鬼ノ物語

フーミン

5話 名前

皆が囲むテーブルの上には、1人1人にクッキーやチョコなどのお菓子があった。


「食べすぎないようにね」


1人につきクッキー3つ、チョコ2つだ。どこからどうやって持ってきているのか分からないが、勇者さんは何でも出せるみたいだ。


「はい。食べながら聞いて」


その言葉に皆が勇者さんに目線を向けた。
ㅤ俺もクッキーを1つ。味をしっかり感じながらそちらを向いた。


「今から皆に名前を付けていこうと思います。1人1人の名前を全員で考えましょう。
ㅤ既に名前がある方、いますか?」


すると、4人程が手を上げた。皆人族だ。


「じゃあまず自己紹介」
「じゃあ私から……私の名前はフローラ。親に捨てられたところを奴隷にされた……」


黒髪でボサボサな髪の女性は、物静かな雰囲気だ。自由時間の時もベッドの上に座って本を読んでいた。


「私はエルーゼ。以前は王国で騎士をしていた。奴隷になった理由は……ミスだ」
「「騎士……」」


王国の騎士、というのは珍しい物なのだろう。名の無い女性達が驚きの声をあげていた。


「僕はパラリア。人族だけど妖精族に育てられたから常識は持ってない。奴隷になった理由は戦いに負けたから」
「私はツルギ……気づけば奴隷になってた」


それぞれ自分の紹介を簡潔に終わらせた。奴隷になった理由なんかを言わなければならないのだろうか。


「はい! フローラさん、エルーゼさん、パラリアさん、ツルギさんよろしくお願いします!!」
「「よろしくお願いします」」


俺も周りに合わせて「よろしく」と呟いた。


「じゃあ、このテーブルの……私から時計回りに自己紹介。その時に皆で名前を考えようね」


時計回り……じゃあ俺は丁度半分くらいに回ってくるな。


「私はユキ。勇者やってます!」


初めて勇者さんの名前を知った。ユキさんか……俺の前世にもそんな名前あったな。


ーーーーー


その後、1人1人が軽く自己紹介をする度に皆で名前を考えていった。最終的に多数決でどれが良いか決めるらしい。


ㅤそしていよいよ、俺の番が回ってきた。


「えっと……奴隷になった理由は……気づいたら森にいて、突然現れた人達に攫われました。名前、よろしくお願いします……」


俺の自己紹介に、ユキさんが何か言いたそうな表情だったが、すぐに名前を考え始めた。


ㅤ俺の種族、鬼人族にちなんだ名前を付けたい人達が多くいるようで、様々な名前が飛び交った。
ㅤ色々と気になる名前もあり、その中でどんな名前になるのかとても気になった。


「じゃあこの最後にこの2つで多数決。さっきみたいに片方の手を挙げてね。せーの」


沢山の名前の中から、ついに決まった。


「じゃあ君の名前は今日から、ニオちゃん!」


鬼だからそれをひっくり返してニオ。とてもシンプルだけど覚えやすくて俺は好きだ。


「ニオ……ニオ……」


忘れないように何回も自分の名前を呟いた後。お礼を言って次の人の自己紹介に変わった。


ーーーーー


「ふぅ〜……皆の名前つけ終わったね! 今日から私たちは、家族! みんな仲良くしていこうね! 
ㅤおやつはもう食べたかな。また自由時間だから、好きに遊んでいいよ」


自由時間がやってきた。


「ニオ! 良い名前もらって良かったね!」
「シュリさん、ありがとうございます」


同じ魔族仲間の女性は、シュリという名前が与えられた。


「ニオちゃ〜ん!」


何故かユキさんまでやってきた。
ㅤどうして俺は人を寄せ付けるのだろうか。


「あ、シュリさん」


どうやら俺の近くにくるまでシュリさんに気づかなかったようだ。


「名前を付けてくれてありがとうね。ユキさん」
「お礼なんていりませんよ! もう家族なんですから!」
「あの……ユキさん」
「どうしたの?」


俺は自己紹介の時に気になった事を聞いてみた。


「あの時……俺の自己紹介の時、何かダメだった?」
「あ、違う違う。ちょっと気になったんだよ、捕まる前の話」
「捕まる前……」


捕まる前の話なんて、ほぼ何も無いのだがな。
ㅤ目を覚ましたら森の中に裸でいただけだ。


「どうして森の中に居たのか、心当たりある?」
「心当たり……無いわけじゃない……」
「例えば、前世の話とか」
「前世……!」


この人は俺の前世を知ってるのか? 何故、それを聞くのだろう。


「教えてくれる?」
「は、はい……車……に跳ねられて、気がついたら森にいました」


シュリさんは何がなんだか分かってない様子だが、ユキさんは何か知っているようだ。


「……そうなんだ……」
「これが……どうしたの?」
「ううん、何でもない。教えてくれてありがとね!」


そのまま何も言わずに去っていった。
ㅤ教えてくれても良いのに……気になる。これを聞くために近づいてきたのだろうか。


「前世の話……ってどういう事だい?」
「……知る必要は無いよ」


教えたところで何も無い。
ㅤ俺はとりあえずベッドの上に座って、窓の外を眺め始めた。ユキさんが前世について聞いてきた理由。それがどうしても気になって、ついボーッとしてしまった。


ㅤ気づけばシュリさんは居なくなっていて、ベッドで眠っていた。


「……はぁ……」


1度自分の左手を見て、布団に潜って眠ることにした。
ㅤニオ……ニオ……ニオ。忘れないように呟きながら、お腹いっぱいになった後の心地よさをそのままに、眠りについた。

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