女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

70話 惚れられて嬉しくない相手



「久しぶり!」
「久しぶりだなぁ。そろそろ来ると思ってたよ」


 久しぶりの神様との再開に少しだけ喜びを覚える。


「君の為に要件をまとめて簡単に説明するね」
「助かる」
「まず、邪神について」
「いきなりか」


 邪神の行動はよく分からない事が多い。なんで食堂荒らしたりしたんだろうか……。


「どうやらね〜邪神は君に惚れてるみたい」
「は?」
「君みたいな人が虐め甲斐があるとかいってた」
「だ、だから……歓迎会の出し物の邪魔したりしてきたのか?」
「そっ」


 俺に惚れてる……? 神の邪神が? そんな馬鹿な話があるか。


「神が人間に惚れてどうなるんだ」
「神同士なら結婚出来るんだけど、神と人間なら無理。邪神はただ君と遊びたいだけっぽい」


 そんな迷惑な……。


「分かった……で、他に話は?」
「君の友人のティライと、その捜索に行った2人の現状を教えるね」
「あぁうん」
「千里眼使ってみてくれる?」
「ん? 場所はどこでもいいのか?」
「知らない場所は見れないでしょ? だから私が操作するなら」


 そんな事もできるのか、助かる。


 早速千里眼で適当に自分の部屋を見ようとイメージした。


「……おっ」


 すると、暗い洞窟のような場所にやってきた。


「周りを見渡してくれる?」
「分かった……」


 なんとも気味の悪い場所だな。こんなところにティライ達はいるのだろうか。
 グルッと辺りを見渡していると、少し離れたところに明かりが見えた。


「あれ?」
「そこに近づくようなイメージ」
「……」


 ゆっくりと明るい場所へ向かう。
 段々と明るい場所が見えてくる。──湿った床、床に描かれた魔法陣の様なもの、そして……


「うぇっ……」


 あの2人、ノアとダンテの手足が切断されて逆さまの十字架に貼り付けられていた。
 すぐに目を下に向けて口を抑える。


「近くにティライがいるよ。頭だけだけど」
「ま……待って……お゛ぇっ……」


 酷い光景だった。人が人じゃない物に変わって、息をせずにその場にある光景。


 俺はすぐに千里眼をやめて、自分の息を落ち着かせた。


「どうやらあの誘拐犯は平和教と関わっていたみたいでね、邪神に生贄を捧げてるんだって」
「皆……3人とも……死ん……死んだのか?」
「そうだね。死んじゃった」
「嘘だろ……私達のせいだ……」


 俺達がもっと早く行動していれば、助かったのかもしれない。ティライは……死なずに済んだのかもしれない。


「王国騎士団の2人が即死するレベルだよ? 早く行動していたところで死者は増えるだけ、君の判断は正しかったよ」
「違う……助けられたはずなんだ……。学園長やアーガス、ジェイスが行けば……」
「丁度ジェイスって人がさっき来たんだけど、見る?」
「どうなった……?」


 これ以上この目で見るのは嫌だ。


「まあ3人の惨状を見て帰っていったよ」
「良かった……生きてるのか……」


 これ以上死人は出したくない。


「死人を出さない為に、これからどうしたらいい?」
「まずは学園長や団長さんに話した方が良さそうだね。ジェイスが話したと思うけど、君も話した方が良さそうだ」
「そうか……分かった」


 無力感に包まれているのに、神様はいつもの様子で話を続ける。


「次に、これから君にしてほしい事」
「なんだってする……もう何も失いたくない」
「そうだね。じゃあ、まずは学園にいる邪神と仲良くなって」
「……なんでだ? そいつが一番悪い奴だろ……」
「邪神は悪くないよ。邪神を信仰する人達の頭がおかしいだけ」


 邪神なんかと仲良くできるかよ……。


「もし仲良くなれなかったら、邪神が暇を持て余して犠牲者が沢山でるかも」
「分かった、分かったから邪神にどうやって会えばいい」
「もう何回かあってるんだけどね」
「教えろ」
「この前部屋で一緒に本を読んだ子」


 あの子が邪神……!? 他の子と変わらない普通の子だったけど……本当なのか?


「上手く騙されてるって奴だね〜」
「分かった。そいつと仲良くなればいいんだな」
「そっ、後は邪神に構ってあげさえすれば他に被害者は出ないし、願いも聞いてくれるかもね」
「……3人じゃなくていい、ティライを生き返らせる事は出来ないか?」
「う〜ん……難しいけど、魂がどっかにあるから探してみる。もし成功したら君の部屋に送るね」
「っ! 頼む!!」
「じゃあまたね!」


 ティライさえ生き返ってくれればいいんだ。1歳からの付き合いのティライが死ぬなんて嫌だ。
 俺にとっては母、いやそれ以上に大事な人なんだ。


ーーーーー


ーーーーー


「──ロア! クロア!」
「んっえっ!?」


 リグに必死な声で起こされて、何かあったのかと勢いよく起きる。


「大丈夫か? うなされてたみたいだが、嫌な夢でも見たか?」
「えぇっと……大丈夫。それより今は……あ、明るいから学園長のとこに行ってくる」
「おいちょっと待て。なんでそんなに焦ってるんだ?」


 リグにも話した方がいいのだろうか……。いや、知らない方がいい。


「神様に会ったんだ」
「……それで?」
「言えない。ただ、早く学園長に伝えないといけない」
「そんなに重要な事なのか?」
「リグは知らない方がいい……転移お願い」
「……分かった。どんな事があっても自分を責めるような事はするなよ」


 リグは何も知らないのに、こんなに優しい言葉をかけてくれる。


「ありがとうっ……」


 最悪、周りの皆が死んだとしてもリグさえ生きていれば俺は大丈夫なのかもしれない。


ーーーーー


「それで、話って何かしら」
「ノアとダンテが死んだ」


 ティライについては敢えて言わなかった。生き返る可能性があるからだ。


「……ジェイスにもそんな事言われたけど、本当なのね。どうやって知ったの?」
「……千里眼。能力とかそういうのじゃないんだけど、遠くの物を見れるんだ……」
「神の祝福、ね」
「え……」


 学園長は神様について知っているのだろうか。


「神様に会うのは何度目?」
「えっと……覚えてないけど、3回以上は……」
「私は100は超えてる」
「っ……」


 学園長も神様に会っていたのか。


「神様が関わっているのなら、平和教が絡んでるという事ね。邪神についても何か話された?」
「学園にいる邪神と仲良くなれって……」
「神様も馬鹿ね……クロアさん、邪神と仲良くなるということは、自ら邪神の悪戯を受けに行くのと一緒よ。その分周りには被害が及ばないけど、何されるか分からないわ」


 そうなのか……でも、俺はなにしたって、何されたっていい。


「騎士なら……体を張って皆を守るのが役目だ」
「……騎士だから無茶していいって事じゃないのよ……まあ、頑張りなさい」


 "頑張りなさい" その一言だけだった。


「あとこれ以上のティライ捜索はやめた方がいいって……」
「分かったわ。……今から邪神に会いに行くんでしょ? これ、首にかけるといいわ」
「これは……」


 ただのシンプルなネックレスに見える。


「ある程度の衝撃には耐えられるような結界を張ってくれる。頑張ってね」
「ありがとう」


 それなりに心配してくれているようだ。


「転移、するけどいいわね?」
「ああ」


ーーーーー


「クロア、どうだった」
「邪神に会ってくる」
「は!? おい待て!!」


 部屋から出ていこうとすると、リグが凄い力で腕を握った。


「どういう事か説明しろ……お前は何をしてるんだ。俺を悲しませたいのか?」
「……別にリグを悲しませる為にしてる訳じゃない。リグの為を思って──」
「俺の為を思ってるなら! 何も言わずに危ないところに行こうとするな……心配だろうが……」
「……ごめん……そんな怒らないでっ……」
「な、泣くなっ、悪かった……強くいいすぎた」


 弱っている精神状態の時にリグに怒られて、俺はつい子供のように泣いてしまった。
 リグが俺を座らせて、背中を優しく撫でてくれた。


「悪かった……でも、本当にお前が心配なんだ」
「うん……っ……」
「一人で抱え込もうとするな。俺も一緒に行く」
「ダメッ……私じゃないと……危ないから」
「なんでだ。理由を話してくれないと──」
「リグが死んじゃう……」


 それだけが理由だった。誰も殺したくない、リグは絶対に死なせない。


「そんなに危ないのに、一人で行こうとしてるのか?」
「私が行けば問題ないんだ……だから、行かせてくれ。そんなに深刻な話じゃない」
「……本当なんだな。俺はお前を信じて、ここで待ってる」
「助かる」


 心配させて悪いと思ってる。けど、俺は一人で行かなければならない。


「必ず帰ってくるから」


 それだけ言って、部屋を出た。


 邪神の居場所は分からない。でも、誰が邪神かは分かったから、その姿を探すだけだ。
 待ってろ。

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