女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

258話 貸し切り旅館



 しっかりと暖かい服を着て、俺達はセルフィリアと共に転移した。向かう場所はセルフィリアの国。


 一瞬で到着した場所は、とても白くて寒い場所だった。


「寒っ!」
「凄い真っ白!」
「寒いですね……」
「ん……そうか?」


 リグはそこまで寒さを感じていないようだ。皮膚を剥いでやればこの寒さが分かるだろう。


「それじゃあ皆、後ろに見える旅館が見えるよね?」
「ああ、大きいな」


 後ろはかなり大きい旅館があった。建物の向こう側は崖になっていて、中の窓から絶景が見えそうだ。


「ここを皆の為に貸し切ったから、部屋に荷物を置いたらお城まで来てね」
「お城ってどこにあるんだ?」


 リグがセルフィリアに聞いた。


「あそこよ。少し遠いけど大丈夫よね?」


 セルフィリアが指を向けた方向には、最初は雪で何も見えなかったが、ゆっくりと街と大きな城が見えてきた。
 ここからそれなりの距離はあるが、上を見れば城が見える。道に迷わずに行けるだろう。


「それじゃあお城で待ってるね」


 そういうと、セルフィリアは雪になったかのように転移で消えた。


 俺、サタナ、リグ、アリス、エリフォラ、イザナギの6人は、すぐに寒さから逃げるように旅館の玄関から中に入った。


「ようこそ、雪稲荷の湯へ」


 うん、さっきから旅館の方から視線がすると思ってたけど、この人達ずっとスタンバイしてたのか。ご苦労様だ。


 恐らくここの旅館の女将だと思われる、白い狐の女性はゆっくりと頭を上げて微笑んだ。


 すると、着物を着た周りの従業員らしき獣人達がそれぞれバラバラに動き始め、1人は俺達の前にやってきた。


「お部屋に案内しますので、着いてきてください」
「あ、ありがとうございます」


 こういうしっかりした旅館って始めてくるな。前世もそうだけど、基本的に遠くに泊まったりするイベントはサボってたからな。


「クロア、緊張してるか?」
「ま、まあな」


 リグに肩を叩かれて、ビクンと跳ねてしまった。
 後ろを振り返ると、サタナはワクワクした顔で歩いていて、エリフォラは俺を見つめていたのか分からないが、目が合った。
 アリスはイザナギと手を繋いでおり、一緒に歩いてきている。


 皆大して緊張してなさそうだな。


「ここでございます」


 従業員の方が、部屋に入る扉を開いた。


「おぉっ!」
「凄っ……」


 最初に目に飛び込んできたのは、部屋の内装ではなく窓から見える雪景色だった。


「ここはこの旅館で最も綺麗な景色を見ることの出来る、人気の部屋でございます。では失礼します」


 従業員は、帰っていった。鍵は貸し切りだから必要ないのだろう。


 早速中に入って、内装を確認する。


 横長のテーブルが1つ。床は綺麗な絨毯じゅうたんと小さな背もたれが人数分あった。
 テーブルは畳めるように作られてあり、寝る時はテーブルをどかせば良いのだろう。


 ふすまの中に布団と枕が用意してある。


「暖かいから部屋から出たくない……」


 アリスが俺の服を引っ張ってそう訴えてきた。


「正直私もそうだ。でもここに来れたのもセルフィリアのお陰だしな……手伝いに行くしかない。頑張ろう」


 アリスの頭を撫でてやった。


「よし、荷物は部屋の端に置いてから行くとするか」


 一番寒さに強いリグは素早い判断で、早速セルフィリアの手伝いに向かおうと言い出した。


「も、もう少しだけ休まない?」
「セルフィリアが待ってる」


 毛があるからそんな事言えるんだ。この野郎め。


◆◇◆◇◆


 荷物を置いて、さっきより身軽になった俺達は旅館から外に出る。


「城は向こうだ。積もった雪で歩きにくいと思うから、それぞれのペースで来てくれ」


 そうしてリグは歩き始めた。


「はぁ……皆、行こう」


 俺はすぐにリグの追いつき、横に立って歩き始めた。

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