女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

289話 メイドのお仕事

「それではまず、クロアさんにはメイドの仕事を覚えてもらいます」
「分かりました……えっと」
「リアンです!」


 そう、白い髪でフワフワ尻尾のこの人はリアンさん。それで……


「隣の方は?」
「チヒロ。私もルト様に仕えるメイドだから覚えておくのよ」
「分かりました。よろしくお願いします、リアンさんとチヒロさん」


 リアンさんとチヒロさんと同じメイド服を着て、私は誰もいない部屋にいた。
 家具はそれなりに整っていて、丁度リアンさんの隣の部屋らしい。


「今日からここがクロアさんの部屋になるから、まずは部屋の掃除の方法を覚えてもらいます」
「掃除……頑張ります」


 この部屋は一見綺麗に見えるのだが、細かいところに目をやるとホコリが溜まっていたりしている。自分の部屋になるのなら掃除をするのは当たり前だ。


「マスクを装備してください」
「はいっ!」


 メイド服のポケットに一つマスクが入っており、それをすぐに口に付ける。
 そしていよいよ、掃除の指導が始まった。


◆◇◆◇◆


「はぁっ……はぁっ……そんなにっ……急がせないでくださいっ……」
「もっと早く掃除を終わらせないと、ルト様やサハル様の部屋を掃除する時に間に合わないんですよ!」


 そうは言われても……身体がついてこれないよ。


「でも、一応は綺麗になりましたね」
「そうね。それじゃあ次は廊下の掃除よ」
「廊下っ……」


 私はきっとここで過労死するんだ。もう動けない……。


「こら。座ってたら掃除進まないわよ」
「いいってチヒロ。初日でこれだけ動けたら十分だよ。休ませなきゃ」
「……それもそうね」


 良かった。優しいリアンさんが休ませてくれた。


「それじゃあ私達は掃除を終わらせてくるから、自分の部屋に慣れてね」
「は、はい。ありがとうございます」


 リアンさんとチヒロさんが部屋から出ていったのを確認して、私はベッドの上に倒れ込んだ。


『大事な服がシワシワになっちゃうよ〜?』
「クローゼットにまだあるから大丈夫だよ」


 サタナと会話をするのも慣れてきた。最初こそ驚いていたりしたが、サタナは本当に私を大事に思ってくれてるみたい。


「ねぇサタナ」
『どしたの?』
「私って前はどんな人だったの?」


 なんとなくそんな質問をしてみた。


『そうだね〜……精神的に弱い子だったよ。自己評価が厳しくて、すぐに病んじゃったり』
「病ん……身体が弱かったの?」
『そうじゃなくて、心が弱ったりして悲観的な考えになっちゃったりする事』


 私って臆病な人だったんだ。今の私からは全く想像できないかも。


「じゃあこっちの私は頑張ろうかな」
『その意気だよ。僕も手伝える事は手伝うからさ』
「ありがとう。……サタナって優しいね」


 私の話を真剣に聞いてくれて、まるで……まるで? 私……今誰を想像したの……?


「っ……」
『大丈夫?』
「う、うん……」


 急に頭痛と目眩がしてきた。記憶なんてあるはずないのに、知らない人の顔が出てきて……凄く悲しい気持ちになった。


『どんな人が出てきたの?』
「……もう忘れちゃった」


 気にしない方が一番なのかもしれない。そもそも記憶が戻ってくるなんて有り得ない。だって私はクロアの精神体が具現化した物。


「よしっ、気分を切り替えてリアンさんに渡されたメイド作法の本読もっと」


 私は飽きることなく、本の内容を全て覚えることに専念した。


◆◇◆◇◆


「ル、ルイス。それってどういう事だ?」
「聞くよりも見せた方が早いと思います。例えば……」


 私はパパの能力を確認した後、この中ではパパしか使えない【隠密】を発動する。
 周りの空気が切り替わり、私から発する気配、物音は全て無くなる。


「これはお父さんの能力だよね?」
「あ、ああ……確かに」
「俺がお父さんと玄関で会った瞬間に、使えるようになったんだよ」


 ここにいる全ての人の能力も使うことができる。それに、皆の魔力や身体能力も全て私にコピーされる。
 本当にバグが発生しているような能力だ。


 この能力に気づいたのは、学園の入学式の日。どんどん自分の魔力と身体能力が上がっていくのをステータスで見て驚いた。
 それに、この【バグ】はステータス画面にも表情されない。


「会った人の能力を自分にコピーできる能力を俺は持ってるんです」


 そういうと、パパを含めた皆が驚いた顔を見せ、まるで希望の光を見つけたような眼差しになった。


「クロアを助ける事は可能かっ!?」
「お母さんの身体を傷付けないようにして助けるのは、今の段階じゃ難しいと思う。でももっと色んな生き物と合って良い感じの能力が手に入れば可能だよ」


 パパに笑顔でそういうと、嬉しそうに涙を流しながら抱きついてきた。


「どうかクロアを助けてくれっ……」


 私にママを助けない選択肢なんて無いよ。

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