不良な俺の趣味が女装な件。

フーミン

10話 退院



「おめでとうマコト君」
「よく頑張ったね」
「あ、ありがとうございます」
 なんとか1人で自由に歩けるようになった俺は、やっと退院できるようになった。


 退院にはシズキが迎えに来てくれて、病院の玄関でお世話になった看護婦さんと握手し、色々と話して身体に気を付けるようにと言われて俺とシズキは帰った。
 帰り道、シズキと一緒に俺がこうなった原因の事故現場に行くことにした。


「流石にもう綺麗にされてるよ」
「だよな。でもあん時はビックリしたぜ」
 鉄骨が落ちてきた時を思い出す。


 あの時はほんの一瞬だったから詳しい事は思い出せないのだが、かなり出血していて沢山の人が集まっていたのは朦朧とした意識の中でも覚えている。


「これで喧嘩できなくなっちまったな……」
「私はアンタに喧嘩してほしくないから嬉しいけどね」
「ま、激しい運動じゃなけりゃボコすくらいなら大丈夫だろ」
「そういうのがダメなのよっ!!」
「痛っ!? 悪化したらどうすんだ!」
 足を蹴られて飛び跳ねる俺を見て、シズキは笑っていた。


 トモキから聞いたが、シズキは俺がいない間ほとんど笑う事がなかったらしい。相当心配していたようで、休み時間なんかは俺の机を見て溜息を吐いていたとか。


「やっぱシズキって俺の事好きなんじゃねぇの?」
「は? 自惚れんな」
「……うっす」
 すっげぇ傷付いた。


 その後家に帰ったのだが、しばらく女装して外を出歩くのはダメだとシズキに注意された。トモキに会ったら、俺の退院時期とほぼ同じ頃に現れて怪しまれる可能性が5%ある、だそうだ。
 トモキなら絶対にありえる。








 女装したい欲求を満たせないまま翌日を迎えた俺は、なるべくいつも通り通学しているのだが周りからの視線が物凄く気になる。
 『ビルの上から落ちてきた大きな鉄骨2つに潰された』 なんて話が広まってればそりゃそうなるよな。


「マコト先輩大丈夫でしたか!?」
「心配しましたっす!」
「怪我とかしてないですか?」
 早速俺の周りに集まってきた。


「大丈夫だよ……俺を誰だと思ってる」
 骨折した事は知られないよう無事だという事を伝えておく。


 俺が学校にいない間、調子に乗っていた奴らも少なくなかったらしいからな。また俺がナンバーワンだって事を知らしめてやらねぇといけねぇ。


 教室に到着して自分の机を見ると、1枚の白い画用紙が置かれていた。


「んだこれ……」
 誰かの悪戯かと思い画用紙を手に取ると、そこにはクラスメイトからのメッセージが色々と書かれていた。


「皆で書いたんだ。先生が書けってね」
 トモキが椅子を後ろに向けて話しかけてきた。


「あの女教師……小学生みたいな事しやがって」
「まあ、マコトが帰ってくるのを待っていた人は多いんだから、素直に喜んであげな」
「……はぁ〜調子狂うな」
 イライラしながら髪をワシャワシャとかいて席に座り、その画用紙を棒状に丸めてバッグの中に詰めといた。


「ああぁぁぁぁあっ! 皆で作ったの雑に使ったね!?」
 このクラスの教師、『三河真理みかわまり』が教室に入ってくるや否や物凄い勢いで俺の席にやってきた。


「なん──」
「怪我は大丈夫? 噂じゃ一部麻痺してるとか。生きてる? ご飯1人で食べれる? 先生があ〜んしようか? あっ筋肉凄い! 大丈夫そうだね!」
「うるせぇっ!」
 身体をベタベタと触ってきて興奮したように話すマリ先生は筋肉フェチという噂だ。その中でも細く引き締まった俺の筋肉が大好物らしく、今のようにベタベタと触ってくる。


「筋肉の付いた喉から発せられる厳つい声っ……やっぱりマコト君が来ないと学校は始まらないよ!」
「お前本当に教師かよ」
「私はどんな生徒だろうと、1人の生徒として大事に扱う! マコト君だって大事な生徒の1人だぞっ!」
 マリ先生と話してると俺が疲れるから嫌いだ。しばらく無視しよう。


「──だから私……は……あれ? お〜いマコト君? 聞いてる? あっまたお得意な無視かな? じゃあ好きなだけ触っちゃおうかなっ? うっひょぉぉ!!」
「いい加減にしろ」
 マリ先生の頭をチョップで叩く。


「あ、ごめんね〜疲れてるよね。じゃごゆっくり!」
 マリ先生は申し訳なさそうに教室の前に戻っていって椅子に座った。


 マリ先生は意外と生徒達からは人気だ。胸は小さいが眼鏡とその個性的な性格と喋りが人気を集めている。普段は髪を団子にして纏めているのだが、ほどいて眼鏡を外せば更に美人になるとかそういう噂がある。
 俺はああいう暑苦しいキャラは嫌いじゃないけど好きでもない。


「朝から大変だね」
「おはようシズキ。寝癖付いてんぞ」
「知ってる。無理しないでね」
「分かってるよ」
 久しぶりにいつもの日常が帰ってきた。

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