女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

165話 リグと大喧嘩



 依頼達成報酬の金貨1枚。オーガの角21本の金貨15枚。オーガのボスの傷無し死体で金貨5枚。合計21枚の金貨。


「21万円だ〜……」
「大金だね〜」
「色んな物が買えますね」


 ホクホク顔で俺達は家に帰っている。


「その金で新しい剣でも買うか?」
「それはまた今度だな〜。皆で使い道を考えよう」


 クラウディアから貰った金はまだまだあるが、それは無駄使いしないようにしている。自分達で稼いだ金で生活する事が大事だからな。


「いつまでも支給品の鎧じゃアレだろ?」
「いいっていいって。なぁサタナ、エリフォラ」
「そうです。鎧や剣なんて物騒な物よりも、美味しい物を胃の中に入れた方がいいですよ」


 そうだ。物騒だぞリグ。


 家に帰ると、ミリスとバルジがコーヒーを飲みながらのんびり話していた。


「ただいま〜稼いだぞ〜」
「まあ……大きい袋抱えて、それ全部お金なの?」
「21万円。私達くらいの実力じゃないとこれだけ稼ぐのは不可能だろうね〜」


 ニッコリとリグに微笑んだ。


「お母さんとお父さんは、このお金何に使ったらいいと思う?」
「稼いだのはお前達だ。好きに使うといいさ」


 という訳にもなぁ〜21万だ。前世の俺の父親の月の収入より高い稼ぎ。
 そうだな〜……使うの勿体ないな。


「まっ、これは貯金かな〜」


 金があるからって無理に使う必要は無い。高い物を買う必要だってないんだし、いつものように貯めてれば良い。


ーーーーー


ーーーーー


 夕食を食べて片付けを手伝っていた時だ。


──ガッ
「あっぶ!?」


 たまたま座っているリグの足に当たって、俺はずっこけてしまった。
 盛大にコケて皿を割り、俺の手の平に皿の破片が刺さったりと残念な事に……。


「はぁ……」
「ははっ、何してんだ」


 ピクッ


「何してんだ……?」
「あっいや、そういうつもりじゃ……って血が……」
「嫁が夫の足のせいで倒れて、怪我までしたってのに何笑ってんだ」


 コケた恥ずかしさと、リグに馬鹿にされたという屈辱でつい怒ってしまった。


「わ、悪い」
「悪い? そうだよ。お前がボーッと足伸ばして座ってんのが悪いんだよ。謝れよ」
「……ごめん」
「目見て謝れよ」
「……はぁ……」
「な、なんだよ」


 リグが俺を睨んできた。


「お前の不注意だろ? ちゃんと足元気をつけて歩けよ。皿運んでるんだから気を付けないといけないのはお前だよな?」
「はぁ? 皿運んでる人が目の前通ろうとしてんのに、足伸ばしてる方が悪いだろ。皿で足元見えねぇんだよ」
「まあまあ二人とも、喧嘩は良くないよ〜」


 サタナが喧嘩を止めようとするが、俺はもう頭に血が登っている。


「怪我させたんだし謝れよ!」
「勝手に転んで怪我しただけだろうがよ! いい歳して転んだくらいで怒ってんじゃねぇよババア」
「バッ……! ふざけんなっ!!」
「っ……」


 俺は思いっきりリグの頬をビンタした。


 悔しさなのか、それとも手を出した罪悪感なのか。俺は目から涙が出て、どこにもやり場のない怒りや苦しみで今すぐ出ていきたくなった。


「ほら、落ち着いて」
「……サタナまでリグの味方かよ……」
「違うよ。怪我してるんだから治さなきゃ」
「そうだよクロアちゃん。傷口が余計に開いちゃったら時間かかるよ」


 サタナとエリフォラが俺の前にやってきて、喧嘩を止めてきた。


「おいリグ……何下向いてんだよ。なんで俺が悪いみたいになってんだよ!」


 サタナとエリフォラを払って、俺は家出した。
 初めてかもしれない。こうして人と喧嘩したのは。


 手の平に刺さった皿の破片を抜いて、傷を癒す。
 暗い夜道を1人、涙を吹きながら宛もなく進んでいる。


 家出するだけ無駄。それが分かっているのに、今はとにかくリグに会いたくないというそれだけの気持ちで、どこかに歩いていった。


ーーーーー


ーーーーー


 1人で来たのは居酒屋。もう俺も未成年じゃないんだし、酒は飲める。それに会話相手が欲しい。
 そう思った俺は、居酒屋に入った。


「おっ、怪力のクロアちゃんじゃねぇか!」
「どした? 目が赤いけど何かあったか?」
「っ……」


 おっさん達の優しさに、また涙がこみ上げてきた。


「おいおい泣くな。話くらいなら聞いてやる」
「どうする、水でも飲むか?」
「……酒……」
「酒一つ頼む! 金は俺が払う!」


 優しいおっさん3人と同じ席に座る。
 1人は良い筋肉を持った茶髪のおっさん。それなりに顔は整っていて、指輪もしている。
 もう1人は獣人族。猫の獣人族だが男だ。
 あと1人は魔法使いだろう。ローブを着て顔は隠れているが、見える口元でイケメンと判断するのは安易だ。


「怪力のクロアちゃんが泣いてるなんてなぁ。見逃せない」
「ありがとうございます……」


 酒を一口。


「ケホッケホッ……酒ってこんな味なんですね」
「もしかして飲んだ事なかったか?」
「はい」


 だが慣れれば飲めるかもしれない。


「何かあったんなら話を聞かせてくれるか?」
「えっと……結婚した相手がいるんですけど──」


 俺は酒をチビチビ飲みながら、おっさん達にいままでの出来事を話した。


「あぁ〜そりゃ相手が悪い」
「だろ〜? もう許せねぇよ。次会ったらボコボコにしてやる!」
「はははっ! クロアちゃんに殴られたら人溜りもないだろうな!」


 俺は袖を捲り上げて拳を握った。


「もう顔にパンチよ!」
「おぉ〜筋肉凄いね」
「そ、そうか〜? まあ昔から鍛えてたからな〜触るか?」
「いいかい?」


 おっさん達に俺の腕の筋肉を触らせた。


「凄いなぁ……女性でここまで鍛えてる人は初めてみたよ」
「まっ、見た目の割に力は出ないんだけどな」


 なんで身体能力半減なんてついたんだ。魔力なんてどうでもいいから身体を強くしてほしいもんだ。


「おっ、腹筋も割れてる」
「くすぐったいから触る時は触るって言ってくれよ〜」
「ごめんごめん。触っていいかな?」
「もう触っただろ〜? いいよ」


 自慢の腹筋も触らせる。


「負けた〜……」
「はっはっはっ! まっ、努力の結晶だな!」
「クロアちゃんと話してると楽しいよ〜」
「若い子と話す機会ってそうそうないからさ〜」
「そうか〜? まあ私もおっちゃん達と話してて楽しいよ」


 酔っているからかもしれないが、いつも苦手なコミュニケーションも簡単に取れるようになっている。酒の力っていうのは本当に凄いなぁ。



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