女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

286話 未知なる道へ



「ちょっと待っててね」


 そう言われて、私はしばらく広い部屋のソファに座って待機していた。
 突然の状況で頭がごちゃごちゃになってるけど、少しだけ落ち着こう。


「リア〜ン! 暖かい飲み物2つ持ってきて〜!」
「は、は〜い! 分かりました〜!」


 部屋の外で誰かと会話しているようだ。
 ふと、この家がどこなのか気になって窓の外に目をやった。


「え……?」


 窓の外には、白い雲がゆっくりと横に動いている。
 ここってどこなの……?


「もうすぐしたら飲み物が来るから。ゆっくりしてていいよ」
「あ、ありがとうございます」


 しばらく下を向いて待っていると、部屋に誰かが入ってきた。
 白い髪に不思議な耳の生えた女性。お尻からはフワフワの尻尾が生えている。


「あれ? お客様ですか?」


 その女性は頭を傾けながら、飲み物をテーブルの上に置いた。


「記憶が無いみたいだから、お世話する事にした」
「ペットじゃないんですから……でもサハル様に許可貰わなくていいんですか?」


 また新しい名前が出てきた。


「あ、サハルに頼んだら記憶戻るかもな!」


 ルトはまるで自分の事のように喜びながら、白い飲み物を一口飲んだ。
 私も飲んでみるか。喉がカラカラだし。


「熱っ……」
「あ、ちゃんとフーフーして飲まないと火傷しますよ」


 飲み物を持ってきた女性がそう言ったので、しっかりフーフーして飲む。
 でも、さっきルトさんはフーフーしなかったけど火傷してないのだろうか。


「サハルは今寝てるだろうし……明日にしようか」
「この方は空いてる部屋に案内した方がよろしいですか?」


 ん〜……この飲み物美味しいな。それに身体の中からポカポカしてきて眠くなってきた。


「いや、心配だし私の部屋で様子を見るよ」
「分かりました。では失礼します」


 部屋には私とルトさんだけになり、部屋の外ではタッタッタッと走る音がする。


「今日はもう遅いし、この部屋でゆっくりするといいよ」
「ありがとうございます。……どこで寝れば……」
「う〜ん……私はソファで寝るから、ベッド使っていい」


 私がベッド? 悪いなぁ……この部屋の主であるルトさんがベッドを使うべきだ。


「私がソファで大丈夫ですよ」
「そう? 分かった。じゃあ何かあったら起こしてね」


 ルトさんは立ち上がって、ベッドの方へ向かった。


「あの! この飲み物は……」
「置いといていいよ」


 良いのか……。


「分かりました」


 とりあえずその場で横になって、目を閉じる。
 なんだか良く分からないけど、明日記憶を戻してくれるみたいだから安心かな?


 沢山の情報が入ってきた為、あっという間に眠りについた。


◆◇◆◇◆


「あぁ〜心配だ……帰ってきたらサタナも居なくなってるし……」
「私その瞬間見ましたよ。突然足元に魔法陣が現れて、気がついたらサタナさんが居なくなっていました」


 クロアが言っていた通り、神魔戦争とやらに向かったのだろう。
 くそっ……何もしてやる事ができないなんて、夫として失格だ。


「無事を祈って待つしかないですよ」
「そうは言っても……はぁ……」


 全く落ち着く事ができず、俺は家中を一日中ウロウロ徘徊していた。




 太陽が下がってきて、暗くなり始めた頃。突然空から爆発音のような音がして、俺達は家の外に出て空を見上げた。


「な、なんだあれ……」


 空に巨大な穴が開いて、そこから人の姿をした者達が大量にこちらへ飛んできていた。


「はぁっ……はぁっ……」


 気づくと、俺の横にクラウディアが転移でやってきている。かなり息切れをしているようだ。


「お、おい……大丈夫なのか?」
「いや……最悪の状況だ」


 クラウディアは額から大量の汗を流し、身体の至る所に傷があった。すると今度は、上からイザナギがサタナを抱えてやってきた。
 いや……サタナの……死体?


「お前ら、とにかく今最悪な状況になっている。家に上げてくれ」
「お兄ちゃ〜ん! 待って!!」


 なんと、この家にイザナミまでやってきた。夢でしか会ったことがないイザナミが現実にやってくるなんて、初めてだ。


 他にも数名の知らない者達がやってきて、俺とエリフォラは頭の回転が追いつかず、とりあえず家に上げることにした。




 イザナギがサタナの死体をどんとテーブルの上に置くと、状況を説明しだした。


「まずサタナは死んではいない。器が破壊されただけじゃ神は死なないしな。契約主のクロアの身体に戻ってる」
「……っ! そ、それでクロアはどこだっ!?」


 まだクロアが帰ってきていない。
 しかし、それを聞くと全員が苦しそうな顔をした。


「おいっ! 答えろよっ!!」
「クロアはルシファーに負けて身体を乗っ取られた」


 話したのはクラウディアだった。


「ど、どういう事だ?」
「最悪……クロアは死んでいる」
「…………嘘だろ? 嘘だと言ってくれ……」


 クロアが死んだ? じゃあ何だ? こいつらはクロアを見殺しにして逃げてきたっていうのか?


「落ち着け。まだサタナは死んでいない。つまり契約主のクロアも死んでないって事だ」


 イザナギがそう言って、俺は少しだけ安心する。が、それが本当なのか信用できない。




 それから俺とエリフォラは、詳しい話を全て聞いた。


 クロアの身体をルシファーという悪魔が乗っ取ったという事。そのせいで悪魔達が強力になった事。悪魔達から人間界に逃げてきた事。
 クロアは生きているし、サタナは生きている。ただこの世界ではない別世界にいるという事。


「ふざけるなっ!!」
「リグリフさん落ち着いてっ!」


 コイツらを殴ってやろうと立ち上がったが、エリフォラに腕を掴まれた。
 エリフォラも殴ろうかと拳を上げたが、冷静になって再び椅子に座る。


「俺達はどうすればいいんだ。このまま悪魔達がこっちに攻めてきて死ぬのを待てと?」
「そうならない為に、俺達は人間界に降りてきたんだ。別に逃げてきた訳じゃないぜ? 相棒。クロアちゃんも絶対に助け出す」


 さっき撤退したって言ったよな。
 コイツらはクロアとサタナを見殺しにした。今更何ができる。


「とりあえず、この国に全ての神と転生者、転移者を集める。それからだ。しばらく世界は大混乱になるだろう。
 リグリフ、俺達は絶対にクロアとサタナを助け出すと約束しよう」


 クラウディアが、俺の目をしっかりと見てそういった。


「……もし約束を守れなかったら?」
「絶対に守れる。神が数日も全力で準備に取りかかれば全ての悪魔を封印する事も可能だ。準備さえすればクロアを助ける手段も作れる」


 今の俺達には何も出来ない。しかし、どうにかクロアを助ける為にはクラウディアの言葉を信じるしかない。絶対にクロアを返してもらうぞ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品