鬼ノ物語

フーミン

21話 恋愛

部屋に戻って、俺は疲れた体を癒すためにカケル様の膝枕を活用していた。


「カケルがそんな事するなんて驚いたよ〜」
「ニオが期待以上の結果を出してくれたからな」


カケル様は今日は上機嫌。カケル様が嬉しいと、俺も嬉しくなる。


「カケル様、明日も頑張ります」
「いや、明日は1日ゆっくりしよう」
「いえ! 1日でも早く強くなりたいんです!」


そういうと、一瞬驚いたような表情を見せて、俺に微笑んでくれた。


「強くなりたいなら、しっかりと休むことも大事だぞ」
「っ……」


不意の笑顔に、恥ずかしくなってしまった俺は顔を隠した。


「あ、可愛い……。そういえば前から気になったんだけど、ニオちゃんの角どうなってるの?」
「そうだな……俺も気になってた」


角? どうなってるって言われても……。


「皮膚が固まって出来てるんですよ」
「へぇ〜じゃあ触った感覚も分かるの?」
「はい。角で風の強さを知る事もできます」
「へぇ〜……感覚鋭いんだね」


角って意外と便利だ。でも、某少年漫画の敵キャラのように、角を相手に突き刺す。なんて事したら痛そうだ。


「触っていい?」
「ダメです」


拒否すると、ユキさんは分かりやすく落ち込んだ。
角を触られると変な感じなんだ。ピリピリするというか、とにかく制御が効かなくなる。


「カケル様になら……触られてもいいですよ?」


と、カケル様の顔を見る。


「あ、じゃあちょっとだけいいか?」
「はい……」


俺は目を瞑る。
カケル様の指先が、角の先端に触れるのが分かった。
大きな手で、角が包み込まれる。


グッ
「あっ…………」


握られると、つい声を漏らしてしまった。


「不思議な感触だな……」モミモミ
「んんっ……っ……はっ……はぁぁんっ…………」
「や、やめようカケル!!」


ユキさんが顔を真っ赤にして、カケル様の手をどかした。


「ニオちゃん……今のはまずいよ……まずいですよ……」


優しく語りかけてきた。


「どういう事だ?」


カケル様が尋ねる。


「っ……カケルは知らなくていいのっ!」


顔を真っ赤にしている。どうしたというのだ……。


「ねぇニオちゃん……ニオちゃんってカケルがいなけても刀を持ってれば落ち着くんだよね?」
「え……まあ……はい」
「ちょっとカケル。部屋から出ていって」
「なんでだ?」
「ガールズトークの邪魔するつもり?」
「わ、分かったよ……」


一体どうしたというのだろうか。
頭にハテナマークを浮かべながら、部屋から出ていくカケル様を見つめる。離れていくと、それに比例して不安が押し寄せてくるので、刀を握りしめる。


「ニオちゃん、よく聞いて……」
「はい……」
「多分だけど……鬼人族にとって、角を触られると凄く気持ち良いんだと思う。そうでしょ?」
「は、はい……頭が真っ白になるくらい気持ち良いです」


素直にユキさんに伝えると、更に顔を赤くした。


「多分……角って鬼人族の性感帯だと思うの」
「性感帯……」


でも、あの感覚はいままで体験したことのない気持ち良さだった。これが……性感帯なのか……。


「だ、だからね……角は本当に……恋愛的な意味で大好きな人にしか触らせちゃ駄目だよ」
「ど、どうして……」
「気持ち良いから癖になるのは分かる……すっごく分かる。でもね、人前で触るのは恥ずかしい事なの」


そうなのか……何故かユキさんが言うと説得力があるな。


「どうして分かるの?」
「どうして…………誰にも言わないでね」
「はい……」
「実は……ニオちゃんにもあると思うけど、オシッコするところあるよね?」
「うん……」
「そこを触って気持ちよくなるのを、自慰っていうの」


やばい……これ中身が男の俺が聞いてはいけないゾーンだ。変な領域に踏み入れた気がする。


「それってつまり……エッチな事なの」
「……」
「それを見られると……ね……」


ユキさんの顔がどんどん赤くなっていく。
俺の心拍数もどんどん上がっていく。


「あぁ恥ずかしいっっ!」
「誰かに……見られたの?」
「うん……カケルにね……」


あっ…………。
俺は察してしまった。


「……何か分かった気がします……もうやめましょう……」
「うん。その方がいいよ」


何かを察した俺は、早急に話を切り上げた。


ーーーーー


「何話してたんだ?」


カケル様が部屋に戻ってきて、さっそく質問してきた。


「教えたら外に出た意味無いでしょ」
「それもそうか。じゃ、俺は気にしないことにする」


仲間外れにされて悲しそうな顔をするカケル様に、俺は無意識に抱きしめていた。


「カケル様。ひとついいですか?」
「なんだ?」
「ユキさんはカケル様が好きなんだと思います」


それだけを伝えて、俺は布団に潜った。ここからは2人だけの話だ。


「えぇっ、ちょっ!!」
「そう……なのか?」
「そっ、違っ……いや違うんじゃなくて……えっと……」


かなり焦っている様だ。


「す、好きですッ!! 小さい頃からずっと好きでした!!」
「ユキ…………」


俺はただ、布団の中でドキドキしながらユキさんを応援するだけだ。


「そうか……俺の事を……」
「……」


さあ……どう返事する……?


「実は……俺もユキの事は前から好きだったんだ。今もその気持ちは変わらない」
「っ! じゃ、じゃあ!!」
「俺に着いてくるか……?」


うっひょぉぉおおお!!!


「着いていく! 一緒に居たい! 一緒に旅して、一緒に戦って! 一緒に死にたい!!」
「ありがとう……じゃあ、今日から3人で旅に出れるな」
「どういう事?」
「実はな……前からユキと旅に出る事を考えていたんだ。いつ切り出すか考えていたんだか……ユキが俺に着いてきてくれるなら、すぐにでも旅に出れる」


3人で旅か……楽しそうだ。


「ユキとニオ、そして俺の3人で旅に出ないか。いい加減、王女の騎士をするのも疲れたんだ」
「……出よう! すぐに!!」


ユキさんもその意見に賛成のようだ。


「ニオ、お前はどうだ? この国から離れて、3人で冒険しないか」
「い、行きます!」


カケル様とユキさん、2人と一緒に度に出れるのならそれが一番だ。
それに、2人はついに恋愛を始めた。まるで家族のように仲良くできるだろう。


「これからも……親友としてよろしくな」
「「え?」」


カケル様の一言に、俺とユキさんは固まった。


「親友……として?」
「? ああ、俺はずっと、ユキを友達として好きでいた。ユキも俺を好きでいてくれたと分かった今、俺とユキは親友だ!」


なんだろう……この……何かが違う感。カケル様は……好きという意味を間違えてるのか……?


「〜〜〜〜〜〜〜……カケルの馬鹿っ!!!」
「お、おいユキ!?」
「あ〜あ」


ユキさんが泣きながら部屋から出ていってしまった。
せっかく旅に出ることになったのに……最悪の1日目だな。


「お、俺……何かしたか……?」
「……カケル様、謝りに行きましょう」
「なんで……?」


はぁ……どうやらカケル様はラブコメの主人公のようだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品