女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

159話 訓練という名の虐め



「じゃあお前ら、体の一部残して転移しねぇよう動くなよ」


 死神界とやらに行く為に、俺はその場でマネキンのように固まる。
 すると、一気に視界がグルグルと回って赤い世界にやってきた。


「到着だ。生きてるか」
「ああ。二人とも生きてる」


 ここは草原……なのだが、草や空が赤い。上空には気持ち悪い鳥……? 根っこ? とにかく、巨大な草の根っこのような鳥がバタバタと空を飛んでいる。
 地面には木が二足歩行で歩いていたり、パッと見で山に見えた物も、よく見ると巨大な足でゆっくり動いている。


「ここが死神界……」
「あ、足元には気をつけろよ」
「ん?」


 足元と言われて下を見下ろすと、大きな赤い目をした蝉の顔がギシギシ動いていた。


「うわぁっ!?」


 全身に鳥肌が立ち、一気に痒くなる。身体が拒否反応を起こしているようだ。


 すぐにその場から離れて、クラウディアに抱きつく。


「おいおい、虫程度でビビり過ぎだ」
「お前も最初ここに迷い込んだ時は逃げまくってたけどな」
「それを言うな」


 来て数十秒で帰りたくなったのだが、今から帰ることは許されるのだろうか。
 クラウディアに目線で訴えると。


「お前を鍛える為だ。我慢しろ」
「うぅ〜……」


 泣きそうだ。


ーーーーー


ーーーーー


 その後、べナードに付いていくと一つの村に着いた。


「ここにいるのは全員死神だ」


 謎の素材で出来た建物の屋根なんかで昼寝をしている人達や、こちらを見つめる人達は全員死神らしい。


「死神に憑かれたりしないよね……?」
「クロアはビビりすぎた……いつまで俺の腕にしがみついてる」
「だ、だってこの中で一番頼れるのクラウディアだけじゃないか。べナードは怖いし……」


 クラウディアの腕にしがみつき、離れないように常にくっついて村まであるいてきたのだ。
 見た目は女でも元男。俺と同じ境遇にあるクラウディアは、リグとルイスの次に信頼できる人物だ。


「んじゃ、まずはこの村にある水を飲んでもらおうか」
「水……? なんで? 喉乾いてないぞ?」
「この世界の物を身体に取り入れる事で、動きやすくなる。さっきから身体が動かしづらいだろ?」


 確かに、腕を曲げたりだとかも違和感あったし、息もしにくい。


「こっちに来い」


 べナードに着いていくと、小屋の中に入っていった。


 水の入った桶を渡されて、飲めと言われる。


「毒とか入ってないよね……?」
「毒は入ってないが、この世界特有の物質や菌は入ってるだろうな」


 き、菌……もしもその菌が俺の身体の中で増殖して、俺を食い尽くしていったら……。


「ビビりすぎだ飲め」
「ごぼっ!?」


 桶の中に無理矢理顔を入れられて、口や鼻から水が入っていく。
 やばい。べナードの力が強すぎて頭を上げることができない。息が出来ないし苦しいし、肺に水が入ってむせる度に酸素が無くなる。


「ぷぁはっ……げほっ! かはっ……かっ……」


 なんとか頭を抑えていた手が離れて、頭を上げる。
 息を吸う度に喉がひゅーひゅー音を立てている。苦しい……。


「おい、もっと普通に飲ませてやれよ」
「そうしないと飲まなかっただろうし、お前も飲まなかっただろ」
「……まあな」


 どうやらクラウディアもこんな事をされたらしい。


「クロア、大丈夫か?」


 四つん這いになって酸素を吸っている俺の元にクラウディアが戻ってきて、背中を優しく摩ってくれた。


「……ありがっ……とう」
「ちょっと背中叩くぞ」


──ダンッ


「げほっ」


 背中を叩かれると、体内に残っていた水が全て吐き出された。


「はぁ……はぁ……拷問だ……」


 俺が息を整えている間も、クラウディアは俺の背中を摩ってくれた。惚れそうだ。
 べナードは小屋の奥から大きな剣を持ってきて、俺の前に置いた。


「な……何……?」


 どこかのRPGゲームに出てきそうな程大きい剣は、1人じゃ持てそうにないほど重厚感がある。


「さっきの水を飲んだことで、一時的に魔力循環が良くなってる。その感覚を身体で覚えながら件を持ち上げろ」
「わ、分かった」


 地面に置かれた大剣を、俺は両腕に魔力を集めて持ち上げる。


「魔力の流れは分かったか?」
「あ、意識してなかった。もう一回」


 昔から無意識に魔力を使う癖があるからな。もう一回、今度は意識しながら持ち上げよう。


「んっ……あれ?」


 しかし、意識すると急に持ち上げる以前に魔力を集めることか難しくなった。
 どうして俺は無意識で出来ることが意識して出ないのだろうか。


「決まったな」
「そうだな」


 クラウディアとべナードは、何故かお互いに頷いて俺を見ている。
 2人が立って俺だけ座っている状態だから、まるで2人を虐められてるみたいだな。


「何が決まったんだ?」
「まず、クロアは魔力を意識して動かす事に集中だ。足先、ふくらはぎ、太股、腰、お腹、胸、肩、両腕という順番に魔力を流す練習」


 順番に魔力を……か。これくらいなら簡単に出来そうだな。
 と思ったが、順番に流していくとなるとかなり難しい事が判明した。足先からふくらはぎに移る時、必ず1度魔力が全身に回る。
 何か俺の魔力には癖があるようだ。

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