鬼ノ物語

フーミン

12話 衣服

「おっ、起きたか」
「……おはようございます」


目を擦りながら起きあがると、着替えているカケルさんがいた。どこかに出掛けるのだろうか。


「調子はどうだ?」
「眠いです……」
「じゃあ大丈夫だな。お前の服買いに行くぞ」


服……この白い服で良いと思うんだがな。
ㅤカケルさんは、着替え終わると紐で剣を腰に結びつけ、黒いローブをどこからか取り出した。


「この中に入れ」
「え……?」


この中、というのはローブの中という認識で良いのだろうか。


「あの店は魔族は出入り禁止なんだ」
「わ、分かりました……」


仕方なくローブの中に入ると、体を持ち上げられた。
ㅤそのままローブの中で、抱えられるような体勢になった。しかし、何故か外の様子が見える。
ㅤまるで膜に覆われているみたいで、とても面白い。


「よし、行くぞ」
「はい……わっ……!」


急上昇する感覚が襲い、気がつけば服が沢山ある建物の中に入っていた。


「これはこれはカケル様!」
「小さい女の子用の服を探している」


獣人族のキツネ顔店主が、ニコニコと微笑みながらやってきた。
ㅤ胸の膨らみからして、女性だろう。


「ち、小さい子……ですか。もしかして誰かと……」
「仲間だ」
「そう……ですか。ではこちらへ」


あ、この人……絶対カケルさんの事好きだな。そしてその事にカケルさんは気づいていない。
ㅤしばらく見守ってやるか。


「仲間という事はクエストに連れていくのですか?」
「ま、お供としてな」
「では、動きやすいこの服はいかがでしょうか」


キツネ店主が持ってきたのは、まるでカンフーでもするのか、というような服だ。上は白いチャイナ服。下は土木作業員のような、足首から上がフワッとしたズボン。


「……これの黒はあるか?」
「少々お待ちを……」


げ……まさかこれを着るのか……?
ㅤカケルの手をペシッと叩いて、こちらに注目させる。


「あれ着るんですか?」
「ん、ダメだったか? ……よく他の人にもセンス無いって言われるんだが、そんなに悪いか……?」


うっ、なんか俺の中の母性本能が疼いてしまった。


「うっ……チャイナ服はいらないよ……」
「そ、そうか……じゃあ……忍者服はどうだ」


……こいつ……センスの欠片もねぇな。
ㅤ確かに土木作業員のようなズボンに忍者の服だと少しは似合うと思うけど……カケルさんは俺にコスプレをさせたいのか?


ーーーーー


「ありがとうございました〜!」


何故か、最終的に買ったものが黒と赤のチャイナドレスと、白パンツが何枚かだった。
ㅤ俺はカケルさんのセンスと思いやりの心を疑いたい。


ㅤ仮定として、このスリッドの入ったチャイナドレスを着たとしよう。足を上げればパンツが見える。ジャンプすれば捲れる。
ㅤもしかすると、センスが悪いのではなく、ただの変態なんじゃないだろうか。


ㅤなんて事を抱えられたまま考えていると、いつの間にか男性用トイレの一室に居た。


「えっと……?」
「着替えろ」


そういってパンツとチャイナドレスを渡してきた。


「えっ!? こっ、この場で!?」
「俺は外で待っている」
「あ、分かりました」


流石に見られながらは無理だからな。


ㅤしかし、こんな露出の多い服を俺が着るのか……。そりゃあ、俺の身体は細いよ。幼児体型とかそんなんじゃなく、細い。ちゃんとした食生活を受けてこなかったからだな。
ㅤ確かに細い体には似合うと思う、けど。俺には似合わない。


「まだか〜?」
「い、いま着替えますっ!」


迷ってはいられないようだ。


ーーーーー


「えっと……どうですか……?」


若干パンツが見えそうなのだが、ギリギリ見えないような作りになっている。


「おっ、いいな。じゃあ行くか」
「……」


そ、それだけ? もっと何かあるんじゃない……いや、これが普通か。俺は何と言われるのを期待していたのだろうか……。謎だ。
ㅤ変な緊張から、似合うのかという不安から。俺は可愛いと言われたかったのだろうか。


「行くってどこへ?」
「ハンターパブだ」
「ハンターパブ?」


またこれはゲームみたいな名前が出てきたな。


「ハンターっつーのは、危険な魔物を駆除したりする人達だな。ハンター達が情報を交換したり、魔物退治の依頼を受けたりする場所だ。
ㅤついでに酒場にもなっているから、パブだ」


なるほど。危険な魔物を駆除、か。


「これから危険な魔物とやらと戦いにいくんですか……」
「いや、ハンター登録するだけだ。その後は俺が戦い方を指導する」


まるでラノベみたいな……あれ? 今更思ったんだが、この世界ラノベっぽくないか? 魔物だったり魔法だったり獣人だったり。
ㅤそんな事考える余裕がいままで無かったから気づかなかったな。まさか俺……異世界転生してたのか。
ㅤって……今更だよな……。


「どうした?」
「い、いえ。何でもありません!」


少し遅れて歩いていたようだ。
ㅤすぐにカケルさんの元に駆け寄ると、離れないように手を繋がれた。


ㅤ本来俺は、カケルさんポジションにいるはずなんだよな。普通のラノベだったら。

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