女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

87話 イザナミの我が儘が酷い



「クロアァァ〜……また行ってしまうのか……」
「頑張ってね……クロア……!」
「えっと、反対……? とかしないの?」
「クロアの決めた事だ! それがクロアの道なら、親は後ろから手を押してやるだけさ」
「もし道に迷ったら……いつでも相談しにくるのよ!」


 な、なんか意外と……あっさりしてるっていうか。魔王軍に入るってまずいことだと思うんだけど、親はそれでも良いのか? 子供が悪の道に進もうとしてるんだろ?


「二人共最初は驚いていたのよ。でも、クロアさんの命がかかってる事を話したら、こんな風にね」
「そ、そうなのか。ありがとうお父さんお母さん」
「いいのよっ……」


 二人共おいおい泣いてるな。でも、子としてはこんな風に悲しまれた方が嬉しいな。


「良かったな、クロア」
「うん、皆のお陰だよ。こんな私に着いてきてくれて」
「クロアは良い友達を持ったなぁ……」
「幸せ者ね……」


 親が泣いている姿をずっと見てるのも恥ずかしいので、俺は学園長にこれからの事を聞いた。


「そうね。今日くらいはゆっくり過ごすと良いんじゃない?」
「良いのか?」
「ええ、時間は過ぎていくけれど、予定なんて待ってくれるわよ」


 そうか。じゃあ今日は久しぶりにゆっくり出来そうだ。


「リグとソフィは……」
「泊めてもらうって事は……?」
「いいよ。リグリフさんも大人だからな」
「やったっ! 私も泊まるっ!」


 ソフィは子供だけどな。


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 ミリスとバルジとベリアストロとリグとソフィと俺。こんなに大勢で食事をとるのは初めてだ。
 皆でキノコスープやパン、新鮮な果物と野菜を使ったサラダ。口の中から全身に染み渡るような暖かさが心地良い。これが家族の味だ。


「美味しいですね」
「まあ、ありがとうございます」
「いつもこのような物を食べているから、ミリスさんのお肌も綺麗なんですね」
「そんなっ! ベリアストロさんもとてもお綺麗です」


 不思議な光景だ。これが普通なのだろうけど、学園長もこのように会話が出来るのだな。
 ちょっと近づきすぎな気がするのだが、気のせいだろう。


「あ、口の周りにスープが……」
「あっ」
「……ふふっ」


 絶対気のせいじゃない。普通女の人は女の人の口の周りについたスープ指で取って食べたりしない。普通は拭いたりするはずだ。


「学園長……何してるんだ?」
「クロアさんのお母さん、とても美しいからつい。ごめんなさいね」
「あっ、いえいえ! 私もドキッとしちゃって」


 自分の母親と知り合いの200歳のおばさんがレズカップルになっている光景を見て喜ぶ人なんて……ほとんどいないだろ。


「いやぁ〜流石! 筋肉があるなぁ!」
「それなりに鍛えてますんでね」


 バルジとリグは腕相撲で競い合っていた。


「クロアちゃん」
「ん?」
「キノコ苦手……」
「……分かった。私のに入れて」
「ありがとう」


 ソフィはまだまだ子供だし、この不思議な空間でまともなのは俺だけのようだ。


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 日が落ちてきて、外は夕焼け。バルジとリグの相撲大会が始まっていた。


 男が2人だけしかいない状況なので、二人共闘争本能が沸き立っているのだろう。元気だなぁ。


「っだぁぁあ! 負けたぁ!!」
「勝ちました」


 リグが尻尾を振って喜んでいる。ドヤ顔で俺の方を向かれてもどう反応したらいいか分からない。


「カッコイイよリグ!」


 とりあえず褒めといた。すると。


「俺もカッコイイところ見せてやる!」


 バルジがやる気を出して立ち上がった。これが男の面白いところだよな。女に振り向いてもらう為に、自分の力を競い合う姿。それはそういう男の人は好きだな。
 それに対して女は……前世の話になるが、化粧で本当の自分を誤魔化していたり、猫被って男を手玉にとったり。何かしてれば男がよってくるって思ってるからな。
 欲しい物があったら男を使って買ってもらう。本当に女という生き物はズル賢い貪欲な豚だ。


 でも、それは前世に誘惑する物が多いからなのだと思う。この世界では未だにそのような女性は見たことがない。


「クロアちゃん! 今からミリスさんとクロアちゃんの服買いに行くんだけど、一緒に行こ!」
「ん? あぁいや、私は2人を見てるから適当に買ってきて」
「オシャレ大事だよ〜?」
「いいよ別に。オシャレなんて必要ない」


 目の前で頑張っている男がいるなら、俺はその場で応援するだけだ。


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 外も暗くなり就寝時間となった。買ってきた服は明日のお楽しみ、なんて言われて隠されてしまった。


 ミリスとバルジ以外は俺の部屋で寝るらしく、広いと思っていた部屋が狭く感じる。


「俺は床で寝るからな気にするな」


 リグは固い床で寝た方が落ち着くらしい。
 俺はベリアストロとソフィに挟まれて寝ることになった。


「苦しい……」


 巨乳に挟まれて嬉しい? 苦しいだけだ。でも、幸せな気分ではあるな。柔らかい。


「明日の朝から準備して魔王に会いに行くけど、大丈夫かしら?」
「私は大丈夫」


 家族どのコミュニケーションも満喫したしな。


「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみっ!」
「……」


 リグ寝るの早すぎないか。


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「クロア……」
「あっ!! お前!!」


 寝たと思ったら、今度はイザナミの元に来ていた。


「ごめんなさいっ! 悪気は無いの!」
「はぁ!? 人の命を無駄にしようとして悪気は無い!?」
「どうしても……お兄ちゃんに会いたくて……」
「……あのなぁ気持ちは分かるけど……幸せを奪わないでくれ」
「……でもお願い! どうしてもっ……本当に!」


 お願いしすぎて語彙力が皆無になっている。


「嫌だ。絶対神ゼウスってのが会えないようにしたならそれが正しい。ゼウスに頼むんだな」
「うぅ……順調だったのに……クロノスめ……」
「他の神を恨むな」
「……い、言っとくけどねぇ! 神様は人の命なんて簡単に操れるのよ!? わ、私の手にかかればお前の命なんて、こ、ころ、殺せるんだから!!」


 嘘っていうのが分かりやすく伝わってくる。


「神がそんな事言ってるから兄と会えなくなるんだよ」
「うっ……」
「とにかく、私は自分の命を守る。私を計画の駒としてまんまと陥れたんだから、私はイザナミを許さない」
「そんなぁ……」


 いままで良い奴だと思っていたのに……人の命を粗末に扱おうとしやがって。


「お〜い! イザナミ!」
「あっサタナ! お願い!」
「何がお願いだよ。僕はもうクロアと契約したんだ。イザナミの命令はクロアと契約すること。それを達成したならそこから先は僕のする事だ」
「そんなっ……私……お兄ちゃ……」
「イザナミ様。計画を喋ってしまったのは申し訳ないですが、私もクロア様についていきます」
「うっ……うぅっ……」


 ちょ、ちょっと可哀想……かな? いや、でも……コイツは俺を陥れて……。
 イザナミと契約して、一緒にイザナギを呼び出す方法を探そうとも考えた。が、それだと魔王軍に行くと一度決めた俺がワガママになってしまう。


「クロアじゃないとダメなの……」
「……どうして?」
「そのつもりで計画を進めてきたから……またゼロから始めるなんて無理だよ……」


 くっ……どうしたらいいんだっ!!


「イザナギと会う方法はそれ以外に無いのかよ!」
「分かんないよ! でもそれしか知らない!」
「ゼウスにお願いしてみろよ! だから諦めるな!」
「クロア……」


 こんな事言ってる俺って無責任だと思うよな。そもそも魔王軍が計画を阻止する理由って、俺を助けるためじゃないんだし。
 わざわざ人類の敵になってまで今のイザナミの計画を反対する必要は無いんじゃないか……?


 くそっ……俺の意見がゴチャゴチャになってるっ!


「ゼウス! 見てるなら返事しろ!! ここに出てこい!!」


 出るはずないよな……絶対神なんだし。


「俺が呼ばれるなんて珍しいな」
「え……?」
「如何にも、俺がゼウスだが何の用だ」


 目の前に現れたのは、俺と同じ姿をした人物だった。


「あれ……?」
「私には体というものがないからな。お前の身体と同じのを作った。それで、何の用だ」


 身体を作ったって……これが本当にゼウス? こんな簡単に会えるのか?


「あぁぁっ!! ゼウスこの野郎!! 私のお兄ちゃんを返せ!!」
「うるさいなぁ……だから言ってるだろ! お前の兄は世界を滅ぼしてしまうから監禁してるって!」
「滅ぼさない!! お兄ちゃんと会うだけでいいの!!」
「ダメだ!」
「ケチ!!」


 ……ん? 世界を滅ぼしてしまう?


「イザナギが来れば……世界が平和になるんじゃ?」
「あ? おっと……確かに。元々イザナギは世界を安定させる神だった。しかし、こんな事飽きたといって世界を壊し始めたんだ」
「は、はぁ」
「それで困ってなぁ……このままだと不味いから、イザナギを別世界に閉じ込めているんだ」


 イザナギが世界を壊す……? ってことは学園長が言っていた事は違ったって事?


「それで……イザナミはイザナギと会いたいけど、もしそうしたら世界が滅ぶ……と?」
「そういう事だ。分かったか?」
「あ、はい」
「とにかくイザナミ、もう兄の事は諦めろ」
「嫌だぁぁぁあ!!!」
「はぁ……すまないな。イザナミが迷惑をかけて」
「あ、いえ……うん……別に」
「じゃあ俺はこれで帰らせてもらう。もしまた何かあったらいつでも呼ぶといい。すぐに駆けつける。私に不可能は無いからな! はっはっはっはっ!」
「あ、はい」


 そういってゼウスは帰っていった。


「お兄ちゃ……お兄ちゃん……」
「イザナミ」
「ふぇ……?」
「我が儘で世界滅んだらどうすんだこらぁぁああ!!!」
「だってお兄ぃぃぃぃいふえええぇぇん!!!」


 もう嫌だ。イザナミなんて信用しない。兄弟揃ってアホだ。イザナミ、イザナギ、アホ兄弟め。何が神だ。死ね!


 イザナミな号泣し始めた頃で、俺の意識は夢の中に戻っていった。

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