女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

213話 この技術、必要ある?



「こ、今回の訓練に筋力は必要ない。相手の力を受け流しながら戦う技術を教えよう」


 必要の無い筋肉自慢をしたのは誰だろうね〜?


「渡されたばかりの剣だけど、これはクロアが持ってくれ」
「分かった」


 武器は必要ないという事か。


「そうだな……まずは分かりやすくどんな技なのか、実際に見せてやろう。剣を鞘に入れたまま攻撃してきてくれ」


 大丈夫なのだろうか。とりあえずイザナギが怪我したらマズいので魔力は使わずに、頭でも狙おう。


「クロア頑張って」


 玄関に座っているアリスが応援の声をあげてくれたので、手を振る。


「じゃあ、行くよ?」
「来い。そのまま嫁になれ」


 上から頭に剣を振り下ろす。


──ヒュン


 という風切り音が聞こえて、このまま本当にイザナギに当たってしまうのではないか、という恐怖心がやってきてしまい、つい力を弱めてしまった。
 が、次の瞬間にはイザナギは俺の後ろに回り込んでいて、俺が持っていたはずの剣がイザナギの手にあった。


「あっ……ぶねぇ。やっぱ魔力無いとギリギリだった」


 ギリギリだったのか。力弱めて良かった。


「って……どうやったんだ?」
「簡単だよ。距離を詰めて剣の持ち手部分を持つ。そのままくるっと回せば自然と剣を奪うことができる」


 攻撃してくる相手の懐にわざわざ飛び込むのか。ハイリスクではあるが、それができれば相手に大きな隙ができるな。


「これって、実際に使えるのか?」
「まあ、昔イザナミと喧嘩した時にな。刀振り回してきたから対処する為に覚えた技だ」


 刀を振り回す喧嘩なんて聞いたこともない。1度イザナギとイザナミの喧嘩を見てみたいところだ。


「で、この技のコツだけど、素早く相手の剣を掴んで身体ごと回転させるのがコツだ。今回は危なくないように剣の持ち手を掴んだが、身体を強化できるなら刀身を掴んでも問題ない」


 まあこの技術も大事だな。でもべナードと戦う時は必要ないかもしれない。
 普通の冒険者と揉み合いになったり、盗賊とあった時はこれを使うことにしよう。


「剣を貸してくれ。ゆっくり攻撃するから、ゆっくりと今俺が言った動きをしよう」
「別に速くても問題ないぞ?」


 速い物を見るのは慣れたからな。


「いや、俺が無理だ。怖くて全力を出せない」
「ビビりだなぁ……私が信用できないか」
「そ、そうじゃない!」
「まあいいよ。ゆっくりしよう」


 そういうと、イザナギが剣を振り上げた。


「ゆっくり降ろすからな。さっき言った動きをなるべく速くしてみてくれ」


 えっと、確か刀身か持ち手を掴んで身体ごと回転だったか。
 手を魔力で強化した後、刀身をグッと掴んで全身を捻らせる。


「おっ、簡単に取れた」


 イザナギの手から簡単に剣が離れて、少しビックリだ。手を抜いてるんじゃないかと思うほど簡単だ。


「回転する時に、そのまま背後に回れると尚良しだな」
「ん〜まあ使えない事はないけど、使い道少ないよな」


 教えてもらっといてこう言うのもなんだが、実戦で使える技術を教えてほしいものだ。


「っ、ちょっと悪い」
「ん?」


 突然イザナギが近くの木影に入ってしゃがんだ。隠れんぼでもしてるのか?


「よう、様子を見に来た」


 べナードが来た。どうやらイザナギはべナードから隠れたようだ。


「あ、久しぶり」
「キマイラとはどうだ?」
「ん、ん〜まあ普通かな」
「そうか。訓練に行き詰まってたりするなら俺に言え、手伝う」


 べナードもイザナギと似たような事言うな。


「じゃあ今度お願いしようかな。今はちょっと自主練してる」


 イザナギがいる事は隠した方が良いだろう。隠れるくらいだし。


「にしては何も成長してないように見えるぞ。明後日くらいに訓練に付き合ってやる」
「おい、どこ見て言ってんだ。成長してるだろ」
「そうか……? 数ミリ縮んだよな」


 コイツは人の胸をなんだと思ってるんだ……少しは優しさを持ってほしい。
 俺は胸元を隠しながら、べナードの片手にある何かに目を向けた。


「ん? それは?」
「ああ、これか」


 ただの袋だが、中に大量の何かが入っている。


「これは魔素を栄養として育つフルーツの木だ。永遠に枯れる事がないし、実がなるのも速い。暇そうなお前にプレゼントだ」
「はぁ……フルーツ。育てろと?」
「大変じゃない。適当に地面に植えてれば勝手に育つ。魔素や魔力量で実の旨みが変わってくる。ここらへんで魔法の訓練でもしてれば旨みが増すだろうよ」


 あぁ〜なるほど。訓練のモチベを上げるためか。


「……意外と考えたな」
「俺は元から考えて行動している。それじゃ、明後日くらいにまた来る。じゃあな」
「あぁうん、また」


 袋を渡したべナードは、すぐに転移で帰っていった。
 種……めっちゃ入ってるけどこんなに必要ないよな。


「アイツがターゲットか」


 草だらけのイザナギがでてきた。


「ターゲットって言い方はちょっと違う。あの身体の本人の命を救うために、取り憑いた死神のべナードを殺さないといけないんだ」
「じゃあ今のがべナードって奴か……あいつ、馬鹿だな」
「……どうして?」


 べナードが馬鹿……? 俺には頭が良いように思えるけど。


「死神の本来の目的は殺すという役目を果たす事。それをわざと果たそうとしなかったら……まあこの話はいい。訓練の続きをしよう」
「……? わ、分かった」


 話の続きが気になったが、聞いても話してくれそうにない雰囲気だったので、仕方なく訓練の続きをすることにした。

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