鬼ノ物語

フーミン

27話 絶望は突然に

「あの……カケル様」
「どうした?」


さっきからずっと森を歩いているのに、何も代わり映えのないままだ。


「どうするんですか?」
「寝泊りする場所を探す」
「全然見つかりませんけど……」
「確かに……」


周りは木しかない。


「……こっちに行こう」
「は、はい」


道から外れて、少し雰囲気の変わった方向に進むことになった。


「やはりな」
「凄い……」


ほんの数分歩くと、大きな山に当たった。
壁には洞窟があり、入り口は狭いが中は大きく広がってるようだ。


「今日はここにするか」
「そうですね」
「ニオ、入れるか?」
「試してみます……」


狭い空間を、なんとか身体を捻らせながら入っていく。身体が擦れて痛いが……入れないことはない。


「わぁっ……と」


足を滑らせて、なんとか広い空間に出ることが出来た。


「カケル様〜入れますよ!!」


狭い入り口から、外にいるカケル様に声をかける。
その時だ。突然、真っ暗な空間の中から……何者かに全身を掴まれた。
それは……真っ黒な手だった。無数の手が全身を締め付ける。


「か、カケル様っ! 助けてくださいっっ!」


カケル様に助けを求める。


「ニオ。どうだった」


狭い隙間から、カケル様が出てきた。
さっきの声が聞こえてなかったのだろうか。


「た、助けてください! 何かが……身体を……」
「ああ、それは俺だ。それで、どうだった?」


え……? カケル様の仕業……なのか?


「え、えっと……見ての通り……広い空間で……」
「そうじゃない。これまでの人生、どうだった」
「か、カケル様……?」


カケル様の様子がおかしい。いや、いつもの様子ではあるが、どこか楽しそうだ。


「どうだった……というと……」
「ふっ……ふははは……ふはははははっ!!」
「カケル様?」
「カケル様ぁ? 俺がそんなに優しいかぁ……そうだよなぁ? だって今までそう演じてきたんだ」
「え……?」


急変したカケル様に、俺は困惑した。
 すると、身体を拘束する手の締め付けがさらにキツくなった。


「ユキがお前を殺しただろ。アレは俺が操ってたからだ」
「え……」
「人間を騙すってのは最高だよな……王女も、ニオも、全国民も、俺を疑わなかった」
「……何……言ってるんですか?」
「まだ理解できないのか? 俺は邪神……悪そのものだ。邪神が人間を救って優しくしてやると思ったか?」
「嘘……ですよね……冗談だと言ってくださいっ……」
「あぁ嘘だ! いままでの俺は全て冗談だ!!」


これは……カケル様じゃない!! こんなのカケル様じゃない! 人間を騙した? 違う、カケル様はそんな事しない。


「いい加減に現実を受け入れろ。俺は人間共の運命を操って、洗脳して、何人もの人間を殺してきた。
そうだ……分かりやすいように、お前にかけた洗脳を解いてやろう」
「っ……」


カケル様の手が、俺の頭に触れる。


ズキンッ 「っ……!」


一瞬、頭に何かを刺されたような痛みが走った。


「カケ…………」


カケル様と呼ぼうとした時。目の前に男がいる、と思った。洗脳が解けた瞬間、全てに恐怖した。


「ひぃぃぃぃぃいいっっ…………嫌ぁぁぁぁぁあああ!!!!????!!」
「はははははははははっ!! どうだ? 怖いか?」
「ぁ……っっ………………」
「そう。それがお前だ」


いままでの記憶が蘇る。
洗脳によって消されていた恐怖や不安が、いままで溜まっていた闇が……俺の心を壊した。


「その絶望した顔……感情……それが大好物なんだ」
「……ぁぁぁ……ぁ…………」


今思えば……カケルと出会った時に、全てが違っていた。
おかしいんだ。おかしい筈なんだ……どうして俺は、気づかなかったんだ。どうしてユキさんを裏切った……カケルは…………何も考えれない。


「最高だよ。ニオ……」
「……」


恐怖の対象が目の前にいる。
あんなに優しかったユキさんを殺した……悪が目の前にいる。


「う゛ぅ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
「お?」


ただ無心で。本能のままに体を動かした。
拘束から逃れ、目の前にいる男をただ殺す。殺して殺して……


「あ゛ぐぁっ…………あ゛あ゛っ!!」


顔を掴まれて、そのまま地面に叩きつけられる。


「じ……ね゛ぇ……死ね………死ね……」
「面白い。まだ現実を理解してないのか」


ニオは、何度も地面に叩きつけられた。
赤子が玩具で遊ぶように、どんどん原型を留めなくなっていく。


「お前は絶望しながら死ぬんだよ」


ニオは泣き叫びながら、憎しみを込めた言葉を言い続けた。
しかし、原型を留めていない肉体から発せられる声は、ただの甲高い音だけだった。


「ここまで大きな絶望は久しぶりだなぁ……長年待った甲斐があったものだ」


カケル……いや、悪の化身は笑いながら肉の塊を地面に置いた。
その塊は、しっかりと目を見開いて、邪神の事を見ていた。


今も憎しみを叫んでいるのだろう。


「最高のディナーだったよ。次は王女を絶望に陥れようか……」


邪神は、最後に刀を塊に突き刺して消えていった。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


肉の塊は音を出し続けた。
既に死んでいると言っても否定出来ないその姿で、今もなお憎しみを叫びつづけているのは……ユキさん命を生贄に生き返った代償。『死ねない体』になったからだ。


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時が立ち。ある冒険者が山にやってきた。


「おい! あそこ洞窟あるぞ!!」
「お宝の匂いがするわよ!!」
「まて、まずはしっかり準備をしてからだ」


3人の冒険者は、外にテントを立ててしっかりと準備をした上で、洞窟へと入っていった。


「うわあぁあぁぁぁああぁああ!!!!」
「なにあれなにあれっっ!!! いやぁぁああ!!!」
「逃げるぞ!!!!!!」


その冒険者が見たのは。肉の塊が手口の方を眺めながら、甲高い音を発し続ける奇妙な光景だった。
その後、その3人の冒険者はとてつもない憎しみを受けた影響で、発狂しながら自殺したという。


「やぁ、ニオ。またデザートに来たよ。
今日はやっと王女様が自殺したんだ。ははは」


肉の塊に話しかける邪神は、今もなお人間を狂わせている。

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