女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

88話 魔王は美しい



「ベリアストロ、おはよう」
「おはようクロアさん」


 昨日の夢の事、絶対話した方が良さそうだ。


「ちょっとリグとソフィが起きてから、話がある」
「話?」
「イザナギについて」
「……分かったわ」


 2人が寝ている間、俺はリビングにいるバルジにおはようの挨拶をしにいった。


「おはようクロア。もう行くのか?」
「いや、まだ少しゆっくりしてる」
「そうか。もし何かあったらいつでも帰ってくるんだぞ」
「心配しすぎだよ」


 もし何かあったとしても、なるべく自分らで解決するからな。いつまでも親に頼っていられない。


「お父さんは……小さい頃学園卒業したら何してたの?」
「そうだなぁ〜」


 顎に手を当てて、昔を思い出すように上を見上げた。


「近くの店の手伝いで稼いでたな」
「それって……」


 バイトか。


「どうして?」
「冒険者になって戦うのが怖かったんだろうな。今は大丈夫だが、昔はビビりでな。よく苛められてたんだ」
「そうなのか……」
「で、その度にミリスが俺を守ってくれたんだ」
「おぉ」
「そして俺は決めた……いつか強くなって、今度は俺がこの人を守る! ってな!」


 意外とカッコイイ父だった。


「ほんと今じゃ立派になってねぇ」
「あ、お母さん」
「おはようクロア」


 ミリスが部屋から出てきた。


「そろそろ準備しなくていいの?」
「ん〜大丈夫だと思うけど、ちょっと部屋に戻る」


 2人も起きている事だろうし、少し話さなきゃな。


 部屋に戻ると、リグとソフィがぽんやりとした目だが起きていた。


「あっ……おはよう」
「おは〜……クロアちゃん」
「二人共おはよう。ちょっと話があるから、まだゆっくりしてていい」


 俺がリグの近くに座ると、リグの尻尾が分かりやすく揺れた。


「昨日寝てから、夢の中でイザナミに会ったんだ」
「どうだった?」
「めっちゃ謝ってきて、終いにはお兄ちゃんって泣き叫ぶ始末」
「うわぁ」


 神がお兄ちゃんっ子とか引くわな。


「で、肝心の兄。イザナギについて最高神ゼウスに聞いたんだ」
「ゼウスに? どうやって会ったのかしら?」
「名前呼んだら来たよ。いつでも呼べって」
「……私の時は来なかったわ」
「え? でも神に不可能は無いって……」
「クロアさんだけ特別なのかもしれないわね」


 なるほど……ゼウスは俺に呼ばれるのを待っていたって事か。


「で、イザナギの事なんだけど。どうやらイザナミとイザナギが分けられた理由が、イザナギがいると世界を滅ぼしてしまうから、らしい」
「滅ぼす?」
「最初私も疑問を持ったんだ。ベリアストロが言ったことと違うからな」
「え、えぇ。私はそれしか知らないわ」


 やっぱりな。


「イザナギは世界の平和を保つのに飽きて、破壊し始めたらしい。だから、ゼウスが別世界に閉じ込めていると」
「そういう事なのね……」
「イザナミは、兄であるイザナギに会いたいが為に私を使っていたのは事実。でも、その我が儘で世界を滅ぼしてしまう事も知った上でそんな事をしているのだから、ゼウスも困ってた」
「当然ね」


 とにかくイザナギをこの世界に呼ぶなんて絶対駄目だ。俺が死ぬだけじゃなく皆が死ぬなら意味がない。


「それじゃあ、魔王はイザナギが世界を滅ぼすと知った上で行動しているのか?」
「それはないでしょうね。なんて魔王軍自体が国を滅ぼしに来ているのだから」


 それもそうか。


「今回の件を話した方が良さそうね。魔王に」
「それでいつ行くんだ?」
「準備ができ次第、クロアさんの両親に挨拶して転移するわ」
「分かった」


 とはいえ、俺が着ていく服は制服と王国騎士団の鎧くらい。確か昨日ベリアストロとソフィが買ってきたみたいだけど……怖いな。


「はいクロアちゃん! これ着て!」
「……嫌だ」
「制服で行くの?」
「はぁ〜……」


 足が丸見えのホットパンツ。寒くないように、と膝上まである黒のニーソックス。上はサイズが大きすぎるんじゃないかと思うほどダボダボな服。ソフィ曰くオシャレだそうだ。
 ダボダボな服を着ると、ホットパンツが隠されて裸のように見えてしまう。


「……ダサい……」
「えぇっ!? これ流行ってるんだよ!?」
「はぁ?」
「街に行ってみなよ! こういう人沢山いる」
「なんか大勢の人とペアルックしてるみたいで嫌だ」


 皆で流行りに乗って仲良しこよしとかいう関係大嫌いなんだ。流されてばっかりの人間ほどロクに人間に育たない。
 まあ他に着る服ないから着るけど……着るけど!


「おっ、可愛いぞクロア」
「うるさいなぁ……」
「パンツ履いてる?」
「ズボンも履いてるよ!」


 このズボンもパンツと変わらないんだけど!
 はぁ……今時の女子はこんなのを着てるのか。変態ばっりだな……人前でパンツ見せてオシャレとか言ってんのか。


「女の子らしくていいと思うぞ」
「女の子らしさって何なんだ……」


 露出上げれば女の子らしいとか思ってたら大間違いだ。


「皆準備は出来たかしら?」


 一応皆荷物をまとめてるし、俺も必要な物をバッグの中に詰め込んでいる。剣は体内に収納してるけどな。


「完了」
「それじゃあ両親に挨拶しに行くわよ」


ーーーーー


ーーーーー


「元気でいるんだぞ!」
「夜更かしはダメだからね?」
「ちゃんと食べろよ」
「怪我しないようにね」
「……子供じゃないんだから、分かってる」


 ミリスのバルジの過保護が発動している。


「私達がクロアさんを守りますので、ミリスさんバルジさん、また」
「はい! クロアを頼みます!」
「お願いします」
「それじゃあ行きましょう」
「……あっ、お父さんお母さん、行ってきます!」


 最後に笑顔で手を振って別れを告げた。
 そして、浮遊感と共に俺達は別の場所に転移した。


「おっ! 来たか来たか! 待ってたぞベリアストロ!」
「お久しぶりね。魔王クラウディア」


 魔王クラウディアと呼ばれ、ベリアストロと会話している女性。その姿に、思わず俺とリグとソフィは固まった。
 綺麗な黒髪は膝まで伸びており、長いまつ毛で際立つ瞳は薄茶色。白く透明感のある肌に、白いロングドレス。そこから中が透けて見えそうな程だ。
 とにかく、全てが美しい。どこを取っても欠点などない……唯一あるとしたら胸が小さい。が、それ以外は完璧。
 まるで二次元の美少女が三次元に現れたような感覚だ。


「何年ぶりだ!? 久しぶりすぎて覚えてねぇや!」
「約100年ね」
「うっわぁ……やっぱ変わらねぇなぁ……揉ませて?」
「嫌よ」


 な、なんか口調が男っぽいけど、それでも美しい。


「今日は話があってきたの」
「ほぉ! 聞かせて聞かせて! とりあえず座って」


 どこからか人数分の椅子が現れて、俺達はそこに座った。


「あれ!? なんか美少女が2人いる!」
「あ、どうも……クロアです」
「クロアちゃんの友達のソフィアです!」
「かわゆいのぉ……うんうん……」
「こほん。今日私達は魔王軍に入らせてほしいのだけど」


 早速本題に入った。


「そりゃまた面白い」
「冗談じゃないわよ。事情を説明するわね」


 ベリアストロが俺に変わって全て話してくれた。
 イザナミの計画、俺の状況、イザナギを呼ぶデメリット、俺の魅力について。等。


「は〜……世界が滅ぶ、ねぇ」
「そう。クラウディアにとっても不都合でしょ?」
「そうだな〜分かった。……けど、本当に仲間になってくれるのか?」
「不満?」
「いやいや! こんなに嬉しいことはねぇよ! ありがとな!」


 綺麗な歯を見せて笑うクラウディアに、思わずうっとりしてしまった。、


『この人転生者だね〜』
『え、そうなの?』
『うん。きっとクロアと同じ地域での転生』


 この美少女が元日本人……すげぇな。


「っつ〜か! クロアって娘可愛いなぁ! こんにちは!」
「こ、こんにちは」
「おいで!」
「えっ……」
「ほら、クロアさんが困ってるでしょう。クロアさんは小さい頃から頭が良くて、そんな扱いされても甘えたりしてくれないわよ」
「小さい頃から頭が良い?」


 あっ、まさか転生者ってバレたか?


「ちょっと話したいけど、いいかな?」
「あ、いいですけど……はい」


 魔王クラウディアに連れられて、少し離れた場所に来た。怖い。


「もしかして転生者?」
「は、はい……元日本人……あそこの獣人もです」
「マジかっ! 実は俺も日本人! 男なんだけどな、なんか女の魔王に転生しちゃってさ! もうこの体チートなの!」
「はぁ」


 元男か。俺と一緒だ。


「エロいし、気持ち良いし! チート過ぎ!」


 チートってそっち系……。


「とりあえず! 同じ転生者同士仲良くしような!」
「あ、はい」
「敬語禁止! 俺、こう見えてもコミュ障でさ、堅苦しいと喋れなくなるの」
「わ、分かった。よろしく」
「よろしくな!!」


 クラウディアと握手して、元の席に戻っていった。


「なんだったんだ?」
「クラウディアも元男の日本人だって」
「っ……すげぇな。まあ俺はクロア一筋だけどな」


 俺の方が浮気しそうだ。
 それほどクラウディアは魅力的だ。神──レヴィアタンが惚れた理由も分かる。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品