女嫌いの俺が女に転生した件。
101話 あまりにも早すぎる
俺はバスタオルを巻いたまま、全員での会議が始まった。
「その悪魔との契約に心当たりはあるのよね」
「ああ。アーガスと初めてあった時に一度触られた。それ以外の人間には触らせた事は……ない」
「そ、そうだな」
「リグリフさんはあるんでしょう? どうして気づかなかったのかしら」
「うぐっ……」
やはりベリアストロには全て見透かされているようだ。
「た、確かにある……が、その時にはそんな模様は無かった」
「ということは、最近になって現れたって事ね」
じゃあアーガスの可能性は低い……?
「悪魔は生贄が無いと復活出来ない事は知ってるわね?」
「本で読んだことはある」
「生贄がもうすぐ手に入りそうになるまで、悪魔は契約の証を隠す習性があるの。これは悪魔にしかできない技よ」
隠すって……それじゃあ、俺はもうすぐ生贄にされる訳か……。
「もしかすると……アーガスはクロアさんの身体に悪魔を呼ぶつもりなのかもしれないわ」
「不味いな……」
いや……俺は命の契約があるから大丈夫だと思うけど……話した方が良いだろうか。
「不味いぞ……アーガスが来る前になんとかしないとクロアが死ぬ……」
リグが物凄い表情で頭を抱えている。
「た、多分大丈夫だと思うよ」
「お前っ……緊急事態なんだぞ!?」
「その……クラウディアと浮遊大陸に行った話。実は誰にも言ってない事があるんだけど……」
「何かしら」
俺は全員に、魔王ルトに会って命の契約をした事を伝えた。
「なるほどな」
「魔王ルトが命の契約をね……にわかには信じられないけど……クロアさんの言うことだから信じるわ」
それでいいのか……まあ疑っても仕方ないしな。
「もし生贄にされたとしても、死ぬことはないと思う」
「後はそこからどうやって悪魔に抗うかだな。もし生き返った後に、中にいる悪魔が暴れだしたら……」
「そのまま魂を破壊される可能性もあるわ」
魂を破壊……マジで神の領域超えてるな。魂壊されたら2度と生き返れないぞ。
「どうしましょう」
「こうなったら、アーガスが悪魔を呼ぶ前に片付けないとダメだな」
「もし悪魔を呼ばれて、クロアさんの中にいる悪魔が目覚めてしまったらほぼアウト」
俺の命はクラウディアとベリアストロの2人が背負っている訳か。
「くそっ……他に何か手はないのかっ……」
「リグリフさん、焦る気持ちも分かるわ。でも、私達に任せて」
「そうだ。リグリフは彼女と一緒に避難しろ。……もし途中で悪魔が目覚めてしまったら、クロアの傍にいてやってくれ」
「っ…………」
リグは、膝の上で拳を握った。ほぼ運任せのこの作戦。俺の死ぬ可能性、2度と生き返れなくなる可能性が大きい。見守るしかない。
「キュー」
『クロア様、大丈夫ですか?』
ネクロドラゴンのアノスが膝の上に乗ってきた。
「大丈夫だよ。2人がなんとかしてくれる」
「キュー……キュッキュ」
『もし悪魔が目覚めてしまったら、私も死力を尽くして共に戦います』
「ありがとう」
アノスの頭を撫でながら、安心感を満たす。
一度死んでも、生き返って戦うチャンスが与えられるんだ。そのチャンスを無駄にはできない。
『あ、クロア。命の契約の効果で、あと一つ何かあるんだけど』
『何?』
サタナが今更話しかけてきた。
『それがよく分からないんだよね。だから、その効果がもし大きければ悪魔を倒せる可能性も……無くはない』
『本当に……?』
『まあ……死ぬ可能性が95%かな。その効果に賭けるしかない』
俺の人生もここまでか……2度と生き返れなくなったら、どうなるのだろうか。
意識もなく、魂もなく。俺という存在はどこに消えるのだろうか。
「とにかく。早めに避難の準備を進めた方が良さそうよ、クラウディア」
「そうだな。馬車ならいくらでもある、全員分をここに運ぼう」
クラウディアが部屋から出ていった。
「……」
「クロアさん、私達を信じて」
「ああ……」
「クロアちゃん死んじゃうの?」
「大丈夫、死なないよ」
「本当?」
「ああ。一緒に避難しような」
「うん」
自分の言葉が全て死亡フラグに聞こえる。
「なるべくアーガスに悪魔を呼び出す隙を与えないようにするわ」
「ふぅ…………大丈夫……大丈夫」
自分に言い聞かせるように、大丈夫と繰り返した。
アーガス、まるで父のように優しい人だった。そんな人が悪魔と契約……更には、俺に会った時から悪魔を仕組んでいたとは……。
「っ……! も、もしかして、他の人にも悪魔の契約が!」
「それは大丈夫よ。さっき全員の身体を調べたけどらクロアさん以外には無いわ」
「良かった……調べた?」
「ええ。たまに身体を触られるような感覚しなかった?」
あぁ……確かに。肩を掴まれたり、胸を揉まれたり……。
「ベリアストロだったのか……」
「ふふふ、死んじゃう前に揉みたくてね」
「不謹慎な事言うんじゃねぇよ」
「り、リグ大丈夫だって……怒るな」
リグはかなり余裕が無いように見える。全身の毛を逆立てて、尻尾はクルッと丸まっている。
「クロア。どんな事があっても必ず俺が傍にいるからな」
「っ……うん」
リグが俺に抱きついてきた。
尻尾がフリフリ動いてる。こんな不安な時でも俺に抱きつけば少しは余裕が出来るんだろうな。
俺は更に強く抱きしめた。
「胸当たってる……」
「リグが先に抱きついてきたんだろ? それに小さい胸だし関係ない」
「普通は本人のクロアさんが1番不安だというのに、リグリフさんがクロアさんに不安を取り除いてもらってるって面白い光景ね」
確かにそうだな。頼りない男だ、リグは。
「男なら胸張って女の傍にいろよ。私の彼氏なんだろ?」
「あ、ああそうだな……はぁ……強い女だなお前は」
「他の女とは違うからな」
その時だった。
「お前ら! もう王国騎士団が来たぞ! 避難しろ!」
「お、王国騎士団!? 全員が来たというの!? 早すぎるわよ!!」
「鎧で洗脳してるみたいだ!」
「み、皆! 早く馬車に乗って逃げなさい!!」
一気に騒がしくなり、俺はバスタオルを身体に巻いたままリグに抱き抱えられ、そのまま馬車へと連れていかれた。
「ふ、服っ!」
「そんな余裕無い! 避難するぞ!!」
リグが寮の前に止まっている馬車の一つに乗った。
満員になった馬車からすぐに避難を始めた。目的地は分からないが、とにかく遠くへと走り出す。
「逃げろ〜っっ!!」
「悪魔だ!!」
「魔王様に任せて逃げるぞ!」
「うわあぁぁぁああ!!」
「悪魔が来るぞ!!」
周りに叫び声や悲鳴が響き渡り、一気に緊張感が襲ってくる。
「クロア、大丈夫だからな」
「り、リグ……」
リグはずっと俺を抱きしめて、離そうとしなかった。これは俺を安心させる為でもあるが、一番はリグ自身が冷静になる為でもあるだろう。
「死なない……」
「ああ。クロアは死なない」
リグが俺にキスをしてきた。ディープ。
あまりに突然のキスに、俺は頭が真っ白になる。
「好きだ」
「…………私も好きだ……」
緊急事態だというのに、俺とリグはラブラブのカップルのように抱きしめあい。キスをし合った。
これが人間の生存本能だ。
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