女嫌いの俺が女に転生した件。
51話 なんでもお見通しの学園長は味方
なんだったのだろうか……さっきから何かおかしいぞ。もしかして、勇者特有の能力なのだろうか。
今は少し落ち着いてるけど、どうしても意識してしまう。
「あのっ……」
「は、はい」
「私……先に寝てますね」
「あっどうぞ……ベッド使っていいですよ」
「いえ、勇者様のベッドなので私は椅子で」
なるべくサトウに顔を見られないように、反対側を向いて目を閉じる。
しかし、どうしても近くにサトウがいると意識してしまって眠れない。
「じゃあ俺も寝ようかな……明かり消しますね」
「はい」
部屋が暗くなって、意識が自分の脳内に集まった。これで眠れるだろう。
──パサッ
「んっ?」
「あっ、すみません。一応身体を冷やさないようにと……」
「ありがとうございます」
布団を掛けられた。
どうしてこんなにドキドキしてしまうのだろうか。まあ寝て起きればこんな気分も無くなるだろう。
よし、寝よう……。
ーーーーー
ーーーーー
「──ん。クロアさん」
「はっ、はいっ!」
名前を呼ばれた気がして、すぐに目を開ける。
「勇者様の準備が整いましたので、学園に行く準備を」
「あ……はい」
執事のデニートだった。
部屋には俺とデニートしかいないので、サトウはどこかで準備をしているのだろう。俺は何も持ってきてないので、さっさと帰るだけだ。
「あの、勇者様はどこに?」
「フロンガード学園の制服、そして剣をお選びになっています」
「剣?」
「勇者ですから。剣を持たずに何を守るのでしょう」
「そ、そうですか」
まあ俺も剣は部屋にあるし、別に持ってても問題ないか。
しばらくデニートと部屋で待っていると、制服姿のサトウとアルが入ってきた。
「っ! 似合ってますね」
「そ、そうかな」
俺が正直に伝えると、照れくさそうに首をポリボリと掻きながら下を向いた。照れ屋なのか。
左手には金色の装飾が施された剣を持っていた。流石王子直々のプレゼント、豪華だ。
「クロアは準備できたのかい?」
「準備も何も、そもそも突然ここに連れてこられたんですから何も無いですよ」
「欲しい物があるなら、何かプレゼントしますよ?」
ほう? クソ王子の癖に俺にプレゼントしてくれるのか。
「じゃあ──」
「そうだ。私の似顔絵入りのペンダントをプレゼントしましょう」
そういってポケットからペンダントが出てきた。絶対元からそれ渡すつもりだっただろ。
更には、下の小さなボタンを押すとパカッと開いて、クソ王子の顔が現れた。
「どうぞ?」
「いらないと言ったら?」
「将来の私の嫁候補なのに、とても残念です」
「勝手に候補に入れないでください。要りません」
「そうか。じゃあ私が首にかけてあげよう」
要らないって言ってるのに……。仕方なく首にかけさせてやった。
ペンダントなんて前世含めてもかけるのは2回目くらいだろうか。痒くなりそうだ。
「……意外と抵抗しないんだね」
「悪いか?」
「そういうところも好きだ」
ふん。クソ王子なんかに言われても嬉しくないな。このペンダントは後でリグに売ってきてもらうか。
「さて、お二方の準備が整ったところで学園へ転移します。宜しいですか?」
「俺は大丈夫です。クロアさんは……大丈夫そうだね」
「大丈夫です」
「では、失礼」
デニートが俺とサトウの肩に触れると、あの浮遊感がやってきた。
前から思っていたのだが、学園長に転移してもらう時腕にしがみつけって言われてるんだけどそんな必要ないよな? あれって……ただの学園長の趣味だった訳か。
転移先は学園長室だった。
「あら? クソ王子の執事さんじゃない」
「お久しぶりです。ベリアストロ学園長」
学園長もアルの事をクソ王子と言っているのか……。
「その方が勇者様ね。よろしく」
「よっ……よろしくお願いします」
何学園長相手に顔を赤くしてるんだか。
「この人、こう見えても200歳以上ですよ」
「えっ!? そうなんですか?」
「あら。ごめんなさいクロアさん……私はクロアさんだけの物だから、安心して」
他人誘惑して妬いてる訳じゃないから学園長の方こそ安心してほしい。
「改めて自己紹介するわね。私はフロンガード学園学園長ベリアストロ、王国騎士団幹部の魔女をやっているわ。よろしくね、勇者様」
「魔女……よろしくお願いします」
まあ魔女って言葉には驚くわな。
「あぁおかえりなさいクロアさん……急に連れていくなんて、クソ王子に変なことされなかったかしら?」
「大丈夫だから……くっつくなっ……て!」
勇者よりも優先順位が高い俺っていったい……。
「学園長さん。勇者様のお部屋の鍵を……」
執事のデニートも困っているようだ。これには俺も同情する。
「そうだったわね、えっと……A-153でいいわ」
そういったテーブルから取り出した鍵をデニートに渡した。
「ほら。さっさと転移で連れて行ってあげて。私は早くクロアさんと久しぶりに話したいの」
「分かりました。勇者様、参りましょう」
「…………あっ、はい」
デニートが勇者の肩を触って、すぐにてんいしていった。
「…………」
「そう怯えなくても、酷い事はしないわ。話すだけ」
「それなら良かった」
俺と学園長は椅子に座った。
「あのクソ王子に変なことされなかった?」
「変なこと……まあ勇者召喚に無理矢理手伝わされて、魔力全て使われたくらい」
「……今度あったらボコボコにしないといけないわね」
学園長の殺意が目に見えるほど滲み出ている。この人が味方でよかった。
「それで学園長」
「何かしら」
「昨日、リグはどうしてたんだ??」
「やっぱり気になるのね」
そりゃそうだ。2人で散歩を楽しんでいたところで、クソ王子の執事に誘拐されたのだからな。
「心配してたのか?」
「少しは心配してたわよ。でもアイツなら大丈夫だって言ってたわ。部屋の前でずっと帰りを待ってるみたいだけど」
本当に犬みたいだな。
「分かった。すぐに会いにいかないとな」
「どうしてそんなに急いでるの?」
「それは……」
「好きな人が出来たとか」
「ちがっ……!」
「大丈夫よ。クロアさんとリグリフさんの愛は本物だもの。勇者様が狙わない限り、クロアさんは耐えれる」
全てお見通しって事か……。でも、耐えるっていうのが1番辛い事なんだよな。
「……」
「リグリフさんと、また愛を確かめ合いっこすれば、いいじゃない」
「確かめ合いっこって……」
「子供生まないようにね」
「っっ!!??」
「ふふ、冗談よ。それじゃあ、また何かあったら会いに行くわね」
足に触れられて、一方的に部屋に転移させられた。
あの事も学園長にバレてたのかよっ!!!
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