女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

53話 モテても良い事は何も無い



「クロア先生! お疲れ様でした!」
「「お疲れ様でした!」」
「は〜い」


 授業も無事に終わって、もうすぐ卒業する生徒からは魔力コントロールが出来るようになった生徒もチラホラと現れてきた。
 教え方が大丈夫か分からないけど、とりあえす今のところは問題なさそうだ。


「先生! 誰か読んでますよ?」
「んっ?」


 生徒の1人が廊下の方を指指した。


「ども」


 勇者サトウだった。
 俺は急いで資料を手に取って廊下まで出る。


「勇者様っ、いきなり大勢の人の前に現れたら生徒が混乱します」


 他の生徒に聞こえないよう小声で喋る。


「クロアさんがここで先生してるって聞いて見に来たんだけど……迷惑だったかな……?」
「っ……迷惑じゃありませんけど……勇者だという自覚をしてください!」
「ごめんね」


 クソ王子の執事デニートが教えたのだろう。今度会ったら執事もボコボコにするか。


「クロア先生〜その人誰〜? カッコいい〜」
「カッコいい〜! 先生の恋人?」
「ちっ、違うから! 今日から学園に入ることになったサトウさん」
「よろしくね」


 よろしくね、じゃねぇ。


「と、とりあえず来てください!」
「うわっと」


 とにかく少しでも早くあの場から離れる為に、人が少ないトイレの前に移動する。


「先生をしている時には見に来ないでください」
「やっぱり迷惑かな……」
「迷惑じゃありませんけど……来るなら授業を受けに来てください」


 俺は見世物じゃないんだ。ただ見に来るだけより、授業を受けた方が良いだろう。
 でも、勇者は既に魔力コントロールか完璧だから授業を受ける必要は無い。


「そっか……分かった。じゃあ今から何か予定ある?」
「無いですけど、何か話でも?」
「話って訳じゃないんだけど、なんとなく一緒にいたいなって」
「っ……」


 くっ……どうして俺はドキッとしてしまうんだ。耐えろ、俺にはリグがいる。


「おうクロア。そいつは……もしかして勇者か?」
「ひっ……えっと……あの……俺、サトウっていいます」
「勇者だな。クロアから話は聞いてるよ」
「貴方は……?」
「俺はリグリフだ。よろしくな」


 リグが俺の横にやってきた。
 この3人が集まると気まずい……俺だけか?


「言っとくが、俺はクロアの恋人だ。手を出そうなんて、勇者とはいえ許さないからな」
「は、はいっ!!」
「リグ……見た目が怖いからビビってるだろ……」
「ん? そうか? 悪かった」
「いっ、いえ!」


 元不良グループのリーダーで今は冒険者。見た目が黒い狼だから、少し笑えば凶暴な牙が見える。慣れない人は怖がるだろうな。


「サトウって言ったか? とりあえず、俺達は友達だ」
「ダチ……ですか」
「友達な」


 リグがヤンキー時代だった頃、適当に暇そうな奴集めては友達にしてた癖が働いている。これも群れで行動する狼の本能だろうか。
 怖い見た目とは裏腹に、尻尾はフリフリと動いている。


「勇者様、尻尾を見れば感情が分かるので怖がる必要は無いですよ」
「あっ……本当だ」
「それでクロア。今さっき何してたんだ?」


 それを聞いてくるか。


「授業中に勇者様が見に来てたから、それをやめてくれるように言おうとしてたところだ」
「本当に申し訳ないです」
「あぁ気にすんな。クロアは可愛いからな〜……見つめるだけで癒されるよ」
「変なこと言うなっ!」


 リグの腕を抓って制御する。


「あの、クロアさん」
「はっはいっ?」


 来た……急に今まで以上に勇者を意識してしまう。


「もし迷惑でなければ、俺もその授業受けてもいいですか? まだ慣れないので……」
「迷惑じゃないですよ。……どうぞ、いつでも」


 まずい、顔が熱くなってきた。サトウの顔を見ることができない。


「授業中、クロアに変なことするなよ」
「は、はいっ!!」


 リグが話しかけると、意識が紛れた。ふぅ……これが勇者の能力なのだろうか。故意? それとも不規則?


「よしクロア。行こうぜ」
「あ、ああ……じゃあまた」
「うん。また授業で会おう」


 まだドキドキしている。
 その場から離れる時に、俺はなるべく勇者様の事を意識しないようにリグの腕をずっと握っていた。


ーーーーー


ーーーーー


──うわぁ……あんな怖い人がクロアさんの彼氏さんか……ちょっと【モテモテ】をクロアさんに絞ってみたけど、怖くてすぐにやめちゃった。
 やっぱり【モテモテ】はズルい……効果が強すぎるあまりにクロアさんが苦しんでいる。もう彼氏さんがいるのに……帰る時もずっと握ってた。俺は酷いことをしてしまった。


「はぁ……」
「いたわ! 勇者様よ!!」
「キャー! 勇者様〜っ!!!」
「えっ……?」


 突然、前から大勢の女子生徒が迫ってきた。


「捕まえた〜っ!!」
「「キャ〜っ!!」」
「うぐっっ……」


 大勢の女性に抱きつかれて苦しい……俺が【モテモテ】の力!? あまりに強すぎて……。
 いままでクロアさんの反応が普通だと思ったら、こんなにも寄せ付けてしまうのか……。


「みんなっ……苦しいっ……!」
「「ごめんなさいっ!」」


 あっ、言う事は聞いてくれるんだ……。


「……」


 皆が上目遣いで見つめてくる。許して、と思っているのだろう。だが、1人1人が美人ばっかりでなかなか言葉が出てこない……。


「……我慢出来ないっ! ごめんなさいっ!」
「あっズルイ! 私も!」
「私もっ!!」
「あぁっっ!!」


 すぐに腕に抱きつかれてしまった。


「勇者様可愛い……」
「カッコいい」
「守ってあげたい」


 これって……母性本能が俺に対して働いてるのか? 【モテモテ】の効果って少し違う種類もあるのか……。


 ハーレムも悪くないかも…………でも俺はクロアさんが好きだし……。


「あぁっ!! どうしようっ!」
「勇者様っ!? ごめんなさい!」
「「ごめんなさい!!」」
「い、いやっ! 違うんだ!」
「違うんですね!」


 あぁどうしよう……大勢の女性に好かれるのがこんなに辛い事だなんて……!
 俺はクロアさんが好きなんだ!!


「あっ! 勇者様〜〜っっ!!」
「来るなぁぁぁっ!!!」
「「分かりました!!」」


 俺は逃げるように自分の部屋に帰っていった。

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