不良な俺の趣味が女装な件。

フーミン

9話 リハビリ



 入院生活が始まって2日が経過した。いや、2日しか経過していないと言った方が良い。まだまだ1人で自由に動けるようになるまで時間がかかりそうだ。


 普段歩く時は松葉杖だ。骨折していない左腕で持って、骨折した左足を補うように歩いている。
 シズキが心配したように歩くのを手伝ってくれるけど、お礼を言うと急に怒ったようにどこかへ消えてしまう。学校の放課後に毎日来てくれているのに申し訳ない。


 食事は左手でスプーンを持って食べている。少し前までは看護婦さんに食べさせてもらっていたが、段々と恥ずかしくなってきて自分で食べるようにした。
 そんな努力もあってか左手が器用になった気がする。


 ケイ先輩も工場の仕事が休みの日は病院に来てくれて俺のリハビリを手伝ったりしてくれている。しかし基本的に痛がる俺の様子を見て笑って帰るのだが、先輩はそれで日頃のストレスを無くせているようだ。


 そして今日は学校が休みで、シズキとトモキの2人が見舞いに来てくれた。


「調子はどう?」
「いつも通り暇だよ」
 左手でスマホを弄りながら話をする。


「先輩がいないから最近の学校は荒れてるよ」
「そりゃ良かった。俺が帰ったら全員正してやるよ」
「激しい運動はダメって言われたでしょ」
 シズキに左足をツンと突かれて怒られる。


「俺にとっちゃ喧嘩はリハビリみたいなもんだよ」
「ダメって言ったよね?」
「痛い痛い痛い痛いっ! やめろっ馬鹿!」
 左足を掴まれてミシミシと音がして命の危険を感じた。こいつ俺が弱ってるからって痛めつけてきやがる。


「はははっ、先輩がこんなに大人しい姿を見るのは久しぶりですよ」
「トモキも最近元気ないみたいだけどな」
 シズキから聞いた限りだと、マコちゃんに全然会わなくなって色々心配しているらしい。


「先輩がいないからですよ」
「嘘つくな。好きな女の事だろ?」
 そう言うとトモキは分かりやすく驚いた。


「シズキ、お前誰にも言わないって言ったよね」
「え〜? そうだっけ?」
 仲良さそうにシズキとトモキが話しているのを見て、少しだけ嫉妬してしまった。


「……で、なんで元気ないんだ?」
「前に話してた可愛い子、マコちゃんって色々な病気を抱えてるらしくて、まだどういう病気なのか判明していない病気もあってそれが悪化してるみたいでね」
 また何か聞きたい事が沢山出てきたぞ。


 シズキの方を見るとニヤニヤしながらスマホを弄っていた。


「へぇ〜、それで見舞いには行ったのか?」
「いや。相当気分が沈んでるらしくて、誰にも会いたくないって」
「そうか」
 こりゃ後でシズキに色々とただす必要がありそうだな。




 その後もしばらく話をして、トモキが近くのコンビニに飯を買いに言った時にシズキに聞くことにした。


「どういう事なんだ?」
「どういう事も何も、こうした方が都合が良いでしょ?」
 いやいやいや、俺は自分の女装姿に強くてカッコいい大人の女性ってイメージを持っているんだが、勝手にイメージを変えられては困る。


「勝手に設定作らないでくれるか?」
「大丈夫。次からはアンタとも相談するから」
「シズキってだけで大丈夫じゃないんだけどな」
「あ?」
「すまん」
 やっぱりシズキは怖い。けどそういう強がってる所も可愛いな。


──ガララッ
「ただいま」


 トモキが弁当を買って帰ってきた。


「うぅ〜っす、俺の飯は?」
「アンタは病院の健康的なご飯食べてるでしょ」
「……チェッ」
 目の前で美味しそうな弁当を食べる2人を見て腹が空いてきた。










「ふっっっ……ふっっっ」
 俺は今リハビリ室でシズキとトモキに見守られながら、本気で身体を動かしていた。


 最近は手足の痛みも少なくなってきたが踏ん張りが効かなくなっている為筋肉を付けることを優先して動くようにしている。


「マコト先輩って意外と身体細い方だよね」
「だね〜。病院の服着てるから比べやすいし、結構細い」
 だからこそ女装出来てるんだけどな。


「あの身体のどこからあれだけの力が出てるんだか……」
「流石私のボディーガードってとこね」
 シズキの野郎、絶対俺が聞こえてないと思って好き勝手言ってるだろ。


「次は支え無しで歩いてみましょうか」
「あ、分かりました」
 看護婦さんに言われて支え無しで歩くことになったのだが、最初は看護婦さんに身体を抱きつくように支えられて立ち上がる。これがまあ、恥ずかしい。


「痛くないですか?」
 立ち上がった状態で看護婦さんに聞かれて縦に頷く。


「ではゆっくり手を離しますね。もし危なかったら私の方に倒れてきてください」
 それであわよくば看護婦さんの巨乳を揉もうと思ったけど、シズキとトモキが見てるからできない。


 俺は足に力を入れて支え無しで立った状態を維持する事に集中した。


「っ……」
「あっ、大丈夫ですか?」
 やはり踏ん張りが効かない。左足がガクンと曲がったが、なんとか耐えて体勢を立て直す。


「凄いですよ。そのままゆっくり歩いてみましょう」
 看護婦さんは物凄く心配しながら、俺の腰に今にも触れそうな程の距離まで近付き見守る。


 まずゆっくりと左足を前に出して地面に付ける。


「頑張ってっ!」
 この看護婦さん可愛すぎる。


 今度は左足を地面に付けたまま右足を前に出す。
 力が出にくく、すぐにでも倒れてしまいそうだが根性で踏ん張り続けて右足を地面を付ける。


「すっ、凄いですよ! もう数歩!」
 完全に看護婦さんの手が触れて支えになっているのだが、気にせずにもう少し早い速度で歩く。


「うんっ……そうっ……いっ、行けるっ!」
 この人はスポーツの試合でも見ているのかと思う程熱心に応援している。
 ……あっ、谷間が見えそう。


──ガクンッ
「おうふっ」
「あぁ〜っ……でもかなり歩けるようになってますから、退院までもうすぐですよ!」


 あと少しで見える、という所で膝の力が抜けてしまった。
 しかし、元は身体が麻痺して動けなくなると言われていた俺がここで動けるようになったのは看護婦さんのおっぱいのお陰だ。


「ありがとうございます」
「いえいえ! 少し休みましょう」
 車椅子に座らされてシズキとトモキの元にやってくる。


「マコト君お疲れ〜!」
「いやぁ〜疲れた」
「おっぱいジロジロ見てるのバレバレですよ先輩」
「見なきゃやってらんねぇよ」


 意外と早く退院できそうだ。

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