女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

91話 部隊の戦闘訓練た任された

 次の日の朝、レヴィアタンが訪ねてきた。


「今日から第4部隊と第5部隊の戦闘訓練をしてもらうようにって魔王様に言われたから、ベリアストロとクロアちゃん来て」


 だそうだ。魔王軍は第1部隊から9部隊まであるらしく、それぞれ強さ事に決められている。
 俺達が第2部隊で良かったのだろうか。


「リグとソフィは?」
「お留守番。実力のある2人だけに教えてもらった方が良いからね!」


 俺の実力もそこまで凄い訳じゃないんだけど、ティライの記憶にはそう焼き付いているのだろう。


「教えれるほど凄くないぞ?」
「良いの。今から訓練する部隊は新人ばっかりだから」
「4とか5で新人?」
「6から9まで知能の無い魔物を集めたような感じだから、弱いんだよ。この前フロンガード王国を攻めた魔物達は第8部隊」


 あれで第8部隊ってことは、下手したら第6部隊で国滅んでたぞ。
 それで第4〜第5部隊に何を教えれば良いのやら……全てベリアストロに任せるしかない。


「よろしくベリアストロ」
「こういう時だけ素直なのね」
「いつも素直だよ」


 ……あれ? そういやフロンガード王国に攻めてきた魔物達って、王国騎士団でも苦戦してたよな? それなのに第8部隊?
 何かとんでもない事に気づいてしまった気がするが、あまり考えないでおこう。味方だ。


ーーーーー


 第4戦闘部隊寮。その寮にリーダーの部屋を訪ねる。


「レヴィアタン様どうかしまし……あっそうでした」


 そんな言葉が聞こえて、すぐに部屋から誰かが出てきた。


 リグと同じ狼の獣人族で、毛色は白。ちょっと目が可愛い人が目の前に現れた。


「初めまして。私は第4戦闘部隊のリーダーを務めさせていただいているメルと申します。今日は宜しくお願いしますベリアストロさん」


 胸がある、つまり女性だ。


「よろしくお願いします、メルさん」
「あの、こちらの子供は……?」
「この人がクロアさんですよ」


 レヴィアタンが教えてくれた。


「あっ、貴女がクロアさんでしたか! 失礼しました!」
「あぁいえいえ……名前だけ知ってるだけでも、有難いです」


 この人が第4戦闘部隊のリーダーか。どのくらい強いのだろうか。


「えっと、私達第4は全員合わせて13名。獣人族が多い部隊で、基本的には暗殺部隊として使われています」


 まあ暗殺には向いてるな。でもメルさんの毛色は目立ちそうだ。


「今日は一般的な一対一の戦闘訓練をよろしくお願いします」
「分かったわ。じゃあ……どこか広い場所はあるかしら?」
「訓練場があるからそのに行くといいよ」
「では、そこに部隊全員を集めてください」
「分かりました!!」


 メルさんは1度部屋に戻って準備をしに行った。


「さぁクロアさん、戦う準備は出来てるかしら?」
「え? いいえ?」
「一対一の戦闘訓練は貴女がするのよ」
「いや、私はそんなに強くないし……」
「いい? クロアさんの強さというのは、契約した神も含めているの。自由に使っていいのよ」


 そ、そうなのか……それだと俺自身の強さは関係なく…………な、なんか悲しい。


「分かった……」
「あ、クロアちゃん。念の為鎧は着た方が良いよ」
「うん……」


 念の為って付いてる時点で、かなり危険だと分かる。


『僕とクロノスがいるんだからさ! 任せなよ!』
『……私自身は強くないんだよ』
『女の子だから仕方ない!』
『そうですよクロア様。女性の方が戦闘に加わること自体凄いんですから』


 リグ以外の人に女の子扱いされたくない。


ーーーーー


 鎧と剣を装備して訓練場までやってきた。
 訓練用のカカシ等が沢山ある。どれもボロボロだ。


「クロアさん、ちゃんとサタナやクロノスを頼るのよ」
「うん……頼らなきゃいけないっていうのが既に致命傷なんだけど、任せる」


 しはらく待っていると、第4部隊13人の獣人。そして恐らく第5部隊である人達が17人やってきた。
 合計30人。第5部隊の方は耳が鋭い。エルフだろう。


 第4部隊リーダーのメルさんが前に出た。


「今日はよろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!」」


 うぅ〜威圧感が凄い。


「はい、皆さんよろしくお願いします。私の事は既に知っていると思いますが、自己紹介を。
 昨日魔王軍に加入したばかりの、ベリアストロと申します。そしてこちらがクロアさん」


 ベリアストロは慣れた口調で話し始めた。


「──という事で、いきなり私と戦うというのも大変だと思いますので、最近成人したばかりのクロアさんと一対一の訓練を行っていただきます」


 30人の視線が俺に集まった。
 俺の態度、魔力、それらを見ているのだろう。中には鼻で笑うもの。じっくりと観察してくるもの。興味なさげに足で砂遊びするものもいる。
 出来れば戦いたくないのだが、こうなってしまった以上戦うしかない。


『サタナ……頼んだぞ』
『楽勝だよ〜』


 クロノスは未だに戦い方が分からない為、今回は使わない。


「誰から訓練を始めますか?」
「じゃあ俺にやらせてください」


 犬顔で茶色の毛をした獣人が、ニヤニヤと笑いながら前に出てきた。舐められてる。


「分かりました。では、前の円の中に入ってください」


 俺も剣を持って、白い粉で囲まれた円の中に入る。


 ニヤニヤした獣人が入ってきたところで、早めにサタナと入れ替わる。


『……よし、頼むよ』
『やっぱ本物の身体は違うね』


 サタナと入れ替わった瞬間、周りがザワザワし始めた。気づいた人がいるのだろう。
 ただ、目の前にいる獣人はニヤニヤと笑っている。


「二人とも準備はいいですね」
「ああ」
「いいよ」
『もっと緊張感のある返事しろよ!』
『いつも通りでいいじゃん』


 サタナが動くとはいえ、今俺が見ている光景もサタナが見ている光景も同じ。とにかく怖い。


「では、始め!」


 ベリアストロの合図と共に動き出す、と思いきやお互いに立ち止まったままだ。


『何してんの?』
『いや、久しぶりに戦うから遊ぼっかなって』
『遊ぶ?』
『僕ね。ドMだと思われてるけど、相手をとことん苦しめるのも好きなんだ』


 自分の顔の口角が上がったのが分かった。今、サタナは笑っている。


「何笑って──」


 ほんの一瞬の出来事だった。
 目の前にいる獣人が口を開いた時、俺の身体は既に相手の真後ろまで来ていた。
 そして。


──カクン


「膝カックン」
「おわっ!?」


 目の前の獣人は膝から崩れ落ちた。当たり前だけどね。


『遊んでないで戦えよ』
『いまクロアの事を舐めてるコイツのメンタルをグチャグチャにしてやろうとしてるとこだから、いいじゃん』
『良くねぇよ』


 でも、流石邪神だ。転移が早い。
 というか、全身の魔力の流れが早すぎて掴めない。どうやって魔法を使っているのかすら分からない。


「この野郎っ……ガキィッ!! っ!?」
「こっちだよ〜ん」


 獣人が殴りかかった時には、既に元の場所に戻っていた。


『あまり俺の身体で変な口調使わないでくれる?』
『罵ってくれたら頑張る』
『普通に喋ること出来ねぇのかくそ豚野郎、喉蹴り潰すぞ』
「あぁんっ♡」
『ちょっ!? 声に出すなよ!』
『ごめん〜でももう行ける』


 この野郎……周りに変な目で見られてるじゃねぇか!


 しかし、ついにサタナが剣を抜いた。その剣を見て、全身に鳥肌が立ったのが分かった。
 俺の意思ではない。サタナの意思で鳥肌が立ったのだ。


『この剣すっごいよ』
『ああそう……早くして』
『使うの勿体ないからやっぱ素手』


 結局剣を収めて、立ち上がった獣人の近くまで歩いていく。


「舐めやがってぇっ!!」


 獣人が剣を俺の喉元に向けて突き出してきたが、それは俺の能力で防がれた。三方向からの攻撃なら防げる能力だ。
 だが、少し集中を切らすと防いでる盾が割れてしまう。


「なっんだこれっ!」
「うっわ凄い便利」
『いいから戦え』
『もっと楽しみたかったけど、クロアがそこまで言うなら分かったよ』


 指先を獣人に向けた。それだけで、目の前の獣人は白目を向いて倒れた。


「はい。クロアさんの勝利です。これを参考に訓練を行いましょう」


 ベリアストロが冷静に指示を出しているのに、周りの人達は口を開けて俺を見ていた。
 かく言う俺も、下に倒れてる獣人と自分の指を見て驚いていた。


『何したんだ?』
『脳震盪による失神』
『それを無理矢理?』
『無理矢理』


 やっぱり神のすることは理解出来ない。


「次訓練を行う者は前に出てください」


 ベリアストロがそういうと、11人が前に出てきた。
 今の戦いを見ても戦いを挑もうとする、ということはこの11人は強いということだ。


「では、右から始めます」


 一番右に居たのはエルフ。第5部隊の人だ。


「おいお前」
「えっ私?」
「お前しかいない。俺には本気でかかってこい」
「え……」
『本気出したら死んじゃうよ?』
「えっと……本気出したら死ぬよ?」
「死なない。俺はそこに倒れてる男より強い」


 この人第5部隊だよね? 第4部隊より弱いんだよね?


『馬鹿だね』
『そうなのか。じゃあ殺さない程度によろしく』
『分かった』


 俺はまたサタナの身体を入れ替える。


「……ふぅ、じゃあ生と死の境界線を見せてあげる」
『ダメだからな?』
『いいじゃん』


 サタナと戦わせると、相手が可愛そうって思ってしまう。次はクロノスに戦わせた方が良さそうだ。

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