女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

93話 レヴィアタンの能力

 自分では精神的に弱い方だとは思っていなかった。前世じゃ普通にグロいのは見れたし、特に気にすることはなかった。
 でも、いざ目の前でそれが起きているとなると思考が停止してしまう。


 俺はそれを克服する為に、レヴィアタンの部屋に訪ねた。
 レヴィアタンの部屋にはもう1人住んでいたようで、額に1本の角を持つオーガの女性がいた。


「初めまして、イルガです」
「初めましてクロアです」


 ボーイッシュな顔立ちのイルガさんは、副リーダーらしい。


「レヴィアタン……さん」
「レヴィでいいよ」
「レヴィさん」
「ん〜まあいいや!」


 やっぱりリーダーには敬語を使わないと嫌だ。


「昨日戦闘訓練に参加させてもらったんですけど……」
「うんうん」
「その……グロいのが苦手で、どうしたら克服できますかね?」


 レヴィさんなら何かアドバイスしてくれるだろう。なんせ第2戦闘部隊のリーダーだからな。


「ん〜……慣れ、って言っちゃったらお終いだよね。ねぇイルガ、どうしたらいいと思う? この身体頭が回らなくて……」
「頭が回らないのは最初からだった気がしますけど……そうですね、凄く落ち着いている状態でグロテスクな物を見ればいいと思いますよ」


 落ち着いている状態?


「あぁそう! ほらクロアちゃん! あれだよ!」
「あれ……?」
「えっと……そうレム睡眠! レム睡眠状態でグロいの見たら、きっと慣れるよ!」
「本当に……? というか悪夢見そうなんですけど」
「大丈夫! 私に任せて!」


 レヴィさんは何か方法があるらしい。
 レム睡眠状態でグロいのを見る。それだけで克服できるかは謎だが、とにかく試すしかない。


「私だって神様なんだからね。いくらこの身体の個性が強すぎて、思考が変わっちゃったとしても! 私の魔法は使える!」


 個性が強すぎてって言われてるよ、ティライ。


「まず、クロアちゃんを眠い眠いのウトウト状態にします! ここ横になっていいよ」
「あ、どうも」


 これはどちらがいつも寝ているベッドなのだろうか。匂いからして……レヴィさんだ。
 俺はどうしてこんな事まで分かるようになったんだか……。


「今からウトウト状態にするから、頑張って意識を保つんだよ」
「はい」


 緊張するな。


「……あっ、ズボン履いてたんだね」
「何捲ってるんですか!?」
「いやぁ見たくなっちゃって。魅力的な太股だね」
「本当はこんな服着たくないんですよ……」


 露出が多いと見られるのは当然。そもそも俺は人に見られるのが怖いから、そういうのは嫌なんだ。


「……あ……眠くなってきた……」


 頭が気持ちいい。ホワァ〜っとした感覚がじんわりと、全身に広がっていく。ちょっと油断したら目を閉じてしまいそうだ。


「ほら、目閉じてるよ〜」
「……」


 どうしても瞼が下に行ってしまう。


「じゃあそのまま。今から私が見たグロイのを見せるからね〜」
「っ……」


 とりあえず頷いた。


 頑張って眠気から耐えていると、脳の前側に不思議な感覚がやってきた。


「いま映像を送ってるから、頑張ってみて」
「えっと…………」


 グロい映像を読み取る。


「あ……頭だけ転がってる」
「そう。それは首を剣で斬られた人だね」


 確かにグロイ。けど、今は眠気が勝っていて、不思議と悪い気分じゃない。


「お腹が縦に斬られてて、中身が出てる」
「うんうん。もっと口に出して」
「人が焼け死んでいってる」
「うん」
「グチャって潰されてる──」


 こんな感じで、眠気に耐えながら脳内に送られてくる映像を見続けた。


ーーーーー


ーーーーー


「…………あれっ?」
「あ、おはようクロアちゃん。気持ちよく眠れた?」
「えっ……あぁはい。寝ちゃったみたいです」


 結局眠気に耐えきれずに寝てしまった。が、あんなにグロい映像を見たのに気分は普通だ。


「これを毎日続けたら、きっとクロアちゃんも強くなれるよ!」
「ありがとうございます」
「それに、快眠したくなったらいつでもおいで! 私の能力は、相手の意識を操る能力だから!」
「言っちゃっていいんですか?」
「クロアちゃんだからね!」


 相手の意識を操る能力か……どういう事だ?


「あ、気になる?」
「気になります」
「……ほら! いまクロアちゃんは、無意識に右手を胸に当ててる」
「あ……本当だ」


 いつの間にか、俺の右手が胸に触れていた。


「そんな感じで、人の意識を自由に操れるんだよ」


 凄いでしょ?


「ん? いま何か……」
「凄いでしょ、って思ったでしょ? それも私の能力! 意識を操ったんだよ!」


 なるほど。使い方次第では便利だな。


「じゃあ、私の部屋のソフィアっていう馬鹿の頭を良くすることは?」
「ソフィアちゃんは馬鹿じゃないよ〜? それに、意識は操れても思考は変えられないからね」


 意識と思考って似たようなモノだと思ったんだがな。意識が変われば思考も行動も変わるし、下手したら無意識に人を殺すことだってある。無意識に攻撃を避けることだって出来る。


「……レヴィさんの意識を操る能力って、訓練に持ってこいの能力じゃないですか?」
「なんで? 魔王様にも訓練してやれって言われるんだけど、教えるの下手なんだよね〜」
「教える必要は無いよ。一対一と模擬戦をさせて、片方の意識を操るんだよ」
「ほ?」


 無意識に相手の動きを読んで、避ける。これを繰り返させることで、自然と強くなる。そんな意見をレヴィさんに話した。


「なるほど!!」
「それはいい考えですね」


 レヴィさんもイルガさんも賛成してくれたようだ。


「さっそくベリアストロちゃんに伝えよっと!」
「あ、今は丁度訓練しているところなので、訓練場に行くといいですよ」
「ありがとうクロアちゃん!」


 レヴィさんが笑いながら部屋から出ていった。


「クロアさんは頭が回るんですね」
「あはは……」


 イルガさんにそんな事を言われたが、そんなに嬉しくない。イザナミから貰った餌だしな。

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