鬼ノ物語

フーミン

7話 読心

結局何されたのか分からないまま、不思議に思いながらも眠ることにした。
ㅤ少しだけ話して疲れたのだろう。柔らかなベッドに包み込まれるように眠った。


ㅤそして次の日の朝、1人ボーッと朝食を食べているとシュリさんがやってきた。


「おはよう」
「おはようございます」
ㅤ(今日も可愛いなぁ)
「えっ?」
「えっ?」


今何か聞こえたような……気のせい……?


ㅤ(ご飯が進むぅ……)
「あ、あの……」
「な、なんだい?」
「今日も可愛い……とか、ご飯が進むって……どういう事ですか?」
「えっ!?」
ㅤ(声に出してた!? いや、そんな筈はない……)


明らかに口を動かしていないのに、シュリさんの声が聞こえる。
ㅤまるで……そう、まるでユキさんが言っていたような、心を読んでいる感じだ。


「……まさか……」
「ニオちゃん……ね、寝ぼけてるのかい……?」


昨日の夜、ユキさんが何かを呟いた時に俺の体が光に包まれた。その時にこの能力を貰ったのだろうか。
ㅤ確かその後それらしい事を言っていた気がする。


「ニオちゃん……?」
「ん、あ、ね、寝ぼけてただけみたいです……ごめんなさい」
「あ、あぁ〜いいんだよ。さ、食べよう」
ㅤ(心読まれてるのかと思ったよ……ふぅ)


なんだろうこの新感覚は……相手の思ってる事が全て分かる。つまりだ。相手が俺を嫌っていたら心の中の悪口が俺に聞こえるという事だ。そ、そんな人いないよな……。
ㅤ周りの人を見渡すが、何も聞こえない。どういう事だ? 近くにいるシュリさんの心の声だけは聞こえる。


ㅤ(キョロキョロしてどうしたんだろ)


そんな声が聞こえてた直後、シュリさんも周りを見渡した。


「どうかしたのかい?」
「あ、いや。別になんでもないんです」
ㅤ(不思議だねぇ……)


今俺は不思議だと思われてるのか。あまり変な動きはしない方が良いのかな?


「そういや、昨日は眠れたかい?」
「あ、はい。ユキさんがお話してくれて……」
ㅤ(勇者様は小さい子に優しいね)
「良かったねぇ、また後で勇者さんと遊ぶのかい?」
「ん〜……」


今ユキさんは1人でいるな。特に忙しそうではないし、話せるだろうか。


「まだ分からないです」
ㅤ(これはチャンスかも)
「じゃあ私と遊ばないかい?」
「い、いいですけど……何するんですか?」


ここで出来る遊びなんて何も無いと思うのだが……。


「本、読んであげよっか?」
ㅤ(小さい子は本が好きだからね)
「お気持ちは嬉しいですが……そういう年齢では無いので」
「あっはっはっ、そうだったね」


まるで母みたいに接してくるな。母がどういう者なのか知らないけど。
ㅤでも、こうやって相手の本心を知れるっていうのは有難い事だな。自分も話しやすくなる。


ㅤもしかすると、ユキさんはこの為に能力をくれたのだろう。後でお礼を言わないとな。


ㅤと思っていると、ユキさんがやってきた。


「おはようございま〜す」
「あ、勇者さんおはようございます」
「おはようございます」


いつもの調子でニコニコと声をかけてきた。


「ユキさん……えっと……昨日はありがとうございました」
ㅤ(どう? 意外と良い能力でしょ?)
「また眠れなかったらお話しようね〜!」


どうやら能力を上手く扱っているようだ。心の中で本当の事を言って、他の人には別の事を話しているかのような会話にしている。


ㅤ(ニオちゃんの心は読み取れないけど、意識して私に話しかけたら分かるよ)
ㅤ(こ、こうですか……?)
ㅤ(そうそう! 良かった、これで夜も静かに話せるね!)


俺とユキさんの不自然な笑顔に、シュリさんが不思議そうな顔をしている。
ㅤ面白いなこの能力。使い方次第では良いことに使えそうだ。


朝食を食べ終わった後、外に出てみないかと誘われたが断った。まだ怖くて出られないのだ。
ㅤ「構わないで好きにしてていい」 と伝えて、俺はベッドで横になった。
ㅤ外に出れない人は本当にすることが無い。外は危険なのに、外に出ないと何も出来ないというのは辛い。
ㅤ俺も外に出たいとは思うのだが、どうしてもアイツらを思い出して動けなくなる。少しずつ慣れないとな。


静かに壁を見つめてると、段々脳が活動しなくなってきた。体が女になり小さくなってから、眠くなる事が多くなった気がする。
ㅤお腹一杯だから、という事もあるのだろう。このまま起きてても何もないので、そのまま眠ることにした。


ーーーーー


本当に平和だ。朝食を食べて眠って昼食。かなり生活リズムが悪いと思うが、アイツらに支配されていた頃より確実に平和だ。……あまり思い出したくない。
ㅤ太陽も登って、かなりポカポカした時間になった。


ㅤ外では今もキャッキャウフフと遊ぶ人達がいる。とても平和だ。


「ニオちゃ〜ん」
「あ、ユキさん」


どうやらユキさんの心も、他の人と違って読めないようだ。意識して話すことはできるが、ユキさんに対しては役に立たない能力だろう。


「今日の夜、皆で魔法の練習をしようと思うんだけどね」
「魔法!」


ついに魔法の練習が出来る!!


「その為には外に出ないといけないの」
「……」


上げて落とされるのは嫌いだ。


「そ、そう嫌な顔しないで……ニオちゃんが外に出れないのは知ってるよ」
「じゃあどうするの?」
「少しずつ外に出る練習しよ? ニオちゃんも、外で走り回りたいって気持ちはあるんでしょ?」
「う、うん……」


この恐怖を克服できるのだろうか。かなりのトラウマを植え付けられた俺が、外で走れるのだろうか。


「焦らなくても少しずつで大丈夫。まずはあの扉に近付く練習からしよう?」
「じゃあ今日の夜はどうするの……?」
「外に出れない人以外で……練習かな」


ってことは見学扱いか。まあ……仕方ない。


「分かった」
「良かった……じゃあそれだけだから、またね!」
「また」


ついに今日の夜、この目で魔法が見れるんだな。
ㅤ遠足以来のワクワクに心が踊った。

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