女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

280話 恋の行方



皆としばらく海で遊んでいると、空は段々と赤く染まってきている。


「もうすぐ帰るか〜」


 リグが身体の水を払いながらそう言った。


「クロアさんは楽しめましたか?」
「うん、皆に迷惑かけちゃったけど充分楽しめたよ」


 エリフォラは未だに浮き輪を使って泳いでいる。それに対して、アリスはなんとか浮き輪を使わずに泳げるようになったみたいだ。凄いな。


「あ、そうだサタナ。イザナギが海の家で話があるって言ってたから、行くといい」
「え? 分かった〜」


 ん? イザナギがサタナに話?


「まさか──」
「し〜……応援してやってくれ」
「うふふ、こっちがドキドキしますね」


 どうやらリグやエリフォラは協力者のようだ。
 イザナギは海の家でサタナに告白するらしい。成功するかは分からないが、成功すれば2人は良い関係になれそうだ。


「それじゃあ俺達は帰る準備でもするか」
「そうだな」


 イザナギとサタナの帰りを待つ間、俺達は荷物をまとめて更衣室で着替えた。
 ここの海水浴場は私服でも中に入る事ができる為、水着のまま待つ必要は無い。勿論泳ぐ時は水着じゃないとダメらしい。


 しばらく待っていると、イザナギとサタナが帰ってきた。


「ただいま〜!」


 サタナが笑顔で手を振っているが、イザナギは良く分からない表情をしている。どうなったんだ?


「サ、サタナ。返事はどうしたんだ?」
「断ったよ?」


 と、サタナは表情を変えずに言い切った。


「でも、いつか立派なSになったら考えるって言ったよ」
「あぁ……それでイザナギ、難しい顔してるのか」


 悲しいのか嬉しいのか良く分からない表情だ。
 というか、サタナの方がSだと思うのだが違うのだろうか。きっぱりと断る辺り、イザナギがMの方が良い気がしてきた。


「それじゃ2人とも着替えたら帰るぞ」


 そうして俺達は、1日の海水浴を終えた。


◆◇◆◇◆


「お父さんお母さんただいま〜」


 家に帰ってくると、ミリスとバルジは紅茶を飲みながらまったりしていた。


「おかえり。楽しめた?」
「うん、楽しかったよ」


 スライム事件については言わない事にした。


 その後、夕食を食べながら皆の海の思い出話を話した。特にアリスが泳げるようになった話は凄く盛り上がった。
 アリスは泳ぎの才能があるのかもしれないと、エリフォラがべた褒めする程だった。


◆◇◆◇◆


 次の日の朝、リグにとある物を渡された。


「新聞らしい」
「新聞かぁ〜、この国もついにニュースが出来たか」


 リグに渡された新聞を読んでみると、ダンジョンでの転生者や転移者の活躍だったり、人気のお店なんかが書かれていた。
 更に、昨日の海水浴場での事件についても書かれていた。


「順調に転生者が集まってきてるらしい」
「おぉ〜ベリアストロ達忙しくなりそうだな」


 手伝いに行きたいが、行きたくない。転生者の中には俺を知っている人が何人かいるはずだ。もしそんな奴らと会ってしまったら……文句を言われるに違いない。
 息を潜めて、ひっそりと生活した方が楽そうだ。


「クロア〜! 大変だよっ!」
「ん?」


 そんな事を考えていると、二階からサタナが焦った様子で降りてきた。


「また魔力が抜けてってる!」
「何?」


 すぐに魔眼を使って窓から空を見上げる。


「なっ……!」


 空には、以前見たような渦が再び魔力を吸い上げていた。
 悪魔達の仕業だと言われている渦。この渦は吸い上げた魔力を大きな魔法に使うんだとイザナギに聞いた。


 もしかすると、ついに悪魔達の魔法が発動するかもしれない。


「とっ、とりあえず家中の窓閉めて!」


 どうする事もできないが、せめて自分達の魔力は守らねばならない。
 俺とリグとサタナで、家の窓全てを締め切った。


 あの渦はいつ消えるのだろうか……。

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