女嫌いの俺が女に転生した件。
279話 最悪の想定
少しだけパラソルの下で横になって休んでいると、リグが飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとう」
「気にするな」
緑色の飲み物を一口飲んで、皆が泳いでる姿を眺める。
……あの時、足にチクッと感じた時にいち早く対応できていれば、皆に迷惑を掛ける事はなかった。俺はなんでこうも人に迷惑をかけてばかりなのだろうか。
「ほら、元気出せよ」
「っ……大丈夫だよ」
リグが優しく声をかけてくれた。もしあの時、リグが気づかなかったら……最悪俺は死んでいたかもしれない。
「なぁリグ」
「うん?」
「私って、陸に上げた時どんな状況だった?」
「……知りたいのか?」
知ったところで何の意味もないのだが、俺の無様な様子を聞いて今後の戒めとするつもりだ。
「どうだった?」
「引き上げた時、サタナがこういったんだ。『心臓が動いてない』 って」
心肺停止か……本当に俺って無能だな。
悔しくなって、視線を下げた。
「だから俺は必死に胸を押した。とにかく力一杯、水を吐き出させる為に押したんだ」
「それで……目を覚ましたのか」
「ああ。意外と簡単にな」
やっぱり海は怖いな。今でもまた溺れるんじゃないかって考えてて、海に潜るのを躊躇っている自分がいる。もしかするとトラウマになってしまったのだろうか。
「ごめんリグ。まだ少しゆっくりしてるから、皆と泳いでていいよ」
「そうか。何かあったら呼ぶんだぞ」
そういって、リグは海にいる皆の元に向かっていった。
「はぁ……」
大きく溜め息を吐いた後、しばらく目を閉じていた。
◆◇◆◇◆
「やっほ」
「ん……イザナミ。って事は寝たのか」
「久しぶりだね〜」
いつの間にか寝ていたようで、俺はイザナミの元に立っていた。
「要件はやっぱり悪魔について、なのか?」
そう尋ねると、イザナミは真剣な表情に変わって真っ直ぐとこちらを見つめてきた。
「うん、最近色んな所で異変が起きてるんだよ。それにクロアちゃんを襲ったスライム。あのスライムはクロアちゃんだけを狙って襲ったみたいだよ」
俺だけを狙って? 別にスライムに刺激を与えた覚えはないのだが、なぜ俺を狙ったのだろうか。
「理由って分かるか? 予想でもいい」
「予想で話すと、昔クロアちゃんって悪魔を封印したよね?」
「ああ、アーガスの身体にいた悪魔」
俺は実際には戦っておらず、俺の身体をサタナに貸して戦っただけだが。
「それが神級の悪魔っていうのは分かるよね?」
「誰に聞いたのかは忘れたが……確かに神級の悪魔だ。まさかそいつを封印した俺を悪魔が狙ってる、とでも?」
そう聞くとイザナミは頷いた。
「神級の悪魔は、更にその下に大勢の悪魔を従えているの。だから、今後ともその悪魔達がクロアちゃんを狙ってくるかも」
それは不味いな。今日のだって死にかけたのに、次もっと酷い何かが来たら本当に死んでしまう。
俺の中で、悪魔に対する恐怖心が芽生えた。
「もっと最悪な場合もあるんだけど……」
「どうなるんだ?」
「……ううん、言わない」
なんで言ってくれないんだ。最悪の場合を想定していれば、俺にも何かできるはずだ。
「どうして言わないんだ? それとも何か言えない理由があるのか?」
「……口に出したくないだけだよ。それじゃあクロアちゃん、今後とも気をつけてね」
「あっ──」
そこで、電源が切れるように意識が絶たれた。
◆◇◆◇◆
「クロア起きろ〜!」
「んん……冷たっ!?」
頬に感じる冷たさに飛び起きると、サタナがクーラーボックスの中の氷を持っていた。
「何してんの……」
「おはよ〜! ほらほら、もうすぐ暗くなっちゃうよ?」
「え?」
空を見ると、太陽がかなり低い位置まで降りてきていた。
「えっ!? なんで起こしてくれなかったの!?」
「だって疲れてるのかな〜って、寝かしといた方が良いのかなって思って」
あぁ〜……起こしてくれてたらもっと海を楽しめたのに。くっ、折角の海水浴が……。
「リグどのくらいに帰るか言ってた?」
「どうだろう? リグ〜!!」
サタナが遠くで泳いでるリグに叫んだ。
「ど〜した〜〜?」
「いつ帰るの〜〜??」
「……暗くなったら帰るぞ〜〜!」
「だって」
じゃあまだ少し時間はあるな! 残り時間思いっきり泳いで遊ぼう!
「よし! サタナ泳ごう!」
「おっ、いいよ〜!」
俺はサタナと一緒に、海へ走り出した。
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