鬼ノ物語
3話 天国
気づけば、俺は木製の部屋の中のベッドで寝ていた。
ㅤ周りにもいくつかのベッドがあり、その上に女性達が眠っている。皆助けられたのだろうか。それとも男達にまた捕まったのだろうか。
ㅤ拘束はされていないけれど、もしかすると部屋から出られないのかもしれない。
ㅤこのままここで寝ていれば、いつか男達がやってきて俺の角を切り落とすのかもしれない。
「に……逃げなきゃ……」
そう思うと、全身が恐怖で震え始めた。
ㅤ誰にもバレないように動きながら、唯一の出口であろう扉へと向かっていく。周りを見ないよう、窓から見られないよう姿勢を低くして。ゆっくりと。
ガチャッ
「ひぃっ!? ごめんなさいっ! ごめんなさいっっ!!」
誰かが来た。殺されない為に、逃げ出そうとした事をすぐに謝った。
「大丈夫だよ。もうアイツらはいない」
「あ……」
しかし、俺の前に居るのは1度地獄で出会った女性だった。
ㅤその人は俺を優しく抱きしめると、背中をよしよしと撫でてくれた。それだけで心が落ち着いて、安心感に包まれた。
「うっ……うぅ……っっ……」
「怖かったよね……辛かったよね。でも、もう大丈夫」
その人は俺の涙が枯れるまで、優しく声をかけてくれた。
ㅤその人の声や一言一言が心地よくて、ついウトウトしてしまった。
「っ……こ、ここは……?」
何とか意識をハッキリさせて、場所を聞きだした。
「私の家よ。ここは怖い人達は来ないから、安心して」
「本当に……?」
「本当に」
ここに怖い人が来ない。それが本当なら、ここは天国だ。無事に天国に来たんだ。
「君、名前は?」
「覚えてない……気がついたら森の中にいて……そしたらアイツらが……っっ」
思い出すだけで恐怖が蘇る。苦しみや痛みが、今もハッキリと覚えている。
「思い出さなくていいよ……ごめんね」
「……うん……」
「皆が起きたらご飯にしようか」
「ご飯……」
「美味しいご飯をお腹いっぱい食べようね」
美味しいご飯……本当に食べれるのだろうか。
「嘘じゃない?」
「嘘じゃないよ」
「じゃあ……食べてもいいですか……?」
「好きなだけ食べていいんだよ」
良かった。やっぱりここは天国だ。
ㅤ俺の頭の中は美味しいご飯の事で一杯一杯になり、しばらくボーッとしてしまった。
「そうだ。君だけ先に食べさせてあげる」
「! やったっ!」
皆が起きるまで待たなくて良い事になった。
ーーーーー
「着いてきて」
「ど、どこに行くの?」
この女性は、俺の部屋の外へと連れ出そうとし始めた。
「ご飯を食べるところだよ」
「ここが良いです……出たくないです」
天国から出たくない。その思いだけだった。
「……じゃあここで食べる?」
俺は静かに頷いた。
ㅤすると、女性が何やらテーブルに手を乗せた。その手は白く光っており、とても神々しかった。
ㅤ地面から皿に入ったスープとスプーン。美味しそうなお肉にフォーク。そしてパン。
「お代わりはいくらでもあるからね」
「食べて……いいんですか?」
「いいよ」
その女性は優しく微笑んだ。
ㅤ何から食べよう。スプーンとフォークを両手に持って悩む。
「パンを小さくちぎってスープに浸けて食べると美味しいよ」
言われたとおりに小さくちぎって、スープに全部入れた。
ㅤそれをスプーンで掬って口の中に入れると、フワッとしたパンを噛むほどスープの美味しさが口に広がって、飲み込むと全身が暖かくなった。
「白いのより美味しい……」
「白いの……」
いつも男達が俺の口に入れてくるヤツよりも遥かに美味しかった。美味しすぎて、つい笑顔になる。
「良かった。やっと笑ってくれて」
「あ……ごめんなさい……」
「いいよ。もっと笑おう、その方が楽しいよ」
「楽しい……」
気づけば俺は、楽しいという感情が無くなっていた。
ㅤ前までは小さな事でも楽しめたのに、楽しむ事が苦痛に変わっている。
「楽しくない?」
「いっ、いえっ! 楽しい……です」
でも、楽しいと思うことにした。
「あ、他の皆が匂いで起きたみたい。皆にも美味しいご飯食べさせるから。ちゃんと座って食べてるんだよ」
「はい」
起きてきた人達の中で最初に声をかけてくれたのは、地獄でも話しかけてくれた黒髪の女性だった。
「美味しそうなもん食べてるねぇ」
「……どうぞ」
「あぁいや! それはアンタのだ。いま勇者さんが1人1人に配ってるから大丈夫だ」
やっぱりあの女性は勇者なのか。じゃあ……皆のヒーローだ。
ㅤボーッと勇者を眺めていると、視線に気づいたのか、こちらを見てニコッと微笑んだ。
ㅤつい恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
ーーーーー
皆が美味しいご飯を食べた後、自由がやってきた。
ㅤベッドで眠りにつく人。部屋の隅で本を読む人。ただボーッと座り込む人。仲良く会話をしている人。外に出て走り回る人。
ㅤ俺はと言うと、ただボーッと座っていた。
「調子はどうかな?」
勇者が隣に座ってきた。
「元気です」
「良かった。何かしたい事とかある?」
したい事……何が出来るのか分からない。
「なんだろう……」
「例えば……皆とお外で遊んだり、おままごとしたり」
「おままごと……そんな歳じゃないよ」
そういうと、勇者は頭の上にハテナマークが浮かびそうな表情をした。
「8歳くらいでしょ?」
「そう見えます?」
「ほら」
勇者がどこからか鏡を取り出した。
ㅤそれを覗き込むと、俺はビックリしてしまった。
ㅤ黒髪が肩まで伸びた顔には、額に角がある。ボーイッシュな顔付きではあるが、幼さが残っている。
ㅤ何より、体が小さい。細い手足に小さな胸。身長も140cmくらいだろうか。
「もしかして、自分の姿も見たことなかったの?」
「う、うん……」
「可愛いよ」
「嬉しくない……」
16歳だというのに……どうして可愛い女の子になってるんだか。
ㅤ周りにもいくつかのベッドがあり、その上に女性達が眠っている。皆助けられたのだろうか。それとも男達にまた捕まったのだろうか。
ㅤ拘束はされていないけれど、もしかすると部屋から出られないのかもしれない。
ㅤこのままここで寝ていれば、いつか男達がやってきて俺の角を切り落とすのかもしれない。
「に……逃げなきゃ……」
そう思うと、全身が恐怖で震え始めた。
ㅤ誰にもバレないように動きながら、唯一の出口であろう扉へと向かっていく。周りを見ないよう、窓から見られないよう姿勢を低くして。ゆっくりと。
ガチャッ
「ひぃっ!? ごめんなさいっ! ごめんなさいっっ!!」
誰かが来た。殺されない為に、逃げ出そうとした事をすぐに謝った。
「大丈夫だよ。もうアイツらはいない」
「あ……」
しかし、俺の前に居るのは1度地獄で出会った女性だった。
ㅤその人は俺を優しく抱きしめると、背中をよしよしと撫でてくれた。それだけで心が落ち着いて、安心感に包まれた。
「うっ……うぅ……っっ……」
「怖かったよね……辛かったよね。でも、もう大丈夫」
その人は俺の涙が枯れるまで、優しく声をかけてくれた。
ㅤその人の声や一言一言が心地よくて、ついウトウトしてしまった。
「っ……こ、ここは……?」
何とか意識をハッキリさせて、場所を聞きだした。
「私の家よ。ここは怖い人達は来ないから、安心して」
「本当に……?」
「本当に」
ここに怖い人が来ない。それが本当なら、ここは天国だ。無事に天国に来たんだ。
「君、名前は?」
「覚えてない……気がついたら森の中にいて……そしたらアイツらが……っっ」
思い出すだけで恐怖が蘇る。苦しみや痛みが、今もハッキリと覚えている。
「思い出さなくていいよ……ごめんね」
「……うん……」
「皆が起きたらご飯にしようか」
「ご飯……」
「美味しいご飯をお腹いっぱい食べようね」
美味しいご飯……本当に食べれるのだろうか。
「嘘じゃない?」
「嘘じゃないよ」
「じゃあ……食べてもいいですか……?」
「好きなだけ食べていいんだよ」
良かった。やっぱりここは天国だ。
ㅤ俺の頭の中は美味しいご飯の事で一杯一杯になり、しばらくボーッとしてしまった。
「そうだ。君だけ先に食べさせてあげる」
「! やったっ!」
皆が起きるまで待たなくて良い事になった。
ーーーーー
「着いてきて」
「ど、どこに行くの?」
この女性は、俺の部屋の外へと連れ出そうとし始めた。
「ご飯を食べるところだよ」
「ここが良いです……出たくないです」
天国から出たくない。その思いだけだった。
「……じゃあここで食べる?」
俺は静かに頷いた。
ㅤすると、女性が何やらテーブルに手を乗せた。その手は白く光っており、とても神々しかった。
ㅤ地面から皿に入ったスープとスプーン。美味しそうなお肉にフォーク。そしてパン。
「お代わりはいくらでもあるからね」
「食べて……いいんですか?」
「いいよ」
その女性は優しく微笑んだ。
ㅤ何から食べよう。スプーンとフォークを両手に持って悩む。
「パンを小さくちぎってスープに浸けて食べると美味しいよ」
言われたとおりに小さくちぎって、スープに全部入れた。
ㅤそれをスプーンで掬って口の中に入れると、フワッとしたパンを噛むほどスープの美味しさが口に広がって、飲み込むと全身が暖かくなった。
「白いのより美味しい……」
「白いの……」
いつも男達が俺の口に入れてくるヤツよりも遥かに美味しかった。美味しすぎて、つい笑顔になる。
「良かった。やっと笑ってくれて」
「あ……ごめんなさい……」
「いいよ。もっと笑おう、その方が楽しいよ」
「楽しい……」
気づけば俺は、楽しいという感情が無くなっていた。
ㅤ前までは小さな事でも楽しめたのに、楽しむ事が苦痛に変わっている。
「楽しくない?」
「いっ、いえっ! 楽しい……です」
でも、楽しいと思うことにした。
「あ、他の皆が匂いで起きたみたい。皆にも美味しいご飯食べさせるから。ちゃんと座って食べてるんだよ」
「はい」
起きてきた人達の中で最初に声をかけてくれたのは、地獄でも話しかけてくれた黒髪の女性だった。
「美味しそうなもん食べてるねぇ」
「……どうぞ」
「あぁいや! それはアンタのだ。いま勇者さんが1人1人に配ってるから大丈夫だ」
やっぱりあの女性は勇者なのか。じゃあ……皆のヒーローだ。
ㅤボーッと勇者を眺めていると、視線に気づいたのか、こちらを見てニコッと微笑んだ。
ㅤつい恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。
ーーーーー
皆が美味しいご飯を食べた後、自由がやってきた。
ㅤベッドで眠りにつく人。部屋の隅で本を読む人。ただボーッと座り込む人。仲良く会話をしている人。外に出て走り回る人。
ㅤ俺はと言うと、ただボーッと座っていた。
「調子はどうかな?」
勇者が隣に座ってきた。
「元気です」
「良かった。何かしたい事とかある?」
したい事……何が出来るのか分からない。
「なんだろう……」
「例えば……皆とお外で遊んだり、おままごとしたり」
「おままごと……そんな歳じゃないよ」
そういうと、勇者は頭の上にハテナマークが浮かびそうな表情をした。
「8歳くらいでしょ?」
「そう見えます?」
「ほら」
勇者がどこからか鏡を取り出した。
ㅤそれを覗き込むと、俺はビックリしてしまった。
ㅤ黒髪が肩まで伸びた顔には、額に角がある。ボーイッシュな顔付きではあるが、幼さが残っている。
ㅤ何より、体が小さい。細い手足に小さな胸。身長も140cmくらいだろうか。
「もしかして、自分の姿も見たことなかったの?」
「う、うん……」
「可愛いよ」
「嬉しくない……」
16歳だというのに……どうして可愛い女の子になってるんだか。
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