女嫌いの俺が女に転生した件。
278話 パニック危険性物
「リグ〜!」
「おぉ来たか」
イザナギの後ろについていき、リグが待つ場所にやってきた。
そこには地面にシートが敷いてあり、サマーベッドが3つ。ビーチパラソルが1つ立ててあった。そして真ん中にクーラーボックスとそれぞれの荷物。
「お疲れ様」
「どうも。タオルいるか?」
「あ、ありがとう」
こういうのは全部海の家で貰えるんだろうな。
「やっぱり相棒羨ましいよ……」
「はぁ?」
「俺も彼女欲しい」
イザナギは普通にモテそうな性格だけどなぁ……何がダメなのだろうか。
「口で言ってばかりじゃなくて、行動に移さないと相手は振り向いてくれないぞ」
流石リグだ。前世ではイザナギと同じような事言ってたリグも、立派なアドバイスを与えるようになったな。
「ほら2人とも、一緒に泳ぎに行こうよ」
「そうだな。行くか、イザナギ」
「よっしゃあ! 皆の身体を海の中で観察するぞっ!!」
さっきモテそうな性格とか思ったけど、撤回するか。
◆◇◆◇◆
俺とリグは2人で潜ったりして、サタナ達と離れた場所に移動してきた。
「あははっ! やっぱりリグが濡れた時の顔面白すぎる!!」
「だっ、だから笑うなって」
水中から顔を上げた時のリグの顔は本当に爆笑ものだ。すぐに犬みたいに水を振り払うのだが、何度見ても笑える。
「あはははは! ひぃっひひ!」
何度も見る内にツボにハマってしまい、腹を抱えて貰ってしまった。
すると、リグは怒ったのかこんな事を言ってきた。
「よし、どっちが一番長く水中に潜っていられるか勝負だ。負けた方は勝った方の言う事をなんでも聞く」
「ほぉ? なんでも?」
「ああ、なんでもだ。どうだ?」
リグは自信があるのか、ニヤニヤしながら勝負を持ちかけてきた。
「勿論魔法は禁止だよな?」
「ああ。どうする?」
俺だってそれなりに自信はある。それに俺には必勝法だってあるからな。
「よ〜し分かった! じゃあ自分の限界まで潜って、それが短い方が負けって事で」
「じゃあ俺がスタートって言ったら始めるからな」
俺は呼吸を整え、潜る準備を始める。
「……スタート!」
二人同時に海の中に潜って勝負開始だ。リグは真剣に鼻と口を抑えている。
さてさて、早速必勝法を使うか。
──トントン
「?」
リグの肩を叩いて目を開けさせる。その瞬間に、リグの目の前で変顔を見せる。
「っ!」
リグが必死に吹き出さないように口を抑えているが、少しずつ空気が漏れだしているのが分かる。
そう、どちらが最後まで生き残るのか、ではなく。どちらが先に脱落するのかが勝負。ならば脱落させる為には手段は選ばないぞ。
が、やばい。変顔とかしてるせいで息が苦しくなってきた。少し落ち着こう。
リグに変顔を見せたことだし、今は俺の方が有利なはずだ。自滅はしないようにと、目を閉じる。
「……っ?」
ふと、片脚に違和感がやってきた。
なんだ……? 足に力が入らない? さっきサタナと泳いでた時にチクッとした方の足だ。まさかやっぱり何かに刺されたのか?
危険な事になる前に一度上がった方が良いか。
「っ!?」
と、思って一度水面に上がり、リグに伝えようとしたのだが……気づけば全身に力が入らなくなっていた。
ならば魔法で解毒するしかないとイメージを込めようとしたその時、全身に激しい痛みを感じた。
まさかこの毒は魔力によって痛みを引き起こすのか。……しかし、魔法を使わない訳にもいかない。
──ニュルッ
また魔法を使おうとすると、片足に何かが巻きついてきて、そのまま下の方へと引き込まれていった。
なんだ!?
足の方を見ると、岩陰から伸びてきた白い触手が足に絡みついているようだ。
──ごぼっ
不味い、急に水圧が変わって息を吐き出してしまった。
くそ……なんで俺はこういう時に何も出来ないんだ。こんなに便利な力を持っているというのに、サタナのように能力を活かす事ができない。
意識がっ……
早く魔法を使えばいいものの、突然の事態でパニック状態になった俺は、ただもがくことしかできない。
薄れていく意識の中、リグの方に手を伸ばすが気づくはずもなく。そのまま海の深くに引きずり込まれてしまった。
◆◇◆◇◆
「──アッ! ク──起きろっ!」
「っっ! げほっ!! おえ゛っ……」
胸を一気に押されて、肺の中の水を吐き出す。
「あれ……助かっ……た?」
「クロア! 大丈夫かっ!?」
どうやらリグが心臓マッサージをして助けてくれたようだ。リグの手が俺の胸に思いっきり触れている……。
横になっている俺の周りには、大勢の人か心配そうに見ていた。
「だ、大丈夫だけど……」
「良かった。あの時目を開けたらクロアが岩の影に消えていくのが見えたんだ。だからすぐに助け出した」
「そ……か」
なんで俺はこうして人に迷惑をかけてしまうのだろうか。
サタナ達より強いなんて言われたが、それは俺の能力であって、俺自身の技術じゃない。結局俺は誰よりも弱いんだ。
「迷惑かけてごめん……」
「俺がすぐに気づかなかったのが悪い。身体は動くか?」
「……う……動かない」
まだ毒が消えていないようで、身体を動かす事ができない。
「何かに刺されて……それで、身体が動かなくなった。魔法を使おうとすると凄く痛い……」
「クロア、僕がすぐに治すからゆっくりしてて」
あ、サタナ達もいたのか。
リグの後ろには、エリフォラ達が心配そうに俺を見ていた。
「凄く赤い……ここに刺されたんだね」
「リグリフさん、クロアさんは何にやられたんです?」
「本来ここにいるはずのない危険なスライムだ。毒で身体を麻痺させて、そのまま引きずり込んで溶かして食べる」
皆が話している内容を、目を瞑りながら聞いている。
刺された足の部分にサタナが両手で触れて解毒してくれているようで、少しずつ身体の感覚が戻ってくる。
「身体も動けずに魔法も使えないとなると、流石の僕も無理だね」
「ああ。本来あのスライムがいる地域は危険区域とされて入れないようになってる。なんでこの海に……」
周りの泳ぎに来た人達も、怯えたように声を上げていた。「私も刺されてないかな」「次から来るのはやめておこう」 なんて声も聞こえる。
「もしかすると、あの渦の影響かもしれないな」
イザナギがそういった。
「どういう事だ?」
「分からないけど、渦は悪魔が関わってるんだ。その渦が原因でここに危険生物が来たっていうのはかなり可能性がある。悪魔は人を困らせるのが大好きだからね」
悪魔か……。
「クロア、もう大丈夫だよ」
「っ……ありがとう」
なんとか身体が動くようになった。
「どうする……? もう帰るか?」
「……」
俺のせいで、折角の楽しい海水浴が最悪な海水浴になってしまった。
その罪悪感で、胸が苦しい。
「さっきの魔物は僕が退治したからもう大丈夫だと思うけど、クロア次第だよ」
大丈夫だ。
「折角の海なんだし、まだ楽しもう」
「メンタル強いな……分かった」
いや、俺はメンタルなんて強くない。
なんとか元気を取り戻し、俺達は海水浴を再開させた。
この事件のせいで帰っていった人達もかなりの数出たが、もうあの魔物はいないから大丈夫だ。
あの時、俺がもっと冷静になっていれば迷惑をかけることはなかっただろう。
自分の力不足、いや精神的な弱さに悔しさを感じつつも、なるべく楽しむようにした。
「おぉ来たか」
イザナギの後ろについていき、リグが待つ場所にやってきた。
そこには地面にシートが敷いてあり、サマーベッドが3つ。ビーチパラソルが1つ立ててあった。そして真ん中にクーラーボックスとそれぞれの荷物。
「お疲れ様」
「どうも。タオルいるか?」
「あ、ありがとう」
こういうのは全部海の家で貰えるんだろうな。
「やっぱり相棒羨ましいよ……」
「はぁ?」
「俺も彼女欲しい」
イザナギは普通にモテそうな性格だけどなぁ……何がダメなのだろうか。
「口で言ってばかりじゃなくて、行動に移さないと相手は振り向いてくれないぞ」
流石リグだ。前世ではイザナギと同じような事言ってたリグも、立派なアドバイスを与えるようになったな。
「ほら2人とも、一緒に泳ぎに行こうよ」
「そうだな。行くか、イザナギ」
「よっしゃあ! 皆の身体を海の中で観察するぞっ!!」
さっきモテそうな性格とか思ったけど、撤回するか。
◆◇◆◇◆
俺とリグは2人で潜ったりして、サタナ達と離れた場所に移動してきた。
「あははっ! やっぱりリグが濡れた時の顔面白すぎる!!」
「だっ、だから笑うなって」
水中から顔を上げた時のリグの顔は本当に爆笑ものだ。すぐに犬みたいに水を振り払うのだが、何度見ても笑える。
「あはははは! ひぃっひひ!」
何度も見る内にツボにハマってしまい、腹を抱えて貰ってしまった。
すると、リグは怒ったのかこんな事を言ってきた。
「よし、どっちが一番長く水中に潜っていられるか勝負だ。負けた方は勝った方の言う事をなんでも聞く」
「ほぉ? なんでも?」
「ああ、なんでもだ。どうだ?」
リグは自信があるのか、ニヤニヤしながら勝負を持ちかけてきた。
「勿論魔法は禁止だよな?」
「ああ。どうする?」
俺だってそれなりに自信はある。それに俺には必勝法だってあるからな。
「よ〜し分かった! じゃあ自分の限界まで潜って、それが短い方が負けって事で」
「じゃあ俺がスタートって言ったら始めるからな」
俺は呼吸を整え、潜る準備を始める。
「……スタート!」
二人同時に海の中に潜って勝負開始だ。リグは真剣に鼻と口を抑えている。
さてさて、早速必勝法を使うか。
──トントン
「?」
リグの肩を叩いて目を開けさせる。その瞬間に、リグの目の前で変顔を見せる。
「っ!」
リグが必死に吹き出さないように口を抑えているが、少しずつ空気が漏れだしているのが分かる。
そう、どちらが最後まで生き残るのか、ではなく。どちらが先に脱落するのかが勝負。ならば脱落させる為には手段は選ばないぞ。
が、やばい。変顔とかしてるせいで息が苦しくなってきた。少し落ち着こう。
リグに変顔を見せたことだし、今は俺の方が有利なはずだ。自滅はしないようにと、目を閉じる。
「……っ?」
ふと、片脚に違和感がやってきた。
なんだ……? 足に力が入らない? さっきサタナと泳いでた時にチクッとした方の足だ。まさかやっぱり何かに刺されたのか?
危険な事になる前に一度上がった方が良いか。
「っ!?」
と、思って一度水面に上がり、リグに伝えようとしたのだが……気づけば全身に力が入らなくなっていた。
ならば魔法で解毒するしかないとイメージを込めようとしたその時、全身に激しい痛みを感じた。
まさかこの毒は魔力によって痛みを引き起こすのか。……しかし、魔法を使わない訳にもいかない。
──ニュルッ
また魔法を使おうとすると、片足に何かが巻きついてきて、そのまま下の方へと引き込まれていった。
なんだ!?
足の方を見ると、岩陰から伸びてきた白い触手が足に絡みついているようだ。
──ごぼっ
不味い、急に水圧が変わって息を吐き出してしまった。
くそ……なんで俺はこういう時に何も出来ないんだ。こんなに便利な力を持っているというのに、サタナのように能力を活かす事ができない。
意識がっ……
早く魔法を使えばいいものの、突然の事態でパニック状態になった俺は、ただもがくことしかできない。
薄れていく意識の中、リグの方に手を伸ばすが気づくはずもなく。そのまま海の深くに引きずり込まれてしまった。
◆◇◆◇◆
「──アッ! ク──起きろっ!」
「っっ! げほっ!! おえ゛っ……」
胸を一気に押されて、肺の中の水を吐き出す。
「あれ……助かっ……た?」
「クロア! 大丈夫かっ!?」
どうやらリグが心臓マッサージをして助けてくれたようだ。リグの手が俺の胸に思いっきり触れている……。
横になっている俺の周りには、大勢の人か心配そうに見ていた。
「だ、大丈夫だけど……」
「良かった。あの時目を開けたらクロアが岩の影に消えていくのが見えたんだ。だからすぐに助け出した」
「そ……か」
なんで俺はこうして人に迷惑をかけてしまうのだろうか。
サタナ達より強いなんて言われたが、それは俺の能力であって、俺自身の技術じゃない。結局俺は誰よりも弱いんだ。
「迷惑かけてごめん……」
「俺がすぐに気づかなかったのが悪い。身体は動くか?」
「……う……動かない」
まだ毒が消えていないようで、身体を動かす事ができない。
「何かに刺されて……それで、身体が動かなくなった。魔法を使おうとすると凄く痛い……」
「クロア、僕がすぐに治すからゆっくりしてて」
あ、サタナ達もいたのか。
リグの後ろには、エリフォラ達が心配そうに俺を見ていた。
「凄く赤い……ここに刺されたんだね」
「リグリフさん、クロアさんは何にやられたんです?」
「本来ここにいるはずのない危険なスライムだ。毒で身体を麻痺させて、そのまま引きずり込んで溶かして食べる」
皆が話している内容を、目を瞑りながら聞いている。
刺された足の部分にサタナが両手で触れて解毒してくれているようで、少しずつ身体の感覚が戻ってくる。
「身体も動けずに魔法も使えないとなると、流石の僕も無理だね」
「ああ。本来あのスライムがいる地域は危険区域とされて入れないようになってる。なんでこの海に……」
周りの泳ぎに来た人達も、怯えたように声を上げていた。「私も刺されてないかな」「次から来るのはやめておこう」 なんて声も聞こえる。
「もしかすると、あの渦の影響かもしれないな」
イザナギがそういった。
「どういう事だ?」
「分からないけど、渦は悪魔が関わってるんだ。その渦が原因でここに危険生物が来たっていうのはかなり可能性がある。悪魔は人を困らせるのが大好きだからね」
悪魔か……。
「クロア、もう大丈夫だよ」
「っ……ありがとう」
なんとか身体が動くようになった。
「どうする……? もう帰るか?」
「……」
俺のせいで、折角の楽しい海水浴が最悪な海水浴になってしまった。
その罪悪感で、胸が苦しい。
「さっきの魔物は僕が退治したからもう大丈夫だと思うけど、クロア次第だよ」
大丈夫だ。
「折角の海なんだし、まだ楽しもう」
「メンタル強いな……分かった」
いや、俺はメンタルなんて強くない。
なんとか元気を取り戻し、俺達は海水浴を再開させた。
この事件のせいで帰っていった人達もかなりの数出たが、もうあの魔物はいないから大丈夫だ。
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