女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

71話 邪神はちょっと変わっている



 邪神の姿を見つけたのは図書室だった。
 いつも俺が座っている椅子に座って、ボーッと本を眺めている。
 こうして見ると、他の生徒と何も変わらない可愛い女の子だ。


 俺が近づくと、邪神も気づいたようで俺に手を振った。


「クロアお姉ちゃん!」
「……ちょっといいかな」
「いいよ」


 こんな子に邪神なんて聞いていいのだろうか。全くそんな雰囲気は無い。


「質問があるんだけどね」
「うん」
「君は……邪神?」
「あ、バレちゃった?」


 その瞬間、図書室だったはずの周りが真っ暗な世界へと変わった。


「えっ、何っ!?」
「バレちゃったら仕方ないかなぁ〜」


 先程まで無邪気な笑顔を向けていた少女は、今も無邪気な笑顔を向けている。


「そう、僕が邪神だよ」
「本当に……こ、ここは!?」
「心配しなくても、ただ中間世界に移動しただけ」


 中間世界、神様のいる世界も同じ中間世界だった。やはり本当にこの子が邪神なのか。


「どうして僕が邪神って分かったのかな?」
「えっと……神様に教えてもらって」
「あぁ〜君を計画の駒にしてるアイツか。それで、君は僕に何の用かな?」
「っ……」


 悪そうな雰囲気は全く出ていないのに、邪神の一つ一つの動作が怖い。


「わ、私の事は好きにしていいから! 他の人は傷付けないでくれ!! 私が……邪神の全てを受け止める! だから、平和教を止めてくれ!!」


 土下座をしながら、その少女に叫んだ。


「ん〜? つまり、君と僕でwin-winの関係になろうという事かな?」
「そうしてくれると嬉しい……」
「それは僕にとっても嬉しい事だね。君は僕に何を求める? 人を傷付けない以外に何かあるのかい?」


 人を傷付けない以外に……。


「ティライを殺した人や、平和教にこれ以上の罪を与えないでほしい……何でもする。これ以上人を失うのは嫌なんだ」
「それは難しいね〜……あれは僕がした事じゃないから」
「お願いしますっっ!!」


 頭を真っ暗で何も見えない地面に当てる。


「君は、僕に何をされる覚悟で来たんだい?」
「何をされても……」
「殺されるが出来て、僕に頼み事をしているんだろうね?」
「っ……」


 緊張が走り、額から嫌な汗がダラダラと流れてくる。


「まあ君は僕のお気に入りだから、殺すなんて事はしないけど〜……う〜ん……。じゃあ1つだけ僕のお願いを聞いてくれたらいいよ」
「ほ、本当に……?」
「おっと、まだ頭は下げてて」
「っ……」


 簡単に 『殺す』 という言葉が思い浮かぶ少女相手に、俺は戦意など全て失っている。


「じゃあ〜……パンツ見せてくれたらいいよ」
「え……」
「スカート捲りあげて、僕に向かって "お願いしますご主人様" って上目遣いで言ってもらおうかな。そしたら、平和教も君の友人のティライを殺した犯人も、更には僕が他の人を傷付けるような事はしないよ」
「……」


 そんな事で……いいのか? いや、これも結構キツい事なんだろうけど、これをするだけで全て解決するのか……?


「疑っているようだね。じゃあここで僕の自己紹介をしようか」
「……」
「僕は邪神サタナキア。君が元いた世界でよくに言うオタクというヤツで、可愛い女の子に苛められたい。僕のタイプの女性はまさに君。僕は君に惚れて、君と一緒にいたい」
「……」
「さぁ、スカート捲りあげてこう言うんだ。 "お願いしますご主人様" とね。それで僕との契約は完了だ」


 自己紹介は置いておくとして。


「契約……?」
「契約した所でデメリットは何も生まれない。ただ、僕は君と共に過ごすことになる。君の精神の中でね」


 精神の中で……。


「勿論、人間の姿で現れることもできる。君には大きなメリットが貰えて、デメリットは僕と一緒にいること。それだけだ」
「……それで契約をしないといけない……のか?」
「契約しないと君の言うことは聞けないね」
「っ……分かっ……た」


 この邪神サタナキアがどれほど気持ち悪いのかは分かった。でも今は、皆の命を救う為にも契約しなければならない。
 俺はゆっくりと立ち上がって、スカートを掴む。


「スカートを捲りあげて、さっきの言葉を唱えた時点で強制的に契約は完了して、この世界は消える。君の願いはすぐに叶う」


 強制的に契約は完了……か。


「お願いしますご主人様」


 俺はほんの一瞬だけスカートを捲りあげ、早口で唱えた。


「あっちょっ! それズルい待っ──」


 暗闇の世界を、光が包んでいく。


ーーーーー


「──さん! 大丈夫ですか!?」
「ん……えっ?」


 学園長に起こされて、俺はすぐに当たりを見渡す。


 どうやら俺は図書室で気を失っていたようだ。
 自分の手足を確認するが、特に変わったところは何も無い。


「良かった……無事なようね」
「学園長……邪神……」
「どうなったの?」
「分から……ない」
「そう……とりあえず休みましょう。部屋に送るわ」


 学園長にA-975号室まで転移で送ってもらった。


「っ! クロアッ! 大丈夫か!?」
「大丈夫だから……苦しい……」


 すぐにリグに抱きしめられた。


 結局、邪神サタナキアはどうなったのだろうか。


「図書室に倒れてたの。休ませましょう」
「何っ!? すぐに休め!!」
「ちょっ!?」


 リグにお姫様抱っこをされて布団に寝かせられた。恥ずかしくて顔が赤くなる。


「ん……? これ……」
「なっ、何すんだよ!」
「待て! 何か……あるぞ」
「本当ね……」


 何故か制服から胸元を見ようとしてくる。何なんだ。


「まて、鏡ですぐに見せる」
「あ、ああ」


 鏡で、胸元を見せられた。


「何これ……」


 左胸に、黒いハートマークが付いていた。


「まるでバラの茎のようにトゲトゲしたハートね……」
「お、お前……これは何だ?」
「知らない……けど多分……邪神と契約したから?」
「邪神と契約!?」
「クロアさん、何があったのか詳しく話してくれる?」


 とりあえず胸を隠して、2人に事情を説明する事にした。
 図書室にいた女の子に邪神かと尋ねると、真っ暗な世界に飛ばされた事。そこで邪神サタナキアの自己紹介、そして命令された事を話した。


「──で、気づいたら倒れてて……」
「許さん……邪神サタナキア。変な趣味しやがって……」
「私だけでいいから、その契約する時にした事してくれる?」


 二人は何に対して怒ってるんだ。


「あの……」
「あ、そうね。とにかく……邪神サタナキアはクロアさんの中にいると考えて間違いないわ。後はいつ現れるかなのだけど……私にも検討がつかないわ」
「胸のマークは契約した証だろう。押したら召喚とか出来ないか?」
「そんなマンガみたいな事あるわけないだろ」


 とりあえず、邪神サタナキアと契約が完了したところで……後はどうやってコミュニケーションを取るかだな。
 もしかすると、神様と同じように夢の中に出てくるのかもしれない。


「あっ! 授業しないと!!」
「まあ慌てるな。今日は休め。今日はクロア先生体調悪いって言えば大丈夫だから」
「そ、そうか……悪い」
「こんな時でも先生の仕事をしようとするなんて、流石クロアさんね」


 とにかく今は、何かが分かるまでこの2人といた方が良さそうだ。


 邪神サタナキア……随分と変態っぽかったけど、契約して大丈夫だったのだろうか。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品