鬼ノ物語

フーミン

26話 体質

ユキさんについては、カケル様が王女に説明して処理してもらったそうだ。どうやらカケル様の為なら王女も殺そうっていう計画も考えていたようで、ユキさんの部屋からは暗殺計画のメモが見つかった。
 正直、ここまで異常な人だとは思わなかった。勇者をしていて、魔法も使えて、俺に名前を与えてくれた。そんな人が俺を殺してきた。
 未だに信じられない。


「その荷物は俺の方に入れてくれ」
「は、はいっ!」


現在、俺もカケル様は部屋の片付けをしている。今日中に王国を出て旅に出るらしい。王女様には何も言っていない。


 いつの間にかリュックを買ってくれていたみたいで、俺とカケル様。そしてユキさんが使うはずだったリュックの3つがある。
 自分のリュックには、女物の服や下着などを詰め込んで、黒刀は血を拭いてから片手で持ち運ぶ。
 常に触れていないと安心しないからな。


「私は準備終わりました」
「そうか。じゃあ王女にバレる前にさっさと転移するか……場所はあの森でいいだろう」


リュックを背負って、いつも訓練していた森に転移した。
 いつもニコニコとしていたユキさんがいないのは寂しいが、カケル様と2人きりで旅に出れるのなら本望だ。


「今更ですけど……旅ってどこに行くんですか?」
「旅というのは、目的もなく好きなように歩き回る事を言うんだ。
 自分の知らない場所、知らない動物。それを発見するのも一つの喜び。例えば……この木の枝を立てて倒れた方向に歩くとする……あっちだな」


拾った木の枝を適当に立てて、倒れた方向にカケル様は進んでいった。
 俺も後を付いていく。


「そ、そこの冒険者の方! 助けてくださいっっ!!」
「うるせぇっ! 暴れんじゃねぇ!!」


いきなり、綺麗なドレスを着た女性が汚い服を着た男に襲われていた。


「これも……旅の一つだ」


そうなのか…………。




「ありがとうございました……このご恩は一生忘れません」


カケル様が汚い男を追い払って、女性を助け出した。


「実は私……コラゲン王国の王女でして……敵国のスパイに転移装置を使われて、こんなところにきてしまいまして……」
「つまり行く宛がない、という事か?」
「はい……」


カケル様は、1度俺をチラッと見て口を開いた。


「じゃあコラゲン王国に送ってやる」
「本当ですか!?」
「ニオ、ちょっと待ってろ」


カケル様が王女様に触れて、一瞬で消えてまた現れた。


「よし行くぞ」
「は、早いですね……」
「早めに泊まる場所を見つけないとダメだからな」


まるで仕組んでいたかのように、王女が現れてあっという間に問題解決。幸先が悪いな。


ガサッ
「魔物か……?」
「た、助けて……ください……」
「……またか……」


ボロボロで手枷を付けられた女性が、草むらから這いよるようにやってきた。
 なんかイベント多くない……??


「ほい」
「ありがとうございますっ!! どうか私の御主人様になっていただけないでしょうか!」
「残念だけど、俺の仲間は既にここにいるんでな。……この武器やるから頑張れ」


そういってどこからか1本の剣を取り出して、その女性を渡した。


「行くぞ」
「はい……」
「うわぁぁぁあああああ!!!!????」
「こ、今度はなんだ!?」


上から叫び声がして見上げると、女性がこちらに向かって落下してきていた。


「死ぬぅぅうううううううう!!!」
「大丈夫だ」
「はっ……他、、助かりました……」
「じゃあな。……行くぞ」
「はい」


な、何なんだよ!! 俺とカケル様の周り忙しいすぎるだろ!
 っていうか今落下してきたの女子高生だよね!? 制服着てるしそうだよね!?
 なんかステータスとか呟いてるし、空間を指でなぞってるし、そうなんだよね?


「はぁ……困ったな……」
「どうしたんですか?」
「さっきから起きている事は……俺の影響なんだ」


まあそうだろうとは思った。


「たまに近くの空間を歪めて、確率の低い運命を導き出すっていう体質でな」


どういう体質なんだ……っていうか俺がユキさんに殺されたのもそのせいか。


「今日はよく歪めるよ」
「そ、そうなんですか……カケル様って不思議ですよね」
「そうか?」
「一緒にいると安心するし、変な体質持ってるし……もっとカケル様の事を知りたくなりました」
「……そうだな……いつか教えてやろう」
「何を……ですか?」
「俺の正体……なんてな」


カケル様の正体……気になる!!


「も、もしかして神様とかそんな感じの!?」
「ま、まあ……近いかな」
「えっと……空間を歪める……神様……邪神!」
「……正解」


えぇっ!? 当たった!?
 俺この身体になってから勘が鋭くなった気がする。


「邪神といっても、別に悪い事をしてる訳じゃない」「分かります」
「まあ不幸を呼び寄せやすい体質はあるけどな。気をつけてくれ」
「はいっ!」


カケル様の体質って面白い。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く