鬼ノ物語

フーミン

24話 信頼

風呂から上がると、入れ替わりでカケル様がお風呂に入っていった。
一緒に居られる時間が少なくなって寂しいな。


カケル様の部屋に入って、ベッドの上に腰を下ろす。


「ねぇニオちゃん」
「なんでしょうか」
「その刀。ずっと持ってないとダメなの?」


そういえば言ってなかったか? 早めに話した方が良いだろう。


「この刀が無いと怖いんです。カケル様かこの刀。どちらかが近くに無いと……ダメなんです」
「そうなんだ……それって、自分の身を守る物だからって事?」
「そういうのじゃないと思います。私が男の人に接せるようになったのも、カケル様とこの刀のお陰ですから」


そういって、黒刀を鞘から抜いた。
黒い刀身は、俺の顔を鏡のように反射してくれる。切れ味も凄そうだ。


「それって、刀と鞘両方セットじゃないとダメなの?」
「ん〜……それはまだ分からないです」


もしも刀身が無くなったらどうなるのだろうか。刀を収める鞘が無くなったらどうなるのだろうか。


「ちょっと貸して」
「あっ……」


ユキさんが鞘を持って、少し距離を離れた。


「どう?」
「……大丈夫です」
「じゃあ本体だね」


そういって鞘を返してくれた。急に奪われるとビックリするからやめてほしい……。


ガチャッ 「ただいま」
「あ、早かったね」
「サッと洗ってすぐ終わらせたからな。何してたんだ?」
「この刀の事を調べてたの」
「あんまは刀身は触るなよ。ちょっと触っただけで切れてしまう」


確かに、切れ味は凄そうだ。


「これはカケル様が作ったのですか?」
「ああ。実験で色々と武器を作っていてな、その刀は2番目に良い出来だったんだ」


そんな物を俺にくれたのか。


「さて……明日は王女の野郎に別れの挨拶するから早く寝るぞ」
「明日出るの?」
「行動は早い方が良い」


部屋の明かりを完全に消して、真っ暗になった部屋。段々と目が慣れてきて周りが見えるようになる。


「ニオ。今日はお前が1番混乱してると思うが、眠れるか?」
「は、はい。かなり眠いです」


きっと大きくなった身体に大量の栄養が使われたのだろう。


「じゃあ寝るぞ」


今度はベッドの左端に俺が寝て、真ん中ユキさん。右にカケル様が寝る配置になった。
なんだか距離が離れたせいで、心の距離まで遠くなった気がする。甘えたい……。


なんて考えている間にも、どんどん眠気が深くなっていき、そのまま夢の中に落ちた。


ーーーーー


ーーーーー


ーーーーー


ガサガサ……ガサ……


ん……なんだ……物音がする。それに身体が重くて……身動きが出来ない。金縛り……なのか?
手元にある刀を握ろうとして、黒刀が無くなっている事に気づいた。


「……っ!?」
「あ……起きちゃった……?」


目を開けると、黒刀の先を俺に向けて、今にも刺してきそうに乗っかっているユキさんがいた。


「ユキ……さん……?」
「ふふ……起きちゃったのなら仕方ないね……一瞬で殺してあげる」
「え……? ……どうしたの……?」
「この状況が分かってないの?」


何が起きてるんだ? 俺の体に乗っかっているユキさんは楽しそうに笑っている。でも、今にも俺を刺し殺しそうな……とてつもない殺気を放っている。
そうか……きっとこれは夢なんだ…………ユキさんがこんな事をする筈がない。
俺は夢から覚めるために、目を閉じた。


「いいこと教えてあげよっか」
「うぐっっ……!?」


首を片手で締められた。苦しい……手に力が入らない。


「これは現実……これからニオちゃんは、死ぬの。私以外……カケル君には近づかせない……」
「かっっ…………ぁっ…………くっ……」
「ほぉら……カケル様が作ってくれた刀が……頬を切り裂いていくよぉ〜?」
「あっっ……」


ゆっくりと、刃先で顔をなぞっていく。スーッと動いた場所からは、熱い液体が垂れていく。


「ユキ……さんっ…………どうしてっ……」
「怖いねぇ……怖いねぇ……。どうしてか教えてほしい……?」
「んんっっ!? ん〜〜っっ!?!?」


首を絞められながら、口を塞がれた。
そしてユキさんの顔が近づいてくる。


「カケル君は……私だけの物なの。……チビのままだったら優しくしてたのに……どうしておっきくなっちゃったの? ……ねぇ……カケル君が欲しいんでしょ?」
「ふ〜っ! ……ふ〜っ!」


必死に鼻で呼吸を続ける。
おかしい……ユキさんは絶対にこんな事しない! 俺は信じてる……ユキさんをずっと信じてる!!


俺の頬を、汗なのか血液なのか、それとも涙なのか分からない物が流れ落ちた。


「明日の朝……ニオちゃんは暗殺者に殺された事になってる…………残念だね……ふふふ」
「んんんん〜〜〜っっ!!! ん〜っっ!!」
「暴れると余計に苦しくなるよ……?」
「んんっっ!!」


刀が、俺の首に突き立てられた。


嫌だ嫌だ……死にたくないっっ……ユキさん……正気に戻ってっ……どうしてこんな…………違う……違う違う……。


「さよなら」
ブジュッ「ん゛ん゛っ゛!! あ゛っ……あ゛がぁっ……お゛っ…………ヒュー……ヒュー……」


喉がっ……熱いっっ……空気が抜ける音が…………意識が…………カケル……様…………。
 遠くなっていく意識の中。まるで絶頂に達したかのように口角を上げて、笑っているユキさんの顔が見えた。

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