女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

77話 クロアとリグの関係



 ソフィの膝の上でどのくらい泣いたのだろうか。気づけば外は暗くなっていた。


「リグ……帰ってくるよね……」
「きっと帰ってくるよ」


 いつもは馬鹿なソフィも、今は何故だか頼れる。


──ガチャッ


「クロアさん」
「学園長……リグは……?」


 学園長とサタナが部屋にやってきた。


「…………」
「何とか言ってくれよ……」
「死んではいないわ……」


 死んではいない。その表現がどれほどを表しているのか、怪我で住んでいるのか。それとも昔の俺のように意識不明なのか。


「言っちゃえよ」
「サタナ……貴方ねぇ……」
「ほぼ死んでた」
「え……」
「攻撃を直に受けて内臓破裂。僕がいたからなんとかしているけど、本来なら死んでるね」
「そんな……」
「クロアのせいだよ」
「サタナッ!!」


 そう、俺のせいだ。俺はあの時、自分に何か出来ると思っていた。でも……俺は無力だった。


「……リグは今どこに……?」
「イザナミのところに肉体ごと送ってる。あそこなら回復もそれほど時間はかからない」
「そう……」
「クロアさん、貴女は悪くないのよ……」
「私が悪いんだ……勇者に私が頼んだんだ……」
「勇者も勇者よ、クロアさんが気負う必要は無い」


 これで殺したのは2人目だろうか……自殺、そしてリグ。自殺した人の名前は覚えていない……覚えてなきゃダメなのに思い出せない。


「……」
「君は今、何を思ってるんだい?」
「何って……後悔しかしてない……」
「君とサトウが来たせいで、死者が増えた。その罪の意識はあるんだろうね?」
「サタナ辞めなさい」
「いや、辞めない。僕はクロアに知ってほしいことがあるんだ」
「知ってほしい事……?」


 サタナが俺の横に座った。


「君が思ってる程世界はイージーじゃない」
「……知ってる……知ってるけどっ……分からないじゃないかっ……」
「だから、神である僕が君を導くべきだった。まだ何も知らない君に、何も言わずに去っていくのは不安しか残さないからね」
「どうしたら……いいんだよ……」
「君は僕を信頼して、僕は君を信頼する。僕を頼ってくれればいい」


 でもそれじゃあ俺は無力なままだ。何も守れないまま、誰かに守られ続けている俺のままじゃ嫌だ。


「クロアは女なんだ。何かを守ろうと立ち向かうのは、男だけでいい」
「性別なんて関係ない……サタナだって見た目は女じゃん」
「……これは僕の趣味。とにかく、女の子は強がってるだけでいいんだ。男が守ってくれる」


 他人任せなんて俺は嫌だ。俺は女のそういうところが大嫌いなんだ。


「……私は誰かを守れるような人間になりたいんだ。だから王国騎士団に入った」
「じゃあ君は、男になるかい?」
「……え?」
「僕なら君を男に変えることだってできる。でも、そうなると君は今の彼氏、リグリフと付き合うことは出来ない」
「それは……嫌だ」
「我が儘だなぁ」
「……うるさい」


 サタナが、俺の方を抱き寄せた。


「君の事を好きな人に、君を守らせてあげなよ」
「どういう事だよ……」
「はぁ……なんで邪神の僕がこんな事言わなくちゃならないんだろうね」
「まさかサタナがそんな事言うなんて思わなかったわ」
「どういう事か分からないんだけど……」


 サタナが俺の背中をポンポンと叩いて口を開いた。


「好きな人にくらい、恥ずかしがらずに自分の全てを晒せって事」
「……余計に分かんねぇよ」


 でも、なんとなく言いたいことは分かった。
 俺はもっと……女の子らしくしていいんだな……。


「あ、クロア寝ちゃった」
「じゃあ私は部屋に帰るから。サタナ、イザナミによろしくね」
「うん。明日の朝に生き返る予定だから急がせるね」


ーーーーー


ーーーーー


「クロア〜〜君は馬鹿だね〜」
「うるさいイザナミ。なんでリグがいるんだ」
「おっすクロア! なんか死んだと思ったらここに来てよ、明日の朝までここにいろってさ!」
「……」


 俺がどれだけ悲しんだか知りもせずに……コイツはニコニコしやがって。


「……リグ、ごめんな」
「許してやるよ。明日の朝には生き返るから」
「そっ、そんなに早いのか?」
「サタナにここまで肉体送ってもらったからね〜、もうあっという間!」


 肉体送ってもらえばそんなに早いのか……。


「本当に良かったっ…………」
「おぉっと、泣くなって。女々しくなりやがって」
「だって……私のせいで死んだって思ったら凄く辛くなって……寂しくなって……」
「おうおう。俺が恋しくなったか」
「……うん」
「あれ〜クロアちゃんが変わっちゃった。サタナに操られてる?」
「操ってないよ!?」


 サタナがやってきた。


「サタナ、ありがとうな」
「ん? どうしてリグがお礼なんて……」
「いやちょっとな、サタナにお願いしたんだ」
「?」
「面白かったなぁ。 『クロアをもっと女の子らしくして、俺に甘えてくれるようにしてくれ!』 ってね」
「アハハっ似てる!」
「やめろ恥ずかしい」


 そんな事伝えてたのかよ……死にかけたくせに。


「そう言われると、甘えたくなくなるんだけど」
「なんて言ってる時も俺に抱きついてるのはもしやツンデレ?」
「ちっ、違う!」


 すぐにリグから離れる。


「やっぱクロアは可愛いなぁ〜」
「も、もう……あまりからかわないでくれ……」
「か、可愛い……」
「かわゆい」
「僕はツンツンしたのが好きだな」


 いままで、誰に対しても男らしくしなきゃって思ってたが、リグの前だけでは本心……本心? 女らしくしていいんだな。


「リグだけだからな……今度から私が甘えるのは」
「うっひょ〜」
「リア充死ね」
「羨ましいなぁ……僕にももっと甘えていいんだよ?」
「誰かお前に甘えるか」
「あはんっ♡ それを待ってましたぁ!」


 何か吹っ切れたような気がして、少しだけ気が楽になった。


ーーーーー


ーーーーー


 次の日の朝、俺の寝ている横にリグが寝ていた。


「……良かった……」


 少し笑っているような寝顔を見て安心した俺は、起き上がって寝癖を整える。


「んん……」


 そろそろリグが目を覚ましそうだ。


「んん……? クロア……おはよう」
「おはようリグ!」


 俺の出せる最大限の笑顔で、リグの朝を迎えた。

「女嫌いの俺が女に転生した件。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く