女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

109話 帝国旅行最後の日

 次の日の朝、俺はレヴィと買い物に出た。
 サタナに適当なローブを作ってもらったので、それで全身を隠しながらだ。


 この黒のローブはサタナ特製なので、魔法に対する防御能力が非常に高い。もし魔法で攻撃されたとしても、全て防いでくれる。これで俺の能力とこのローブを合わせれば、物理も魔法も全て防げる事になる。
 更に風通しもかなり良い為、暑い日でもそこまで苦しむ必要は無い。


「キュ〜」
『外を見たいのですが』
『街の人にドラゴンがいるってバレたら騒がれるでしょ?』


 ローブの中では、アノスが俺の腹にしがみついている。可愛い。


「クロアちゃ〜ん! 美味しそうなのあるよ!」
「バカ、名前呼んだら兵士にバレるだろ」


 本当に少しの可能性だが、マローンが兵士を使って俺を探している事が考えられる。この国では常に警戒していた方が良いのだ。


「やあお姉ちゃん達、ここは安いよ〜!」


 果物を売っている店だ。確かに他の店と比べてかなり安くなっているが、そういうのは基本的に品質に問題がある物だ。安心出来ない。


「買わないの〜?」
「今は果物なんていいだろ。とりあえず服を買いたいんだ」
「そっか。クロアちゃん服あんまり持ってないもんね」
「自分で買ったことが無いからな」


 この歳で自分の服を買ったことがないって、どこの娘さんだ。


 それなりに高級そうな服屋に入り、顔だけローブを脱いだ。


「いらっしゃいませ〜」
「「いらっしゃいませ〜」」


 ここは接客もかなり良いな。


「あっちに可愛い服あるよ?」
「シンプルなのでいい」


 前世じゃ黒い服しか着てなかったな。少しはオシャレしてみるか。
 そう思いつつ、俺はシンプルで動きやすそうな服を購入していた。黒い半袖のシャツに黒いズボン。
 これじゃ流石にダメだと思い、俺はレヴィのいる場所に向かった。


「どうしようかな〜」
「可愛い服ばっかりだな」
「でしょ? このフリル付きのワンピースとか、私に似合いそうじゃない?」
「……雰囲気が変わるから嫌だ」


 その身体はティライの身体なんだ。ティライはそんな服着ない。


「なぁレヴィ、服選んだら私の服選びも手伝ってくれないか?」
「いいよ〜! じゃあまず私の服選び手伝ってよ」
「分かった。でもそこまでセンスないぞ?」
「いいよいいよ〜! クロアちゃんの選ぶ服だし!」


 そうか。じゃあ遠慮無く選ばせてもらおう。


ーーーーー


ーーーーー


「これは……なんというか地味なファッションだね」
「そうか? 似合ってると思うよ。それに私とお揃いだ」


 黒ティーシャツに黒ズボン。シンプルイズベスト、見た目より機能性を重視。
 このシンプルな作りこそ、ファッションの原点だろう。


「せめて胸元は目立たせた方がいいよ?」
「そうなのか……あまり目立つと見られるぞ?」
「胸は見せる為にあるんだよ。……でも、クロアちゃん
のそのペンダントで少しは目立ってるね」


 リグに貰ったペンダント。ずっと首から掛けてるけど、目立つもんなんだな。


「とりあえず、シャツの上から何か着れる物を探そう」
「分かった」


 それから俺達はかなりの時間店の中をウロチョロしていた。レヴィがかなり悩んでるみたいだ。


「もうこのままでいいんじゃないか?」
「いや……器を飾れるのは服と化粧だけだよ。器が綺麗になれば中身も綺麗になる。……そもそもこの服自体間違ってるんじゃ……」
「はい……私のセンスが無いんです……」
「キュ〜……」


 レヴィは好きな服でいいのに。


「そ、そんなに落ち込まないでっ! 結局は似合ってればいいんだから! クロアちゃん凄く似合ってるよ!」
「……本当? ただ黒いの着てるだけど」
「それを着こなせるなんて凄いよ!」
「……ありがとう」
「よし! じゃあそろそろ私の服もお金払って出ようか」


 なんだ今の よし! って。確実に俺の機嫌を取っただけで、本心から褒めてなかっただろ。


ーーーーー


ーーーーー


 その後も、レヴィのアクセサリー選びに時間がかかり。疲れきった俺は1度部屋に戻って休んだ。


「暑い〜……」
「キュッキュッ」
『風を起こします』
「ありがとう……」


 アノスが翼をバタバタと動かして、俺の顔に風を吹きかけてくれた。
 サタナも風魔法で全身に風を送ってくれている。というか、サタナと俺の感覚は共有されている為、自分でも暑いと思ってるのだろう。


『そういえばサタナ、最近イザナミ見ないけど何かあった?』
『最近仕事が忙しいって言ってたね。何か、近い内に転生者とか転移者が沢山来るんだとか』


 なんだそれ。


『この前、日本ってとこで大地震が発生してね。それによって空間の歪みと、地下空間から漏れだした魔力によって異変が次々と起きてるんだよ。それで、集団でこの世界に転移されたりする可能性があるんだって』


 大地震が……南海トラフか? まさかそれで転移がねぇ……。


『まあでも、避難生活を送るよりはこっちの世界に来た方が安心かもね』
『だね〜こっちは地震なんて滅多に起こらないし、王国だとホームレスに無償で支援してたりするからね』


 はぇ〜王国太っ腹だな。


『楽しみだな。日本人に会えるのか』
『だから今イザナミが準備してるんだ。そもそも日本人って魔力を持ってないから、魔力と生き抜く為の能力。ついでに転移したり生まれる先の環境も準備してるって』


 凄い忙しそうだな。何なら手伝ってやりたいところだけど、会いに行ったらまたお兄ちゃ〜んに会いたい、なんて言い出しそうだから辞めとこう。


「ただいま〜」
「あ、おかえり」


 レヴィが買い物から帰ってきた。両手に大きな袋を持っている。


「夜に帰るんだけど、荷物そんなに多くて大丈夫か?」
「馬車使うんだし大丈夫だよ!」


 馬車は城にあるらしいんだけど、大丈夫だろうか。マローンがあの馬車に待ち伏せしていたら……まあ、ケイがなんとかしてくれるみたいだし、信じていよう。


「最後なんだし、思い出作ろうよ」
「思い出……? 旅行じゃなぶっ!!」


 突然俺の顔に枕が飛んできた。


「あははははっ! 枕投げ大会だよ!」
「このっっ!」
「弱いよ〜?」
「力が出ないんだよ!!」


 頑張って枕を投げ返すけど、身体能力半減のせいでレヴィに届く前に落ちてしまう。


「キュ〜ッ!」
「あっズルイ!」


 レヴィの投げた枕をアノスがキャッチしてくれた。


「よし、サタナ任せた!」
「ズルいよ3人係で!」
「これも私の力なのさ!」


 レヴィから始まった枕投げレヴィによって終わった。


「終わりっ! 降参する〜!」
「っしゃあ……」
「もう〜……クロアちゃんが一番ノリノリじゃん」
「そ、そんなことない」


 ただ久しぶりに身体を動かしてテンションが上がっただけだ。


 その後、疲れた俺とレヴィは一緒に横になってイチャイチャしていた。

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