女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

261話 走馬灯として見えるもの



「よいしょっ、と」
「っ!? お、おい! やめとけって!!」
「し〜っ! バレなきゃ大丈夫だって」


 いつの間にか、イザナギは端にある岩の上に登っていた。


「おい降りろ!」


 すぐにイザナギの元に向かい、小声で説得する。


「あっ、この隙間見えるんじゃねえか? ん〜……」


 こ、こいつ……堂々と隙間から女湯を覗きだやがった。


「"胸が湯に浮かぶってどういう事だよ"」
「"ただの脂肪だからね〜"」
「あと少しで見えるのにっ……」


 くっ……見たい……! 男たる者、女湯を覗かずして何を見る。


「……柵の上から覗くの、手伝ってやる」
「おっ! 頼む!」


 イザナギに岩の上に引き上げてもらった。
 念の為に俺もイザナギが覗いていた隙間から覗くが、ここからだと岩が邪魔で見ることが出来ない。
 チラチラと誰かの足が見えるが、惜しいところで見えないようになっている。


「俺を持ち上げてくれ」
「後で俺にも見せてくれるんだろうな」
「勿論だ相棒。さぁ」


 俺はイザナギの腰に手を回し、魔力で身体強化をして上に持ち上げる。


「うっひゃ〜……すっげぇなこれ。モロ見えじゃん……わぁ……」
「お、おい……まだか?」
「待ってくれ。目に焼き付ける」


 モロ見え……くっ、気になる。早く俺にも見せてくれ……!
 焦る気持ちとワクワクで、身体が震えてきた。


「ふはは……すげ。もういいぞ」
「よし、さぁ俺を持ち上げてくれ」
「まかせろ」


 今度はイザナギが俺の後ろに周り、腰に手を回して持ち上げる。


 ぐっと視界が上がっていき、ついに柵の向こう側が……!


「おい、さっきからコソコソ何やってんだ」
「あ……ク、クロア。お前も男湯を覗きに来たのか」


 目の前にクロアがいた。


「な訳ねぇだろ」
「べぼっ!?」


 思いっきり肩にパンチを食らって、勢いよく後ろへ吹き飛んだ。
 あれは確実に……魔力で強化された腕だった……死ぬ。


「あ、相棒! 大丈夫かっ!? 見えたのか!!?」
「イザナギ……一瞬だけしか見れなかったが……今走馬灯として目の前に写ってるよ……」
「あ……相棒ぉぉぉぉおおおお!!!」


◆◇◆


◆◇◆◇◆


「あの馬鹿共、やけに静かだと思ったら……」


 殴った拳を擦りながら、サタナ達の元に帰ってきた。


「あはは、男はそういうもんだよ」
「どうして男性って変態ばっかりなのでしょう……」
「?」
「アリスは知らなくていいぞ」


 とりあえず、さっきのパンチであの2人も懲りただろう。またゆっくり湯に浸かるとするか。
 外も少しずつ暗くなってきて、夜景と綺麗な街並みが見渡せる。ここの旅館は本当に景色が良いな。


「そういや、星って何座とかあるのか?」
「何座? それはなんですか?」


 こっちの世界には星座とかないのか。
 ……しかし、随分と前世の星空と似てるな。もしかしたら見たことのある星座があったりしてな。


 あ……いままで気にした事も無かったが、月って前世の月と同じ模様してるな。偶然か。それとも本当に月には兎がいるのか。


「クロアさん?」
「んっ、ああいや。ちょっと考え事しててな」
「まさかクロア、月に月の都があるなんて話信じてたりする?」


 月の都? そんな話聞いたことすらないな。


「なんだそれ」
「えっ、知らなかったの?」
「なんです? 月の都って」


 どうやらエリフォラも知らないようだ。
 その月の都とやらに兎達が住んでいるとかいうのだろうか。確か、月の表面も裏側もクレーターだらけだって聞いたぞ。


「月の都には、ダンジョンみたいに空間が広がってる話だよ。月の中には、ここと同じように草木が生えてて、そこに人が住んでるっていうお話」
「へぇ〜……空間が……」


 確かに、惑星の中に空間が広がっているって可能性はあるな。
 火山の下に宇宙人がいるみたいな話もあったし。


「面白いな、その話」
「でね、イザナミに聞いたんだけど、そんなの知らない。だってさ」


 ほお、可能性はある訳か。


「っ? アリス大丈夫か?」
「んぇ……?」


 ちょっと長く浸かりすぎたか。


「皆、もう上がろう」
「そだね」


 話の続きは後でするとして、俺達は更衣室に戻って身体を拭いた。


「あ、浴衣だ」


 どうやら銭湯の後は浴衣に着替えるらしい。


「っていうか、服全部無いんだけど」
「汚れてるから従業員の人が持ってったんだろうね〜」


 下着まで全部……まあいいや。
 仕方なく、全員裸の上から浴衣を着ることにした。

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