターギルド等がある。


「そしてアレがこの国の城、"ヴィートン城" です」


雲の上まである巨大な城。そこに近づくに連れて貴族街、王族街なんて区間があるらしい。
ㅤ王族街は王族しか入れない為、ミシェルは貴族街までしか入れない。
ㅤよっぽどのことがない限り城に近づく事はできないのだそうだ。


「これでこの国の4分の1は案内しました。全て回るのは大変なので、今日はここまでにしましょう」
「ミシェルさんはこれから何をするんですか?」
「友人に婚約者が出来たので、お祝いにですかね」


婚約者か。貴族の結婚なんかって厳しそうだよな。親に決められた家系の子と、例えタイプじゃない人が相手でも婚約しないといけない。そんなイメージだ。


「ミシェルさんは婚約者って……」
「一応お父上に決められているのですが……私の家は優しくて、好きな人が出来たらその人と婚約していいんです」


へぇ〜…じゃあ俺に告白したのって結構重要だったんだな。


「なんか、ごめんなさい」
「あぁいえいえ! ルトさんが謝ることじゃありません。お互いのことをよく知らずに告白した私が悪いんです」


どっちが悪い、なんて言うのは嫌なんだよな。


「そうそう、良かったら私の友人に会いますか?」
「その友人って貴族……ですよね?」
「大丈夫です。マナーだったり礼儀なんかいりませんよ。私の友人として紹介すれば許してくれます」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」


広い城下町を案内してくれたんだ。ミシェルさんは良い人そうだし、友人にもあって仲良くしないとな。
ㅤそれに貴族、何かと媚を売っといた方が後々の利益に繋がる。かもしれない。


「ここが丁度貴族街なので、友人の家まですぐですね」


ミシェルに手を繋がれて、豪華な家が並ぶ中を歩いていく。
ㅤ貴族街と王族街は一つ一つの家の敷地がとても広く、それだけで国の3分の2を占めているようなモノだ。


「着きましたよ」


他の家よりは少し小さいが、それでも前世の建物と比べたらかなり大きい。
ㅤ俺の心臓がギュッと締め付けられる。


「肩の力抜いて良いですよ。行きましょう」


家の敷地内に入ると、一気に空気が変わった。


ガチャッ! 「おぉミシェル〜!! やっと来たか!!」


玄関が開かれて、赤髪のチャラそうな男が出てきた。


「イシール! お前もついに結婚か!!」
「おう! そこの隣の女は誰だ?」
「私の友人だ。丁重に扱えよ?」
「お前にそんな可愛い友人がねぇ……羨ましいな!」


2人は大親友のように会話をしているが、玄関まで5m。もっと近づかないのか?


「さささ、入ってどうぞ」
「う〜い。……あ、ルトさんすみません。ついはしゃいでしまいました」
「い、いえ。とても仲が良くて羨ましいです」


家に近づくにつれて、貴族のオーラがプンプンする。


「お邪魔しま〜す」
「あの、これって……」
「これは純金の置き物だよ。金を見るのは初めて?」
「はい。どのくらいしたんですか?」
「8聖金貨くらいかな」


聖金貨…? よく分からないな…ラノベとかだとかなり高いらしいけど。
ㅤ高そうな壺などが置いてある家の中に上がり、一つの広い部屋にやってきた。
ㅤ家具も全て高そうで、足を踏み入れるのに抵抗が…。


「ソファに座ると良いよ」
「わっ!」


ミシェルに手を引っ張られてフカフカのソファに座らされた。座り心地がかなり良い……でもくつろげない。


「さて、俺の嫁を紹介しよう。ミソラ!」


部屋の奥のドアが開き、1人の女性がやってきた。
ㅤというかミソラ? 名前が日本人だな。それに顔も和風の穏やかガール。


「異世界からやってきました。ミソラと申します」
「イシール…婚約者って異世界人だったのか!?」
「はっはっはっ!! どうだ!」


異世界人と知ると、ミシェルが凄く羨ましそうな顔をした。


「ルト、君も自己紹介」
「あ、はい。えっと……ルト……です。ミシェルの友人です」
「可愛いな〜ルトちゃん。ミシェルの嫁候補か?」
「それがついさっき振られたばかりでね」
「お前から告白を?」
「初めてしたよ……」


なんか……申し訳ない。


「でもこんな美少女なら、俺も一目惚れで告白するかもな」
「イシール様……?」
「あっ……俺はミソラを一生愛すけどな!」


ミソラさんって鬼嫁だな。


「ルトさん、宜しくお願いします」
「こちらこそミソラさん」


お互いに頭を下げて挨拶をする。
ㅤミソラさんは確実に日本人だな。雰囲気が『日本』って感じする。分かるでしょ?


「イシールもついに結婚か。おめでたいな」
「それも異世界人だぜ? ミシェルなら泣いて悔しがると思ったんだけど、意外と反応薄いな」
「イシールなら異世界人にするって予想してたしね」


そんなに凄い人なのだろうか。


「イシールさんって、そんなに凄いんですか?」
「昔魔王を討伐した英雄の家系でね。その時に手に入れた財宝が今もたんまり残ってるんだ」
「多分この国の5%を俺の物に出来るくらいはある」


へぇ〜魔王を討伐ね。魔王を……ね。俺ここに居ていいのかな。


「あ、そうだ。イシールにお祝いのプレゼント」
「お、なんだなんだ?」


ミシェルが突然空間に穴を開けて、手を突っ込んだ。
ㅤうわ、異世界だ。空間に穴を開けるとか異世界だわぁ〜異世界すっげ。


「じゃ〜ん! ドラゴンの鱗の首飾り!」


その二つを受け取ったイシールとミソラは、目を涙を浮かべて喜んでいた。
ㅤなんで?


「ドラゴンの鱗は不思議な魔法がかけられていてね。夫婦がそれを飾っていると、2人の愛が永遠のものになるって話が本にあるんだ。
ㅤドラゴンの鱗はとても貴重で、1枚も世に出回ってないんだ」


それが一つの首飾りに4枚……どうやって手に入れたんだ。


「ありがとうございますミシェル様……」


ミソラさんが頭を深く下げた。
ㅤん〜価値観がよく分からないな。プレゼントで泣くなんてディ〇ニーのチケットを貰った人みたいだな。


「ミソラ……ずっと一緒だよ……」
「イシール様……はいっ!」


2人が抱き合ってイチャイチャし始めた。
ㅤ凄く居心地が悪いんだが…それに薔薇なのか何なのか分からないが、花の香りが臭くて鼻が痛い。そろそろ帰りたいんだけどな。


「ミシェル、今日は泊まってけよ」
「あぁ実は夜に予定があってね。もうすぐしたら出ていくよ」
「ったく、友人が結婚したのにすぐ帰るのか」
「首飾り」ボソッ
「ありがとよミシェル! 今度あった時はご馳走するぜ!」


ミシェルとイシールの上下関係が分かった気がする。


「じゃあ私はこれで失礼する。ルトはどうする?」
「ちょっとミソラさんと話しても良いですか?」
「あ、イシールいいかな?」
「ミソラ、大丈夫か?」
「大丈夫です。ルトさん、こちらへ」


ミソラさんと隣の部屋に行き、さっきの部屋よりは居心地の良くなった。
ㅤ二人ともソファに座る。


「さっそく聞いても良いですか?」
「なんでしょう」
「日本人……ですよね?」
「っ!」


そう尋ねると、ミソラさんは分かりやすく目を見開いた。


「ど、どうして分かったのです?」
「実は私も…俺も日本人だったんだ」
「貴女も!? えぇ!?  て、ってことはつまり……日本人!?」
「う、うん」


興奮しすぎて何を言っているのか分からなくなっている。それにクールがキャラが壊れた。


「良かったぁぁ〜……こっちに来て初めて日本人に会いました!」
「それは良かったです」
「ルトさん……という名前は偽名ですか?」
「元々悠人はるとって名前なんですよ」
「あ、だからルトですか。うわぁ〜やったぁ〜」


まるで女子高生のようにはしゃぐミソラさんを見て、この世界に来てから心に詰まっていた何かが無くなったような気がした。


「日本人って知れただけだで良かったです。では」
「はい! またお会いしましょう!」
「んぐっ……」


立ち上がると、ミソラさんが俺を強く抱きしめてきた。
ㅤ胸が……大きい胸が押し当てられて無いものが立ち上がりそうだ。


「あ、話が終わったみたいだね」
「お? ミソラ、何か変わったな」
「はい! えっと…ルトさんとは気が合うようです」


気を使ってくれて、俺も異世界人だという事は言わないようだ。ミソラさん優しいな。


「確かに、何か雰囲気が似てますもんね」


ほらね。『日本!』って感じするでしょ?


「あ、ルトちゃん。暇な時1人で来てもいいよ。衛兵に捕まってもイシールに招待されたって言えば大丈夫だから」
「ありがとうございます」
「じゃ、行こうかルト」


ミシェルと一緒に豪華な家を出る。イシールとミソラは玄関まで見送ってくれた。


ㅤ敷地から出て、深呼吸をする。


「随分緊張してたみたいですね」
「初めて貴族に会いましたから」
「ははは、私も貴族なんだけどね」
「ミシェルは特別ですから」


家の中と家の外で違うんだよ。それにミシェルは俺が男に対して初めて好きになった相手だしな。


「と、特別っ……これから、ど、どどどうしますか?」


動揺が隠しきれてないぞ。


「ふふっ、大丈夫です。ミシェルさん忙しいんでしょう?」
「ま、まあそうですが……予定をずらせば大丈夫です」
「ダメです。私は1人で何かしますので、ミシェルさんは自分の予定を。またいつか会ったらお食事でもしましょう」
「分かりました。お食事ですね。
ㅤじゃあこのまま別れるのも寂しいので……」


ミシェルが空間に穴を開けて何かを取り出した。


「はい。何も持ってないみたいなので、金貨50枚とお守りです」
「これは…」


お守りと言われ渡されたのは一つの首飾り。


「これは竜の爪です。私も想いが入ってます」


ミシェルが自分で言って自分で顔を赤くしている。
ㅤこのままだと更に好きになってしまいそうだ。


「大事に肌身離さず持っていますね」
「嬉しいです。では、寂しいですが……またいつか」
「っ……」


そういって、優しく俺の体を包んだ。ハグだ。
ㅤ俺は頭が真っ白になり、顔が真っ赤になったのが分かった。


「……では」


ミシェルは恥ずかしそうに、その場を去っていった。
ㅤ今、俺はどんな顔をしているのだろうか。きっと恋する乙女、なんだろうな……。




ーーーーー




ミシェルのお守りを首にかけ、城下町の中心部に戻ってきた。
ㅤ貴族街とは違って、大勢の人々が行き来している。最も人が多いのはハンターギルドの前。
ㅤハンターというのは、魔物などを駆除して国や街の平和を守る仕事である。


ㅤでも俺は魔物と戦う度胸などない。ハンターギルドにはお世話にならないだろう。なんせ俺は魔王だ。
ㅤ空がオレンジ色に変わってきた。暗くなる前に宿の部屋を確保した方が良いだろう。
ㅤミシェルに金貨を50枚貰っている。金には困らないだろう。


ㅤ一度ミシェルと一緒に来た宿。そこに入っていき、部屋の鍵を貰う。


「1泊80000マニーですが、お客様、お金はお持ちでしょうか」


80000マニー? マニー……??
ㅤとりあえず金貨8枚くらい出せば良いのか?


「こ、これで……」
「っ!? 失礼しましたお客様。では金貨1枚頂戴いたします」


どうやら1枚だけで良かったようだ。


「銀貨92枚お返しします。どうぞごゆっくり」


92枚って…多いな。なんとかミシェルに大きめの袋を貰ったから入ったがな。
ㅤ鍵に6と書いてある。二階に上がりドアに6と書いてある部屋に入る。


「おぉ〜……VIPみたいだ」


改めて高級ホテルに泊まってる感じだ。
ㅤ袋をテーブルに上に置いて、フカフカベッドに倒れ込む。


「首飾りは……取った方が良いか」


あまり取りたくないという感情が出てきたが、ゆっくりするのには邪魔だ。
ㅤはぁ……俺って本当に男を好きになったのか。


ㅤベッドで顔を赤くして悶える俺であった。

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