女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

172話 愛の再確認



「もうそろそろ帰るといい」
「やだぁ……まだ一緒にいたい」


 自分でも引くほどクラウディアに甘えている俺は、未だに膝枕してもらって暴れていた。


「……そんな姿をリグに見せればいいと思うんだがな……」
「今日は一緒に帰ろ?」
「それは無理だ。ちなみにいまかかっている魔法は、リグが浮気せずにクロアだけを愛するって決めたら解ける」
「それってどゆこと?」


 クラウディアのお腹に顔を埋めてクンカクンカ。フニフニしてて、甘い匂いがする。


「お前は今、リグリフよりも俺の方が好きになってるだろ?」
「うん、だぁいすき」
「そのままリグリフに会えば、アイツは危機感を覚えるだろう。そもそもアイツはクロアとは結婚したままがいいと言っている。まあ、俺の言う通りにすれば良い方向に進む」


 クラウディアの細くて温かい手に、自分の頬をスリスリ。クラウディアの全てが好きだ。爪の形、指の長さ、手の甲、手の平のシワ、腕、肩、とにかく全てが好きだ。


「話、聞いてたか?」
「うん。好き」
「まあ……とりあえず一旦帰ってくれ。もしもリグリフがお前との離婚を認めれば、俺と付き合おう」
「っっっっ!?!? ほ、本当!?」
「ああ。だから帰るんだ」
「分かったっ! 絶対に別れてくる!」


 俺は気合を入れて身体を起こす。


「よし……あれ? クラウディア?」


 気づけば、クラウディアはどこかに消え去っていた。まだ一緒にいたかったが、さっさと帰って別れてこいという意味だろう。
 OK。バッチリ離婚して、俺はクラウディアとの幸せな未来を掴む!!


ーーーーー


ーーーーー


 外が暗くなりきってから、俺は家に到着した。


「あっクロア遅かったね〜」
「夜は危ないですから、気をつけてくださいね?」
「夕食出来てるぞ」
「もう皆食べてるわよ」


 リビングで、サタナ、エリフォラ、バルジ、ミリス。そしてリグが夕食を食べていた。
 リグは一言も喋らずに黙々と食べている。


「いただきます」


 いつもと同じ、リグの横の席に座って夕食を食べ始める。
 皆、俺が少し変わっている事に気づいているようだが、あまり話そうとはしなかった。俺とリグの仲が悪い、と知っているからだ。
 ミリスもバルジも何か言ってやればいいものを……。


 夕食を誰よりも先に食べ終わり、俺はいち早くベッドに行きたかった。
 何故なら、クラウディアの匂い、感触、キス、全てが感覚として残っていて、変な気分だからだ。何をしたくなったのかは分かるだろう。


 部屋を真っ暗にして、俺はベッドで横になる。


 布団を抱きしめて、クラウディアとのデートを思い出すと、自然と幸せが満たされていく。


「クラウディア……会いたいよ……」


 嬉しさと寂しさが合わさった。そして手を下に伸ばそうとした時、部屋にリグが入ってきた。
 無言でベッドの横に座ると、真っ直ぐな目で俺を見て口を開いた。


「これだけはどうしても聞きたい。……今日、こんなに夜遅くまでどこに行ってたんだ? ……いつものように喋らないならそれで──」
「どこって……関係ないだろ」


 クラウディアの事しか見えない今の俺には、リグに対して冷たい態度を取っていた。自分でもあまりの冷たさに驚いたが、もう言葉を撤回する事はできない。


「関係ないって事はない。俺たち夫婦だろ」
「リグだって知らない女の人と昼間から宿屋にいって何してたんだよ」
「なっ……」
「もうさ……お互いに幸せになれるのなら、それが1番いいと思うんだ。だから……離婚しよう? もう私を安心させてくれる人は見つけたから」


 本来の目的とは反対の、離婚を投げかける。その理由は、まだクラウディアを好きになる魔法が解けていないからであり、クラウディアが意図して解いてない。俺とクラウディアが付き合えるのは目に見えている。


「っ…………離婚って……ほ、本気で……」
「私は本気だよ。リグは私じゃ満足できないから他の女の人に手を出したんだよね? クラウ……今の私の相手は全てリードしてくれて、色んな事を教えてくれる。だから私は離婚を選ぶ」


 クラウディアにはキスのテクニック……これから先も色んな事を教えてもらえるだろう。最高だ。
 思い出しただけで、会いたくなって切なくなった。


「やっぱりクラウディアが相手……なのか」
「離婚したら私はこの家を出ていくから」
「まっ、待ってくれ! 離婚は……嫌だ……」


 震えた声でそう言いながら、俺の手を掴んできた。


「浮気したくせにワガママ言ってんじゃねぇよ」
「う、浮気なんてもうしない! 今気づいた! 俺はクロアがいないとダメなんだ!!」


 俺の酷い一言に、リグは涙を流しながらも俺に頭を下げていた。
 すると、一気にクラウディアに対する熱が覚めた。魔法が解けたのだろう。俺はいままでリグに言った酷い言葉を思い出して、泣いた。


「……」
「な、泣くな……もう絶対に寂しい思いはさせない……浮気だってしない……全部謝る」
「本当……?」
「ああ……離婚はしないでくれ」


 男に二言はない。リグが絶対に浮気をしないと確信した俺は、少しだけ心が安らいだ。


「でも……私じゃ満足できないって……」
「クロアはクロアだ。他の人で補えるはずがない……今日からは俺がリードする」


 そう言って、涙を流す俺を強く抱きしめた。


「……ずっと私だけを見てくれるように……満足してもらえるように頑張るから」
「んぐっ!?」


 俺は、クラウディアに教えてもらったキスをリグに試した。無駄な力を抜いて、下でリグの歯茎や舌を舐めていく。そしてそのまま、獣の長い舌と絡ませる。
 お互いにヌルヌルザラザラとした舌の感覚に、ついゾクゾクしてしまう。


 俺が気の済むまでキスをした後、口を離した。


「どう……だった? リグに満足してもらう為に……頑張ったけど……」
「クロア……」
「ひゃっ!」


 今度はリグが、俺を押し倒して服を剥いだ。
 クラウディアよりは明らかには下手で強引なキスに合わせて、俺の小さな胸を優しく揉む。


 その日、俺とリグはお互いの愛と信頼を再確認するように、身体を重ね合わせた。

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