女嫌いの俺が女に転生した件。
198話 奴の名は。
久しぶりにべナードがやってきた。定期的に訓練の様子を見に来るらしい。
「スキルの使い方はどうだ?」
「少しずつ使い方は分かってきたけど、まだ知らない能力が色々とありそうだな」
今分かっている事は、相手を見つめると俺に対する信仰心を増加させて命令できるようにする事。信仰心が存在しない場合は好意を持たせる。
魔力を視認できるようになり、集中すれば相手の思考も読み取れる。
これくらいだ。
しかし、べナードは元から俺に対する信仰心なんて微塵も存在しないのだろう。命令に従うような気配などない。思考は何も考えていないのか知らないが読み取れない。
「スキル名に "女神の" って付いてるだろ? それもお前の潜在能力。不思議に思わないか?」
「不思議に……まあそう言われると、なんで私が 【女神の魔眼】 なんてスキルを持ってたんだろうな」
名前なんて気にしたことなかったな。
潜在能力っていうのは、生まれた時に決まっていて、それがいつ開花するのか分からない物だ。
俺は生まれつき神だった訳ではない。
「まあ今そんな事考えてても仕方ないでしょ。今日は何しに?」
早速べナードに本題を話してもらうよう言うと。
「やっと1回死んだみたいだからな。色々と聞かせろ」
やっとって言い方は酷いと思うけど、まあ話すか。
◆◇◆◇◆
──俺はその日に倒した狼達と、手も足も出せずに死んだ魔物について全て話した。
「喋る魔物か。ってことは知能があるんだな」
「直接脳内に話しかけてきたんだ。それに……えっと」
「キマイラ」
「そう! キマイラ! キマイラみたいな見た目してんの!」
やっと名前を思い出した……というより、教えてもらってついテンションが上がってしまった。
「そうだな。そいつはキマイラで間違いない」
「へぇ〜死神界って何でもいるんだな」
「何でもいるわけじゃない。キマイラはたまたま遊びに来てただけだろうよ」
死神界に遊びって……ここはそんな楽しい所じゃないぞ。まあ俺を殺して少し楽しかったらしいけど。
「訓練は進んでるか?」
「いやぁ……やっぱり1人で訓練してると成長が分からないから不安になるよ」
本当に俺は強くなれているのだろうか。べナードと何度も戦えばいつか越えれるんじゃないか、とか。
やっぱりべナードかクラウディアが見てくれないと、ただ辛いだけだよな。
「死神界には特別な空気ある。鍛えれば元の世界の2倍の速度で成長する」
「そう言われても……訓練手伝ってくれよ。サボってるかもしれないだろ?」
まあサボる訳はないんだけど、訓練となれば誰か手伝ってくれる人がほしい。
「キマイラに頼めばいい」
「……はぁ? ……いや、できるか……いやいや、無理だろ!」
1度納得した俺しっかりしろ。キマイラは俺を一瞬で殺すことができた。もし 「鍛えてくれ」 なんて頼めば今度はヘビに全身締め付けられて粉砕だよ。
「面白いリアクションするな、お前」
「笑うな! キマイラに訓練してもらうとか、無理だから」
ったく、なんでアホみたいな提案ができるのだろうか。
「まさか1度殺されたからって怯えてるのか?」
「お、怯えてなんかいねぇよ……ただ……ただ?」
「理由もないのに頼まないのはおかしいよな?」
「ぐっ……そうだよ。怖いよ」
また何もできずに殺されるのが怖い。途端にいままで努力が全て無駄だったかのような無力感に包まれる。
俺の人生が、一瞬で崩れ落ちるような物だ。誰だって死ぬのは怖い。
「そうか、怖いか」
「悪いかよ……」
「別に悪いとは言ってない。戦いに恐怖心は付き物だ」
あまりこういう弱いところは見せたくなかった。
「だがな。恐怖心を克服した者ほど怖い物はないぞ?」
「……? 何が言いたい」
「何回死んでもいいから、キマイラに頼んでこい」
鬼だ……いや、死神だ。いつか絶対俺の精神は恐怖で崩壊するに違いない。
「残り8年しか残ってないぞ」
「も、もう1年経ったのか!?」
「ああ。少し急がないと俺に追いつくのは難しいだろうな」
「っ……」
そうだよな……大事な友人の命を見捨てる訳にはいかない。怖いなんて言ってられないよな。
「分かった……キマイラはどこにいるんだ?」
「向かいの山奥にある洞窟の中で暇そうに宿泊してる。急がないと帰るぞ」
「急がせるの好きだよな……べナードって」
ストレスメーターが急上昇してお腹が痛くなりそうだ。
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