女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

129話 デート 〜朝〜

 数日後、朝から俺とリグは出掛ける準備をしていた。


「ルイス、今日少しだけ出掛けてくるから、サタナと仲良くしてるんだよ?」
「うん。1人で勉強できる」


 まあ、大丈夫だろう。サタナもああ見えて子供の世話するの好きだからな。


「リグ準備できた?」
「ああ、それじゃあ行くか」


 俺達は、ミリスとバルジにも挨拶して家を出た。


「家を出れば同じ光景なのに、今日だけは何か違うなぁ」


 まるでどこか遠くに旅に行くような感覚。周りの建物を新鮮に感じれる。


「まずは朝飯だ!」
「行く店は決まってるの?」


 朝から胃に重い肉なんか食べたくないから、ちゃんとした店に行けるんだろうな。


「実はこっそり偵察してたんだ。この近くに美味しいケーキ屋がある」
「おぉケーキ! ……先に食べたのか?」
「い、いや! 先には食べてない。そこにケーキを買いに来ている人達に聞いたんだ」


 なるほど、確かにケーキ食べたいな。


「行こうか」
「待て」
「……何?」
「デートだろ? 手を繋ごう」
「っ……分かったよ」


 今日はやけに張り切ってるな……。
 俺は恥ずかしがりながらも、リグの手を握って一緒に歩き始めた。


 周りの魔族達の視線が……凄く気になる。


ーーーーー


ーーーーー


「おっ、ここここ。着いたぞ」
「ほぉ〜随分と緑の多いケーキ屋で」


 買ってすぐ中で食べれるようになっており、来ている人を楽しませる為に観葉植物やらが飾ってある。
 店の名前は 『緑の森』。随分とシンプルだ。が、シンプルだからこそ、この店を好む客も多いんだろうな。


 リグと入ると、カウンターにはエプロンを着た金髪エルフ。ソフィと同じような臭いのする顔で、ちょっとバカっぽい。
 というか俺、いつの間にバカを見分けれるようになったんだ。


「あっ! いらっしゃいませ〜! デート中かぁ……羨ましいなぁ!」
「あはは……」


 リグの手を離そうと手の力を緩めると、リグが強く握ってきた。絶対に手は離さないようだ。


 手を繋いでいる為、近くの適当な椅子にリグと隣同士で座り、テーブルの上にある商品一覧を見る。


「おぉ……」


 流石日本人が作った国。日本で良く見るケーキが沢山ある。
 シンプルに、スポンジに生クリームとイチゴがトッピングされたケーキ。チョコの染み込んだ美味しそうなケーキ、チーズケーキ等色んな物がある。
 中には見たことのないケーキもあるが、それはこの世界の食材を活かして作ったのだろう。どれも美味しそうだ。


「なぁリグ」
「決まったか?」
「そろそろ手を離してくれ」


 これだと食べにくいし、この場にも居ずらい。


「あぁ悪い。俺は決めたぞ、このコーヒーチョコケーキ」
「ん〜……じゃあ私は普通にショートケーキで」
「じゃあ注文してくる」


 リグが席を立って、エルフの店員さんに注文内容を話している。


 なんとなく周りを見渡すと、目が合う人が多い。もしかして俺をずっと見ていたのだろうか。
 食べられるとこを見られるっていうのは嫌だ。だから俺は前世でも外食を嫌っていたんだが、今日はデートだし仕方ない。


「ふぅ〜……」


 1度深呼吸をして気分を落ち着ける。


「うい、もう少ししたら持ってきてくれる」
「あぁ……」
「ん、どうした? 気分悪いか?」
「いや。ちょっと人が多いところには苦手ってだけで問題ない。気使わなくていいよ」


 デートなのに俺のせいでぶち壊しになったら酷いしな。


「大丈夫か?」
「ちょっ!? 抱きつくなっ……!」


 こいつ、周りに人がいると知っていてもイチャイチャしてくる。まさか周りに見せつけてるつもりなのか?


──ガンッ
「お待たせしましたお客様。ご注文のショートケーキです。それと、周りのお客様の迷惑になるので静かにお願いします」


 ほら……額に青筋浮かべた怖いエルフの兄さんが来た。それもリグを物凄い笑顔で睨みつけて。


「すみません……」
「あぁいえ。それではごゆっくり」


 俺が謝ると、エルフの兄さんは普通の笑顔に戻って帰っていった。明らかにリグに対して怒ってるみたいだ。


「ふっ……作戦成功」
「どういう事だ?」
「俺はこんなに可愛い人に抱きつけるほど凄い男だって周りを見下してるんだよ」


 うわぁ……これが男か。


「でもほとんど女性しかいないけど?」


 確かに男性も数人はいるけど、店内の7割は女性だろう。
 しかし、中にいる男性は確実にリグに嫉妬の視線を送っている。


「周りもお前のことを運良く狙おうと思ってんだらうな」
「なるほどね……」


 この俺を男の分際で狙ってるのか。俺はリグ意外に恋愛する気はないというのに。


「……まあ食べるか」
「おう。俺も来たら食べる」
「はい、あ〜ん」
「え」


 俺も周りに見せつけなくなってな。
 目でリグに意思を送ると、何かを感じ取ったのかそのままイチゴを食べてくれた。


「美味いな」
「よし、食べよ」


 まだイチゴは1つあるし、それを丸ごとフォークで刺して一口。


「関節キスだな」
「んんへぇ (うるせぇ)」


 キスくらいいつも……はしてないけど、よくしてるだろ。


 周りを見ると、男達は皆俺の口元に注目していた。
 いや……これが本当に嫌なんだよ。もぐもぐしてるところ見られたら嫌な気持ちになる。
 とりあえず空いた片手で隠しながら食べる。


「おっ、女子っぽい仕草」
「ほえあ (これは) っ……前世からやってるだろ」
「ちゃんと飲み込んでから話すんだぞ」
「はいはい」


 デートする若いカップルが店内でもイチャイチャする理由が分かった気がする。いやでも、若者のデートでマナーのなってないのは分からないがな。
 俺達は最低限、静かに小さな声で話してる。


「お待たせしました。コーヒーチョコケーキです。他にご注文がありましたらいつでもお知らせください」


 まあエルフの兄さん。今度は俺だけを見てニコニコ微笑んでいる。


「では失礼します」


 帰っていく瞬間、リグを一瞬睨んで行った。怖っ……。


「あの人怖いな……」
「お前が言うな。全部リグのせいだろ」
「いや、クロアだってあ〜んしただろ?」
「美少女の特権、ってやつ」


 まあでも、どこかで読んだ本にあったしな。エルフと獣人族は仲が悪いって。
 エルフの神聖な森に、獣人族が入って生き物を食い荒らしていくって。


 まさに今みたいな感じだな。

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