女嫌いの俺が女に転生した件。
283話 誰だって本当は
「ク、クロア。起きて」
「うぅ〜……ん……サタナどうしたの?」
折角人が気持ちよく二度寝していたのに、サタナが起こしてきた。
「寝てる場合じゃないよ? 下手したら僕とクロア死ぬんだよ?」
「死ぬ? あんなに沢山強い神様達がいるのに?」
睡眠を邪魔されたせいで、若干不機嫌な口調で言った。
「あのね、皆はああやって不安を取り除くように頑張って笑顔を作ってたけど、本当は怖いんだよ?」
「神様なのに?」
するとサタナは、ほんの少し怒ったように眉間にシワを寄せた。
「クロアは……悪魔の恐ろしさを知らないからそんな事言えるんだよ」
普段見せないような表情になったサタナに、俺も少しだけ動揺する。
いつも笑っておちゃらけてるサタナが、こんなに真面目に話すなんて初めてだ。
「じゃ、じゃあ……あの神様が余裕そうにしてたのって嘘なのか?」
「当たり前じゃん。クロアみたいに危機感を持たせないように演技をしてるんだよ。馬鹿なの?」
「ばっ……!」
サタナに馬鹿だと言われ、俺は心の奥底から怒りが湧き上がってきた。
「馬鹿って何だよ! そりゃ私だって怖いよ! でも少しくらい希望持ったっていいじゃん!? 死にたくないなんて皆一緒だろ!?」
「……僕だって死にたくない。それなのに、クロアはそんな僕の気持ちも知らずによく気持ちよさそうに寝てられるね」
お互いにヒートアップしてきた時、寝ていたリグとエリフォラが目を覚まして身体を起こした。
「お、おい二人共! どうしたんだ急に」
「うるさいっ! サタナは私の変わりに死ね!!」
「クロアがそんなに馬鹿だったなんて失望したよ!」
俺はリグに腕を掴まれたが、すぐに振り払って家から出ていった。
◆◇◆◇◆
「はぁ……はぁ……何なんだよっ!」
心を落ち着かせる為に、魔力操作のコツを理解するキッカケになったあの坂にやってきた。
小さい頃、ここにティライと一緒に来た事がある。
「なんで……戦わなきゃいけないんだよ……」
流れる涙を目元が赤くなるまで拭き続ける。
「おいクロア!」
「っ……」
心配したのかリグがやってきた。
「なんだよ……」
「何があったか教えてくれ」
「サタナに聞けば? サタナ怖いんだってさ」
「……」
リグは俺の横に座ったまま、何も喋らなくなった。
「それが何なのかは分からない。でも、クロアも怖いんだろ?」
「……怖いよ……」
改めて口に出した事で、また涙が流れてきた。
悪魔に狙われて。理不尽に戦争に巻き込まれて……危機感を持てって言われて。怖くない人なんているはずがない。
「怖いけど……逃げられないもんっ……」
「……」
リグが力強く抱きしめてきた。でも、この恐怖は消えることがない。
いつか必ずやってくると分かっているから。
「教えてくれないか? ……力になれるかもしれない」
「リグじゃ何もできない……」
「本当にそうか?」
ああ、絶対にリグは何の力にもならない。
「私だって何もできないから当然だよ……」
「教えてくれ」
リグの抱きしめる腕の力が、更に強くなった。
「……悪魔達が沢山攻めてくる……」
「なっ……どこに?」
「神界。そこに私とサタナとクラウディアも行って……戦わなきゃいけなくなった」
それを聞いたリグは静かになった。
こんな理不尽な争いに、何故俺が参加しなきゃならないんだ。
「そう……だったのか……」
「怖いし死にたくない……リグにどうにかできるの?」
助けを乞うように、リグを見る。
「俺は神界には行けない……。でも、サタナと一緒に戦わなきゃいけないんなら、喧嘩なんてしてる場合じゃないだろ?」
俺が……悪いのか? リグは俺を攻めてる。俺が悪い?
最初にサタナが俺に馬鹿って言った。それなのに俺を攻めるリグは何なんだ?
「リグは……サタナの味方するんだ……」
「ち、違う! 味方とかそんなんじゃないだろ」
「知らない。リグは私が死んでもいいんだね……」
「おっ、おいクロア! 待て!」
俺はその場から逃げるように、知らない道へ走っていった。
◆◇◆◇◆
「……死にたくない……」
暗くて誰もいない場所で、ただ一人座って泣き続けた。
こんな所来たことないし、帰り道も分からなくなった。そもそも帰りたくない。
……俺の居場所がない。
「すぅ〜…………はぁ……」
自分を落ち着かせる為に、深く深呼吸をした。
「……っ!」
突然、地面に白く光る魔法陣が現れて、俺の身体は光に包まれた。
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