女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

245話 ダンジョンへ向かおう



 国の外に出て、サタナに続いて人工的に作られた道を進んでいく。


「その地図分かりにくくない?」
「最初は僕も分かりにくいって感じてたけど、慣れてくると分かりやすいよ」


 地図には、余計な物が一切書かれていない。ただ続く線と場所の名前くらいだ。
 俺ならすぐに迷子になってしまう。


「到着してすぐにダンジョンに行く訳じゃないから、肩の力を抜いてリラックスした方がいいよ」


 サタナが俺の横にやってきて、腰に片手を回してきた。


「流石戦姫のサタナさん。余裕を見せるなぁ」
「その名前をクロアに呼ばれると恥ずかしいな……」


 ちょっと頬を染めて照れていた。


「そういえば、最近サタナの変な性格でないよな」
「ん? 僕がクロアに苛められたいって趣味と関係してる?」
「ああ。最近のサタナは普通だよな」


 こんな風に普通にしていたら、普通に大人気だろうな。俺でも好きになれる。


「最近はちょっと有名になっちゃってね〜……あんまりそういうの出せないんだよね」
「出さなくていいよ」
「一層の事、ダンジョンの中でオークにでも捕まって冒険者達の前でレイプされよっか。あの戦姫がぁってなるよきっと」


 あぁ〜……サタナの思考がやばい方向になってきた。こんな話を振るんじゃなかったな。


「絶対にするなよ」
「分かってるよ。今日の僕は真面目だから」


 ほんの数秒前にレイプとかいう単語を発した者の言葉とは思えない。


◆◇◆◇◆


 しばらく歩いていると、サタナが立ち止まって地図を確認した。


「もうすぐだね」
「はぁ〜……結構歩いた」


 魔法で口の中に水を出し、それを飲み込んで水分補給をする。この方法は見た目は悪いが便利だ。


「ここから道を外れるよ」


 人工的に作られた道を外れて、木や草が生い茂る森の中に入っていく。
 すると、人の声が聞こえてきた。


「流石に難易度高すぎないか?」
「くそ〜……悔しい」


 男達と、女性の数名いるようだ。


 暗い森を抜けると、大きな山にボコッと四角い穴が空いて、下へ階段ができていた。


「あっ! あれ戦姫のサタナさんじゃね!?」
「マジかっ!? 初めて見たッ!」
「え、凄っ! 私達運いいかも!」


 その近くに、大きなテントの小屋と焚き火。それに集まる冒険者達。
 大体10人くらいは集まっていて、その内の5人は日本人の顔をしていた。女性は2人いて、その2人共日本人だ。


「サタナさん握手してもらってもいいですかっ!」
「うおぉぉ! でけぇっ!」


 厳つい男冒険者達も、サタナに釘付けだ。
 隣で寂しく立っている俺は、ゆっくり焚き火の元に行って心と体を温めることにした。


「あんた、怪力のクロアだろ?」
「っ、覚えてる人がここにもいたか」


 長年冒険者を続けてきたような、少し白髪混じりの髭をしたおじさんが俺の隣に座ってきた。筋肉、魔力量からしてかなりの手練れだ。


「こんなところで会えるとは思わなかったよ。あんた神様だろ」
「どうしてそれを?」


 なるべく右手の十字架を見せないようにしていたのだが、このおじさんにはバレてしまった。


「生き物には皆オーラというのを持っておる。あそこの5人の若い子達もそうだ。最近は凄いオーラを持った人が増えておる」


 それは転生者や転移者の事だろう。


「オーラって……私のはどんな風に見えるんだ?」
「とても神々しい。他とは違う美しいオーラが見える。だが、それをはっきりと言葉に表すのは難しい」


 そうなのか。


「その目、魔眼か」


 おじさんは魔眼についても触れてきた。


「あぁはい。まだ完全に使いこなせてはいないが、便利な物だ」
「気をつけた方が良い。強力な力を持つ者は、更に力を持った者に利用される。時には隠れる事も大事だ」
「ありがとうございます」


 このおじさんもかなり独特な雰囲気を持っているけどな。


「ふぅ疲れた。こんにちはおじさん」


 隣にサタナが座ってきた。


「あれ? 他の子達は?」


 後ろを振り返ると、皆気持ちよさそうに倒れて痙攣していた。
 ……な、何があった……。


「……確かに。噂通り戦姫のサタナよりも、この娘の方が強いな」
「このおじさんオーラが見えるんだって」


 するとサタナは興味深そうに顔を近づけた。


「おじさんもしかして、精霊?」
「ありゃ、バレたか。人に化けてみたのだが、まだまだだったようだな」


 精霊……? え、このおじさん普通の人じゃないの?


「……何を驚いておる。お主も似たようなもんじゃろ」


 た、確かに俺も普通の人じゃないけど……せ、精霊?


「サタナ、精霊って何?」
「精霊っていうのは、その地を守る守り神みたいな物。イザナミとかの下位互換みたいなものだね。小さな神様って言ったら分かりやすい。つまり、このおじさんが精霊って事は、このダンジョンは──」
「そうだ。ワシが作った」


 ほ、ほへぇ〜……なんか凄い。


「自分で作ったダンジョンを遠くから眺めているのも詰まらんと思ってな。やってきた冒険者達と一緒に行くことにした」


 どうやら、たまたま俺がやってきたダンジョンは面白い面子が揃ったみたいだ。
 転移者、精霊、邪神に俺。どうなることやら。


「ここのダンジョンは一筋縄じゃ攻略できんぞ。楽しみだな」


 精霊のおじさんはニッコリと笑っていた。

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