女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

63話 騎士カフェ開店ッ!!



「急いで作ってるとはいえ、こんなに人が集まって作業すると凄いな……」
「あっという間に変わったね」


 保管塔から、俺とソフィ2人係で食器を運んで帰ってきた時には、食堂の飾り付けがかなり進んでいた。


「少し遅れても大丈夫みたいだね!」
「そ、そうだな」


 床に散らばっていた紙も片付けてあり、壁には生徒達が余っていた道具で作った飾り付けがしてある。今もどんどん内装が豪華になっていっている。


「クロアさん、皆貴女の為に動いてるのよ」
「私の為?」


 学園長が隣にやってきた。


「クロアさんは皆より学園で過ごした時間は短いと思うの。10年も眠っていて、他の生徒より思い出は少ない。だから先生も生徒達も、クロアさんに沢山思い出を作ってもらおうとしてるのよ」
「私に……」
「人気者なのよ?」
「そうだよクロアちゃん! 私友達にクロアちゃんと一緒の部屋って羨ましがられてるんだから!」
「人気者……」


 俺の為にこんなに大勢の人が動いてくれるのか。
 嬉しいというか、恥ずかしいというか……なんとも言えない気持ちだ。


「皆っ……ありがとうっ!」


 俺の為に動いてくれている生徒達に、俺は感謝を伝えた。
 ありがとうの一言じゃ伝えきれないほどの有り難さを貰っている。この恩はきっと、皆で作り上げた騎士カフェで返したい。
 ただのカフェだけど新入生の歓迎会としても、皆に感謝を伝える為にも最高のおもてなしをしたい。


「……学園長。騎士カフェを開くために、最後の指導をお願いします」
「細かい所作も、言葉遣いも全て1から教え直すわよ?」
「お願いします」
「わ! 私も!」


 左手の拳を右胸にある紋章に当てて、背筋を伸ばす。
 この動きは、王国に忠誠を誓った騎士の挨拶なのだそうだ。


「分かったわ。じゃあ食堂の裏で最後の練習よ」
「「はい」」


ーーーーー


ーーーーー


「「終わったぁぁあ!!」」
「っしゃぁぁあ!!」


 ついに騎士カフェの飾り付け、食堂の食器の入れ替えや壊れた椅子の交換。その他にも色々。全ての準備が整った。
 そして何故か本来食堂に無いはずの椅子まで集まっていて、食堂には大勢の生徒や緊張した顔の新入生が集まってテーブルに向かっていた。


「クロアさん、貴女が挨拶するのよ」
「っ……よし……」


 先生達も、ソフィもリグも皆の準備が整った今。騎士カフェを開く挨拶は俺に任されている。


 緊張しながらも、俺は生徒達の前に立った。


「「クロアちゃ〜ん!!」」


 緊張する。皆が俺に注目して手を振っている。


「えっと……」
「声が小さい」
「っ……私は騎士クロア・バルロッテ! 大変長らく待たせてしまって申し訳ない!!」


 まず、ここで俺は皆に謝らなければならないと思った。


「謝る必要ないよ〜!」
「そうだよ! こっちからはありがとうだ!」
「「ありがとう!!」」


 優しい言葉をかけられて、目元が熱くなる。


「これより! 遅めの朝の騎士カフェを開店する!!」


 左手を心臓に。俺は皆に対する感謝の気持ちを声に乗せて、叫んだ。
 少し遅れて、大きな拍手が帰ってきた。皆驚いたような表情と、笑顔で手を叩いている。


 大きな拍手に包まれながら、姿勢を崩さないよう学園長の横に帰っていく。


「パンフレットに書いてある注文の品は予定通り作れるわ。食料も有り余ってるから、好きなだけ注文してちょうたい」
「「しゃあぁぁあ!!」」
「俺チキンバーガー!!」
「私チョコレートケーキ!!」
「新入生も頼め!!」
「ぼ、僕スパゲティ」


 次々と注文が入ってきて、その度に学園長が有り得ない速度で紙に書いていく。注文の品と注文した人物の席の番号。全てそれを把握しているのだ。
 紙一杯に書き終わると、すぐに後ろの先生に渡して調理が開始させる。


「「おぉぉお!」」


 生徒達が前に集まって、先生達が料理する姿を眺めている。


「クロア、俺達は料理を届けるだけだ。焦らなくていい」
「あっ、ああ」


 あまりの忙しそうな厨房に圧倒されていた。


 料理を届けるのは、俺とリグとソフィと勇者サトウとその他数名の先生と生徒だ。
 料理をするのは、元から食堂で働いていた人達と先生。そして学園長が高級料理店から雇った職人だ。


「はいこれ107番の席に!」
「はいっ!」


 ソフィにドレッシングのかかったサラダが渡された。
 番号通りの席にしっかりと運んでいる。


「お待たせしました。フレッシュサラダです」


 いつものアホそうな雰囲気と違って、しっかり騎士になりきっている。
 生徒達からは大きな拍手。その瞬間、ソフィの顔がデレッとアホそうな表情になり帰っていく。


「あはははは!」
「変な騎士だな〜!」


 笑いはとれているようだ。


「はい121にこれ2つ」
「っ! 分かりました!」


 ついに俺が運ぶことになった。


 両手にサラダとつけ麺をこぼさないように持ちながら、生徒に待たせないようすぐに席へと運ぶ。


「クロアちゃんだ!!」
「お待たせしました。フレッシュサラダと冷やしつけ麺です」
「キャ〜! カッコイイ!」
「いいぞ〜!!!」


 品をテーブルに置いただけで大きな完成と拍手が湧き上がった。ソフィとは全然違う。
 照れくささを隠しながらも、一礼をして厨房に戻っていく。
 料理を運ぶリグとすれ違った瞬間、つい笑ってしまった。


「キャ〜っ! カッコイイ騎士が一瞬見せる笑顔っ……んんっ!!」
「可愛いぃぃっ!!!」
「顔赤〜い!!」


 それからもどんどんと料理を運んでいき、食べ終わった食器を見つけたらすぐに厨房に運んで洗ってもらう。
 忙しくなったり暇になったりしている。
 暇になった時は生徒達と何気ない会話を楽しみ。忙しい時はせっせと走り回る。大変だ。


 段々とお腹いっぱいになった生徒が現れてきて、落ち着いてきた。


「クロアちゃんご馳走様でした!」
「美味しかったよ!」


 そういいながらも席に座ってワイワイ話している。


「クロア、どうだ」
「うん……凄く楽しい」
「良かった。もうすぐ朝の騎士カフェは終わりだな」


 これが終わったら休憩。他の出し物を見に行く事になっている。
 しかしまさか、騎士カフェにこんなに人が集まってくれるなんて思ってなかった。今頃下で出し物をしている生徒は寂しそうにしているだろうな。


ーーーーー


「そろそろ朝の騎士カフェは閉店となる! 次の開店は日が真上に登った時。今日はありがとうございました!!」
「昼もまた来るよ〜っ!」
「また来るね!!」
「俺達の出し物見に来いよ〜!」


 皆が俺達に手を振って食堂から出ていく。


「ふぅ……」
「お疲れ様」


 なんとか朝の仕事は終わったようだ。とても長く感じたな。


「クロアさん! 俺と一緒に見て回りませんか?」
「あっ申し訳ありません勇者様。私はリグと回ることにします」


 そう言って近くにいたリグの腕を掴んで抱き寄せる。


「うおぉっ! ん? あぁ俺とクロア2人で回ることにしてる。悪いな」


 ついに俺とリグ2人きりで楽しめる。


「リグ、行こう」
「おう!」


 勇者は学園長が近寄らせないようにしてくれると言っていたから問題ない。


 俺とリグは鎧を来たまま、食堂から出た。

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