鬼ノ物語

フーミン

4話 種族

「後で名前の無い人達に皆で名前を付けようと思うんだけど、君、何かこう呼んでほしいっていう名前あるかな?」
「名前……名前……」


いつまでも『君』じゃ呼びにくいからな。……でも名前かぁ……何か無いかな……。


「あ、無理に考えなくてもいいよ? 皆で一緒に決めよう」
「そうだね」


俺以外にも名前が無い人っているんだな。
ㅤなんとなく自分に名前が付いたのを想像すると、嬉しくなった。皆からなんて呼ばれるんだろう。皆をなんと呼ぶんだろう。


「暇じゃない?」
「今はただボーッとしてたいかな」
「じゃあ私は他の人達と話してくるけど、大丈夫かな?」
「うん。行ってらっしゃい」


勇者さんは、俺の事をよく気にかけてくれる。嬉しいのは嬉しいんだけど、他の人と話した方が良い。
ㅤ俺なんかと話してたって、何も無いし楽しくもない


ㅤ窓の外で、勇者さんと皆がおにごっこをして遊んでいるのを、ただボーッと眺める。
ㅤ走る度に綺麗な髪がなびく。まるで女神のようだ。


「よっ!」
「っ!?」


突然背中を叩かれて振り返ると、いつも話しかけてくれる女性だった。


「あぁ、ビックリさせてすまないね。私も暇でな、話し相手が君しかいないんだ」
「勇者さんと話したら?」
「そう言うなよ。私は君と話したいんだ」


俺と話したい……? 何故だろう。
ㅤ疑問に思った俺は首をかしげた。


「アンタ、可愛い見た目してるからさ」
「……何歳に見えます?」
「そうだな〜……8から9くらいか?」
「16です」
「じゅっ……は!?」


なんで……俺は幼く見られるんだ。もしかして年齢まで低くなったか?


「あぁ……でも鬼人族なら有り得なくは……ないか」
「鬼人族?」
「アンタ自分の種族も分からないのかい? 鬼人族ってのは、人族とオーガの間。つまり野生化してないオーガだ」


オーガ……それって魔物だったか。記憶のどこかにそんな話があったな。


「俺……魔物?」
「違う違う。鬼人族っていう立派な人間さ」


もしかするとこの世界の種族というのは、アフリカ系だったりアジア系とか、そんな感じなのだろうな。


「他にどんな種族があるんですか?」
「えっとだなぁ……まず人間の基礎となるのが人族だ。人族の中にも黒人や白人って差別化されている。
ㅤ次は獣人族。獣と人族の間の人間で、猫だったり犬だったり、狼や狐なんかで差別されている。
ㅤそして妖精族。これはエルフやハーフエルフがそうだね。エルフは様々な場所に適応して、その度に差別化される。例えば極寒地域にいるとフロストエルフ。みたいな感じだね」


意外と少ないんだな。
ㅤもっとこう……吸血鬼とかそんなのがいるんじゃないかと思ってた。


「まあ鬼人族だったり吸血族ってのは、魔族の部類だね」
「魔族?」
「魔物と人族の間の人間だ。魔物の血が多ければ人族に敵対する事が多いけど……アンタは優しい魔族だ」


魔族と聞いた時、俺がここに居ても良いのかと疑問に思ったが、案外優しいんだな。
ㅤもっと酷い仕打ちを受けるのかと思った。


「ちなみに私は吸血族だ。ほら、見えるかい?」


そういって口を開いた。
ㅤ鋭い歯が上に二本、先端に小さく穴があるのが分かる。これで噛み付いて血を吸うのか。


「魔族同士、仲良くしような」


そういって肩を組まれた。
ㅤなんだか友達が出来た気分だな。嬉しい。


「あっ……」
「どうしたんだい?」
「魔物がいるって事は、魔法もあるんですか?」


魔法の事を思い出した俺は、早速質問してみた。


「まあ……あるにはあるね。でもほぼ無いような物だよ」
「どういうことですか?」
「最近の教育では、魔法に頼らず自分の力で生きる。っていう教育方針でね。どこの家庭も魔法を教える事は無いんだよ。
ㅤだから、今の世の中で魔法を使える人は少ない。使えたとしても生活に必要な事だけだ」
「……そうなんですか……」


じゃあ俺個人で魔法を覚えるしかない。もしかすると勇者さんが魔法を使えて、教えてもらえるって事があるかもしれないな。


「はぁ〜……」


勇者さんが汗びっしょりで帰ってきた。


「勇者さん、魔法教えてください」


早速頼んでみた。


「す、すまないね勇者様。無理言ってしまって……」
「ん? 私魔法使えるから良いよ?」


おぉ! 魔法使えるのか!


「でも、魔法は危険だからね。皆と一緒に勉強しようね」
「え……分かった」


結局皆と一緒じゃないとダメなのか。出来れば……俺だけに……なんてワガママ言えないもんな。
ㅤ素直に感謝しよう。


「さっき、この子に種族の事を教えたんだ」
「あっ、ありがとうございます」
「にしてもビックリしたよ。16歳だって」
「じゅっ!?」


勇者さんが俺を見てビックリしている。
ㅤそして数字を指で数えながら、俺の姿をチラチラと見ている。


「大人になりたい年頃だもんね〜」


そういって俺と同じ目線になり、頭をよしよしと撫でてきた。


「ち、違うもん」
「はい。もう大人だもんね」


なんだろう……この可愛い子を見る目が嫌に思えてきた。


「そろそろおやつにするよ〜!」


おやつ!?
ㅤ俺はどんな美味しい物が食べられるのかと、一瞬で気分を切り替えて笑顔になった。

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