女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

222話 まずい事になった……



「今日はべナード遅いなぁ……」


 いつものように家でべナードを待っているのだが、今日は来るのが遅い。


 いつ来るか分からない訪問者ほどストレスになる物はない。来るなら来る、来ないなら来ないで伝えてほしい。そうじゃないと俺はこのままリビングで無駄な時間を過ごす事になる。


「はぁ……寝る訳にもいかないしなぁ……」


 頬杖をついて外を眺めていても、べナードはなかなか来ない。


──コンコン


 その時だった。やっといつものノック音が聞こえて、俺はすぐに玄関に向かう。


──ガチャッ
「遅すぎるん……だ……誰ですか?」


 早速怒りをぶつけようとしたら、玄関には知らない男の人が立っていた。不審者……?


「あぁ〜……俺だ。べナードだ」
「べ、べナード!?」


 べナードと名乗る人物。見た目はイザナギ程良くはない普通の黒髪の地味顔なんだけど、雰囲気はある。


「本当に……べナード……?」
「ああ。ちょっとまずい事になってな、今日は仕方なく元の姿で来ることになった。いつもエリフォラの姿で来ているから慣れないだろうが、本当の俺はこんな姿だ。……だからって態度変えるなよ」


 変えないけど……意外と普通なんだなって思ってしまった。死神って言ったら、骸骨で黒いローブ。大きな鎌を持って青い人魂が周りを漂う……まあ有り得ないか。


「え、えっと……その、まずい事とは……?」
「前々からこうなるだろうなと予想はしていたが……死神大王に呼ばれた。死神本来の目的に逆らう、反逆罪として俺とお前がな


 死神大王……? 反逆罪…………??


「殺さなければならない人を殺さないようにしてる……から? 私も協力者に?」
「そうみたいだ。死神大王は優しいから何とかなるとは思うが……運が悪ければ2人は死ぬ」
「死ぬっ!? そ、そんなの嫌だよ!」


 俺には大事な家族がいる。それに友人、いやそれ以上の親友もいる。こんなに幸せな人生がここで終わるなんて嫌だ。


「多分大丈夫だと思う……とにかく、一緒に来てくれ」
「そんな……急に言われても……リグには伝えたのか?」
「まだだ」


 行きたくない。もし突然死んでしまうことになったら、皆を悲しませる。


「行きたくない……」
「行かないと余計にまずい事態になる。早めに行った方が身の為だ」
「……もし死んだら……どうしてくれるんだよ」


 俺はべナードを睨んだ。理不尽な扱いに対する怒りを、べナードにぶつけてしまっている。


「死んだら……なんとかリグの元まで連れていく。そこで別れを告げて、逝くしかない。だが死神大王は優しい。何らかの条件を出して許してくれるはずだ」


 どうする事も出来ない。行くしかないのだろう。


「……分かった」


 命が助かることを願って、べナードと一緒に行くことにした。


「今から転移する。いいな」


 俺は静かに頷き、結婚指輪を指先で撫でながら目を閉じた。


◆◇◆◇◆


 転移した先は、大きなお城の前。まるで巨大な兵器のようにゴツゴツした見た目をしている。
 後ろを振り返ると、長く続く道と建物。ここが死神の国なのだろうか。


「お待ちしておりました。大王様の元に案内いたします」


 ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた男が、目の前で綺麗なお辞儀をした。はっきり言って顔は良くない。


「……行こう」


 前の男の人に続いて、俺とべナードは城の中に進んでいった。


◆◇◆◇◆


 ずっとまっすぐ進んでいると、大きな扉の前までやってきた。


「大王様が待っておられます。機嫌を損ねないよう、お気をつけください」
「分かっている」


 大きな扉がゆっくり開いて、扉の先の大きな椅子に座る男の姿が見えた。
 遠くて姿ははっきり分からないが、身体は大きい方だ。頬杖をついてこちらを眺めている。


 べナードの後ろに隠れるようにして、死神大王の前に近づいていく。


 それなりに姿がはっきり見えるようになったところでべナードが立ち止まり、俺はぶつかってしまった。


「ご、ごめん」
「あまり変な行動はするな」


 そう小声で注意されてしまった。


 死神大王は、王の風格漂う立派な顎髭を、骨だけの右手で撫でた。


「遅かったな」
「すみません。説得して連れてくるのに時間をとってしまいました」


 なっ、俺の評価を下げるつもりか。


「ふむ、面白い面白い。お前がクロアだな」
「あ、は、はい」


 王に名前を呼ばれただけで、ビクッと肩を震わせてしまった。
 雰囲気で分かる。この人は化物だ。イザナギでも勝てそうにない程の力を持っている。


 以前べナードから聞いたことがある。


──死神は全ての死を扱う重要な仕事だ。そこらへんの神よりも強いのは当たり前だ。


 しかし、目の前の王はそんな次元じゃない。睨まれればそれだけで死んでしまいそうな程の圧を放っている。


 どうなってしまうのだろうか。

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