女嫌いの俺が女に転生した件。
83話 先生の体験した怖い話
俺が18歳になるのも残り数日くらい。
今日、ついにフロンガード学園全生徒参加の肝試しが始まった。
生徒達はグラウンドに集められて、学園長が全員の前に立った。
『なんか凄いイベントっぽいね〜』
『こんな大袈裟にされるとは思ってなかった……』
ただの肝試しだというのに、先生達は気合を入れて歩くルート等を決めていた。
「全生徒の皆さん。普段あまり姿を見せませんが、私がこの学園の学園長、ベリアストロです」
確か学園長の姿を見てない人ってかなりの数いるんだってな。ほとんど学園長室とか俺の部屋とか、たまに外に出るくらいで、珍しがる人が多い。
「こんなにも暗い時間帯に皆さんを集めた理由、それは肝試し。皆さんにはこれから、深夜の学園を探検してもらいます」
そして、ルール説明が始まった。
ーーーーー
1.生徒達は多数の班に別れて、その班の中から二人ずつそれぞれのルートを進む。(班ごとにルートは違う)
2.学園は広いので、マップを見ながらルートを進んでいき、折り返し地点にある先生手作りの墓に花を置いて帰る。(花もそれぞれに配布される)
3.前のグループが進み始めて、先生の合図があったら先に進む。
ーーーーー
「ですが、これだけではありません」
ふむ、ここからが本題だな。
「リグ、手」
「なんだ怖いのか?」
「いいから」
夜は寒いから手を繋ぐだけだ。別に怖がっている訳じゃない。
「ここは、この学園が立つ前は戦場でした。国同士の戦争があり、多数の死者が出た。図書室の本にもその話は乗っています」
「……クロア、本当か?」
「ああ。そもそもフロンガード王国というのはその戦後に作られた国なんだ」
「その戦争で死んだ死者の亡霊は、夜になると徘徊します。皆さんも夜に聞いた事はないですか? 夜、耳を澄ますと廊下からコツン、コツンという足音が」
学園長がそういうと、生徒達が悲鳴をあげ始めた。
「やっぱりあれ本物だったんだ!」
「いや〜怖い!」
「お化け!?」
そして俺も、その謎の足音に遭遇している。その正体が何なのかは分からないが、学園長は知っているのだろうか。
「おい、手が震えてるぞ」
「寒いだけだ」
学園長の話は続いた。
「この国は、夜になると沢山の亡霊が徘徊するのです。もし亡霊に見つかってしまったら……、その亡霊は今も戦争中だと思っているので、殺されてしまうかもしれません」
「きゃー!」
「怖っ!!」
「お化けなんていないさ!」
「はははははは! 怖くなんてない!」
皆怖がっていたり、笑って誤魔化す人が出てきた。
『確かに、この学園には幽霊はいるよ』
『こ、怖いこと言うなよ!』
『本当だよ?』
マジで……冗談とかそういうのは勘弁した欲しい。
「それでは、予め配られた紙に書いてある場所に集まってください」
「「は〜い」」
ーーーーー
ーーーーー
配られた紙に書いてあった場所。俺とリグは学園内の生徒玄関だった。
そこには他にも多数の生徒が集まっていて、それぞれペアを組んでいる。
「皆さん、まずは適当な場所に座ってください」
先生が生徒達に座るよう促した。
「皆さん僕の事は知ってる? 魔物の知識について教えてる先生だよ」
「知ってる〜!」
「僕も〜!」
「今日は特別に、僕が体験した怖い話を聞かせてあげよう」
また怖い話か……。
「俺に抱きついてもいいぜ」
「キモッ……手だけ」
リグの手を握って、先生の話に耳を傾ける。
「これは僕が小さい頃、丁度今日みたいに寒い日だったかな──」
ーーーーー
その時から、僕はこの学園に通っていた。新入生の時だった。
寒い日はよく、トイレに行きたくなって同じ部屋の友達を起こして着いてきてもらってたんだ。夜は廊下も暗いから、怖くて1人で行けなかった。
その時も、僕は友達と一緒にトイレに行った。いつものように肌寒くて怖くて、そしてちょっとだけ……寂しい気分だった。
丁度僕の友達もトイレに行きたかったみたいで、用を足して手を洗った後も少しだけ残って話していた。
そんな時、友達がある事に気づいたんだ。
「あれ? そこのトイレ閉まってるけど、誰か入ってる?」
こんな時間にトイレに来るなんて、特に珍しい事じゃない。個室のトイレが閉まっていて、僕と友達は悪戯心が騒いだ。
「誰かいますか〜?」
「いる〜?」
下の隙間から覗いたり、コンコンとノックしたりね。そんな事をしてると。
「いるよ」
って返事か来たんだ。
こんな時間に僕達以外の人がいて、さっきまで寂しい気分だったのが少しだけ嬉しい気分になってテンションが上がった。
僕達は、トイレの中にいる人を馬鹿にするような言葉を言ってたんだ。う〇こ、大〇小僧。若気の至りで、トイレの個室に入ってた子は泣いてしまった。
「うるさい! 黙れ……殺すぞ!!」
先生に言われたらって思って、僕達はすぐに謝って部屋に逃げたんだ。
トイレから出る時も、その子の声が聞こえた。
『うるさい』『殺す』『黙れ』
部屋に戻って、僕達はすぐに忘れて寝た。
次の日の夜も、僕はまたトイレに行きたくなって友達を起こした。
いつものように用を済ませて、トイレから出ようとした時。また、昨日と同じ個室が閉まっていた。
「誰かいる?」
「いるよ」
昨日の子と同じ声だった。
僕と友達はその子に謝ったんだ。でも、帰ってきたのは。
「うるさい! うるさい!」
ずっと、うるさいと叫んでるんだ。
僕はそこまで怒らせてしまうとは思ってなかったので、何度も謝った。
「うるさいっ!! 殺す!」
何度も謝っても、同じことしか言わないから、僕はついに怒ってしまった。
「殺せるもんなら殺してみろよ! 出てこいよ!」
そのトイレは、外側に開くようなトイレだったから。僕は体重を乗せて開けれないようにした。
「うるさい! 殺す!」
ドンドンッ! ダンダンッ!!
物凄い力でドアが叩かれるもんだから、僕はこのままじゃやばいと思って必死にドアを抑えつけた。
友人も手伝ってくれて、2人で一緒にドアを抑えつけた。
「うるさい! うるさい!!」
ダンダンッ!!
僕達は何も喋っていないのに、その子はずっと叫びながらドアを叩くんだ。
──ダンダンッ!! ベキッ! ダンダンッ!!
ドアを叩く音が、段々と別の音に変わってきた。
「うるさいっ! 痛い! 助けて!! 殺す!!」
ベキッ! グチャッ!!
中で何が起きているのか、恐ろしくてドアを離れる事が出来なくなった。
「痛いっ!! 痛い! 殺す!!」
中の子は必死に助けを求めてる。でも、ドアを開けたら殺される。どうしようもない状況に、僕達は必死にドアを抑えつけた。
しばらく経った頃だ。ドアを叩く音が無くなって、中からの声が聞こえなくなった。
あんなに助けを求めてたから、もしかしたら中の子が死んでるんじゃないかって思った僕達は、怖くなってその場から逃げた。
──次の日の夜、僕と友達はまたトイレにきた。
その日は、あのトイレは開いていて。だから、僕はあえて何も見ずに、帰ろうとしたんだ。
「なんかお腹痛くなってきた……先帰ってて!」
友人が突然お腹を抑えて、個室に入っていった。そこは、あの子が入っていた個室だった。
「お〜い、大丈夫か?」
僕は心配になって、友達に声をかけた。
「……」
しかし、中から友人の声は聞こえなかった。
「お〜い……」
ドアをノックすると、扉がゆっくり開いた。
が、中を覗き込んでも誰もいなかった。
怖くなった僕は、部屋に帰って寝た。
次の日から、僕の友人が帰ってくることはなかった。
ーーーーー
ーーーーー
「「きゃ〜〜!!」」
こ、怖いのは怖いんだけど、最後がよく分からないな。
「先生、なんで友達はいなくなったんですか?」
生徒の1人が質問した。
「その時の先生に聞いたんだ。あのトイレは何なんだって。それで僕は2度とあのトイレには行ってないね」
「?」
「気になる?」
「「気になる〜!」」
「その頃の学園は個室のトイレなんて無かったんだ」
その時、俺達の後ろから人の気配がした。
「いるよ」
「「きゃ〜〜〜〜っっ!!」」
「あっはっはっ! お前達ビックリしすぎだ!」
女の先生が腹を抱えて笑ってた。
「あっはっはっはっ! 先生! 掴みはバッチリでしたね!」
「そうだな!」
くっ……トイレに行きたくなったじゃないかっ!! この野郎!!
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