女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

52話 可愛くなる秘訣は恋をすること



「はぁ……」


 驚愕の一言を最後に無理矢理部屋に転移させられた俺は、とりあえず部屋の外に出る。


「リグ……」
「おう、おかえり」


 俺を見た瞬間に、分かりやすく尻尾を振り出した。本当にコイツは犬だな。


「とりあえず入って」
「何かあったか?」
「そりゃもう世界に影響を与えるような事がね」


 そんな事を話しながらベッドの上に座る。


「世界に影響?」
「そう。日本から勇者を召喚したって事だ」
「日本から勇者!? ま、待て! それじゃあ、今この世界に日本人がいるって事か!? それも日本人!」
「そういってるだろ。転生でも何でもない、そのまま召喚された勇者。まあ何らかのチートを持ってるんだろうけど」
「チートってお前……小説の読みすぎだろ」
「うるせぇ」


 とりあえずリグの頭を殴っとく。


「最近俺に当たり強くなったよな」
「ん? そうか?」
「ああ」


 自分ではそんなつもりは無いんだけどな。


「でさ、悩みが出来たんだよ」
「悩み……俺に相談してくれ」
「元からそのつもり」


 でも、勇者様を好きになってしまった〜なんて言えばリグが悲しむだろう。どういう風に伝えようか……。


「多分……勇者の能力なんだとは思うんだけど」
「なんだ」
「勇者に対してもドキドキするんだよ……」
「それって……」
「恋愛的な意味で」


 どう返ってくるのだろうか。絶対失望したに違いない。俺にはリグがいるというのに、他の男を好きになるなんて……。


「なるほど。ハーレム系の勇者か……」
「え……?」
「ん? だから、女に好かれやすい勇者って事だ。もしかすると、そいつは日本ではモテていなかったのかもしれない」
「た、確かにモテなくて辛いって言ってた……」
「じゃあ確定だ。そういう奴は大抵、異世界に行くとハーレムを作り出す。異世界小説のテンプレだ」
「リグこそラノベの読みすぎじゃねぇか」


 でも良かった……リグに嫌われなくて。


「俺がお前を嫌うと思うか?」
「えっ……? 声に……出してた?」
「ああ、バッチリ」
「……聞かなかったことにしてくれ」
「おう。嫌われたくない気持ちってのは痛いほど分かる。俺も昔お前に嫌われたゴホォッ!?」
「その話は終わり」


 あれは俺が素直になれずに距離を置いていただけだ。その時リグは今の俺と同じような気持ちだったんだな。


 よし……俺は勇者の能力に負けない。俺はリグだけを……って何恥ずかしい事考えてるんだ。


「クロアは俺のこと大好きだから、他の男の所に行かないもんな〜」
「だっ抱きつくなって! 私が元々男だった事忘れたかよ!」
「今は女だ。それに段々と中身も女っぽくなってきてるし」
「えっ……マジ……で?」
「マジ。だって昔のお前なら、そんなに叫んだりしなかっただろ」


 俺……女の性格が一番嫌いなのに……俺自身がそんな性格になってしまうのか……?


「嘘だろ……」
「まあそう落ち込むなって。可愛くなったじゃん」
「リグはいいんだろうけど……私は全く良くない」
「んだよ〜可愛くなったこと認めろよ〜」
「前世で80歳くらいまで生きたジジイが変な口調使うな」
「俺の中身は前世のお前が死んだ日から止まってるんだよ!」
「わぁ子供っぽい」
「なんだと〜!?」
「わっ!」


 悪ふざけでじゃれあっていたら、リグが俺を押し倒してきた。


「……な、何」
「俺とお前の愛は前世だとか、他の男だとかと関係ないだろ。好きだから好きになるんだ」
「……わ、悪かったよ……」
「もう1度俺の愛を身を持って感じさせてやる!」
「……好きにすれば……」
「あれ……抵抗しないのか?」
「した方がいいのかよ」
「いや……お前から受けになってくれるとは思ってなかった」


 何が言いたいんだ……確かに前は俺が力技で速攻で終わらせたけどよ……。


「今回は……俺の好きにヤらせてくれるんだな」
「さっさとしてくれ。学園長に許可貰ってるから」
「はっ!? 学園長にバレてんの!?」
「中には出すなよ」


 その日、俺は浮気しない為にもリグとの愛を確かめ合った。
 俺は絶対に勇者に負けないし、女みたいな性格にもならない。俺は俺を貫くんだ……能力なんかに左右されてたまるか。


ーーーーー


ーーーーー


ガチャッ「……あれ? クロアちゃん帰ってきてたんだ。おかえり!」
「ただいま」


 リグが自分の部屋に帰っていった後、ソフィが帰ってきた。


「……何か匂わない……?」
「ん? ……分からないけど、窓開けるか?」
「うん。それで、王子様に呼ばれたんでしょ? どうだったの?」
「王子様って……」


 窓を開けながら昨日の出来事を思い出す。


「まあ王子と知り合いになって、無理矢理私の魔力使われて勇者召喚したくらい」
「勇者様! やっぱり噂は本当だったんだ!」
「噂?」
「そう! この学園に勇者様がやってきたって! それも私と同じ年齢……」
「16歳な」


 もう噂が広まっていたのか。変なのに絡まれないといいな……サトウ。


「クロアちゃんまた雰囲気変わった?」
「それたまに言われるけど、どう変わってるか自分でも分からない」
「えっとね……普段は大人の女性みたいにクールなんだけど、今は可愛い女の子」
「ふぅん……」


 そう言われても全く分からない。性格も変わってきてるし……自分が心配だ。


「私もクロアちゃんみたいに可愛くなりたいなぁ……」
「……恋すればいい」
「恋?」
「そう。好きな人作ればいいんだよ」
「私はクロアちゃんが好きかな!」
「じゃなくて、男。勇者とか」
「あっ! じゃあ私勇者様好きになる!」


 ソフィはいつまでも子供だな。


「今度勇者に会わせるよ」
「やったぁ!」


 あ……結局勇者と俺も会わなくちゃいけない事になったけど、まあいいか。目的はソフィを紹介する事だ。


「ねぇクロアちゃん。クロア先生を待ってる人沢山いるよ」
「あっ!! やっば忘れてた!」


 毎日先生をしなきゃならないんだった!


「行ってくる!!」
「行ってらっしゃい」


 資料を手に取って走り出す。
 クソ王子のせいで先生の仕事サボるとこだったじゃねぇか! 今度あったら学園長と一緒にボコボコにしてやる!!

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