鬼ノ物語

フーミン

22話 池主

「ったく……どこに行ったんだ……」


現在、俺とカケル様は城内でユキさんを捜索中だ。
あれから色んな所を探してるが、ユキさんのいる気配は無い。


「もしかしたら城の外に居るのかもしれません」
「探しにいかなきゃダメなのか?」
「……探しましょう」


頭をポリポリと掻きながら俺の方に触れて、城の外にある庭に転移した。


「おっ、居たぞ」


座り込んで池の中を覗き込むユキさんの姿があった。
すぐに駆け寄る。


「おいユキ……急にどうしたんだよ」
「ぐすっ……っ……」
「なんで泣いてるんだ……」


カケル様……いい加減に気づいてほしい。


「うぅ……剣を池の中に……落としちゃった……」
「何っ? どこらへんだ?」
「ここ……」


あれ?


「任せろ。俺が取ってきてやる」


あれれ? どうしてカケル様は服を脱いで池に飛び込もうとしてるんだ?
そしてどうしてユキさんはカケル様の服を持ってるんだ?


ザプンッ


勢いよく池の水に飛び込み、カケル様は下の方へ沈んでいった。


「ユキさん……?」
「……ん?」
「カケル様にちゃんと気持ちを伝えた方が……」
「あぁ……そうね。カケルったら……鈍感なんだから」


あれ? どうしてユキさんは笑ってるんだ?


ザパァッ 「あったぞ!」
「ありがとう!!」


ユキさんが剣を受け取り、満面の笑みを見せる。


……よく分からんな……乙女心ってのは。


「それで、さっきはどうして急に出ていったんだ?」
「ちょっと座って」
「あ、ああ」


これは俺も2人の横に座った方が良いのだろうか。それとも遠くから見守った方が良いのだろうか。


「カケルはさ。恋愛についてどう思う?」
「恋愛……? んん……難しい質問だな」
「少し変えるね。もし誰かと恋人になるなら、誰がいい?」


かなり変えたぞ。


「誰が……そうだなぁ……恋人か……」
「難しい……かな?」
「そうだな。俺は恋人なんて作ろうと思った事がない」


へぇ……あんなに大きいブツ持ってるのに恋愛には興味無し、か。


「私ね……もし誰かと恋人になるなら、カケル君がいいと思ってるの」
「……俺と?」
「うん。カケル君はさ、小さい頃から私の事守ってくれてたよね」
「あぁ〜……確かに、うっすらと記憶に残ってる」
「中学生になってからも、私とカケル君はいつも一緒に居て、友達からは付き合ってるの? って言われて、からかわれたりしてたの」
「別に付き合ってなかったぞ」


カケル様はまだ気づかないのか。


「私、その時に気づいたの。カケル君のことが、恋愛的な意味で好きなんだって」
「俺の事を……恋愛的に?」
「……驚かないの?」
「そりゃ驚いてるさ。なんで俺が好きなんだ?」
「……今言ったでしょ?」
「何を……」


うわぁ……何とも言えない天然が発動してる。


「はぁ……好きになった理由なんてどうでもいいの。私はカケル君が好きで好きで、大好きなの。だから私と付き合ってほしい」
「そうなのか……いままでずっとそう思ってたのか?」
「ずっと。ずっと好きだったの」


俺、ここに居ていいのかな。そろそろ邪魔になりそうな空気になってきた。


「……キス……して?」


お、おぉ……見たい。ユキさんとカケル様が唇を合わせる最高の絶景を、俺は特等席で見ていたい。


「緊張するな……」


珍しくカケル様が緊張した面持ちで、顔を近づける。


おぉ〜〜……お?


急に視界が暗くなった。何かが目の前を遮っている。これは手だ……ユキさんの手だ。
……チクショーーーッッ!!!


しばらく何も見えない状況が続いた後、やっと手が離れた。
ユキさんは顔を赤くして下を向いている。
カケル様はいつも通り……とはいえないが、普段のクールな表情で前を向いていた。


その間には、指同士が絡み合った2人の手があった。


「……」


気まづい。理由は分からないが、何故か大きな喪失感があった。ここにいるのが気まづい。


「……」


黙って2人の様子を見ていると、ふとユキさんが顔を上げてこちらを向いた。


「奪っちゃってごめんね……」


は、ははは……もしかすると、俺はカケル様を奪われたと思っているのか。さっきまで2人のことを応援していたのに、なんで俺は、悲しい気分なのだろう。


カケル様から貰った黒刀を、強く握りしめる。


ブクブク
「ん?」


池の下から泡が出ている。2人はそれに気づいていない。なんだろう、下に何かあるのだろうか。
気になって池の中を覗き込んだ。


ザバァッ
「きゃっ!」
「なんだ!?」
「え?」


突然、触手のような物が俺の脚に絡み付いた。ヌメヌメしていて気持ち悪い。
そのまま、池の中に引きずり込まれてしまった。


「ニオッッ!!!」
「ニオちゃんっ!!」


2人の声を最後に、俺は大量の水を吸って意識を失った。


ーーーーー


「ん…………あれ……ここは……」


気づくと、俺は真っ暗な空間にいた。
地面がゴツゴツしていて、とても冷たい。空気が湿っている。


ふと、俺はある違和感に気づいた。目線の高さが、いつもより高い。いつもは座っていると、もっと目線は低い筈だ。
すぐに自分の身体を確認した。


「え……」


下を向くと、短かった筈の黒髪が視界を狭めた。長く伸びていた。
髪を手で分ける。その手すらも、いままでのように幼い手ではなく、大人のように大きく細い綺麗な手になっていた。


「何が起きて……っ」


声すらも、大人のように優しい雰囲気を出している。
身体が成長しているのだ。胸はそのままだが。


「はっ……!」


すぐにカケル様から貰った黒刀を探す。


カタッ


どうやらすぐ手元にあったようだ。混乱していて気づかなかった。


「すぅ…………はぁ〜〜……」


1度深呼吸して心を落ち着かせる。
何が起きたのか。まずは状況を理解する事が大事だ。


突然池から触手が現れて、その触手によって池に引きずり込まれた。気づいたらこうなっていた。


ダメだ全く理解できない。


「よぉ」
「っ!?」


突然天井から声がして、黒刀を握りながら上を見上げる。


「そう警戒すんなって……俺はこの池の主だ」
「池の主が何の用ですか……」
「酷いなぁ……折角願いを叶えてやったんだぜ?」
「願い……?」


願いを叶えたって……俺は何も願ってないぞ。


「お前はあの時。『カケル様を手に入れれる身体になりたい』と、心のどこかで願ってたんだよ。
だから、俺がお前を成長させてやった」


成長させて……。


「俺はお前の願いを叶えただけだ。後は自分の力で頑張れ」
「ま、待って……ください」
「なんだ」


真っ暗な天井にいる池の主が、チラッと動いた気がする。


「服……苦しいです」
「知るかっ!!」


急に成長した身体に合わない服を着ていた為、ほぼ破けてしまっている。チャイナドレスがさらにエロくなってしまった。
しかし、池の主が酷い一言を叫ぶと、上から触手が伸びてきた。


「わっっ……」
「大人しくせぇっ!」


そのまま上へグンと引き上げられた。
水の中を凄い勢いで進む。その勢いで、また水を大量に吸ってしまった。


ーーーーー


「……がっ! げほっ……げほっげほっ……」
「起きた……」


気づくと、先ほどの庭にいた。
口から水を吐き出して周りを見渡すと、カケル様とユキさんがいた。


「カケル様っ!」


俺はとっさにカケル様の名を呼んで、体験した事を話そうとした。


「お前は……ニオなのか?」
「はい!」
「何があったの……? 突然池に引きずり込まれたと思ったら……大人のニオちゃんが……」


二人とも混乱している様子だ。
自分でもよく分かっていないが、状況を2人に説明した。


「ーーという事があったんです……」
「嘘ではないようだな」
「本当に……ニオちゃんなんだ……」
「自分でもビックリしています……」
「と、とりあえず! そんな格好は危ないから城に戻ろう!」
「わっ……」
「……」


ユキさんに手を引かれて、城の中へと入っていった。


「あの雰囲気……確かにニオだ」


カケル様の疑っているような声が後ろで聞こえた。

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