女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

43話 童貞は勘違いが激しい

 なんとか体調も戻ってきた頃、俺はいつものように先生の役目が終わり後片付けをしていた。


「お疲れ様。最近体調悪いんだってな」
「まあ大丈夫ですよ」
「俺でいいならなんだって力になるぞ」
「いえ、ティライ先生や学園長、それにリグがいますので」
「変わらないねぇ」


 片付けといっても、生徒の成長記録のような物を書いた紙だ。この日は元気で魔力も上手く流れていた、とかそんな感じで、先生が記録している。それを俺は授業前に確認して、集中的に教える生徒を決めている。


「この後予定は?」
「今日も特に無いです。いつも断ってますから、今日は付き合いましょうか?」
「おっ、いいのか」


 理由も無く断ったままというのも失礼だしな。


「何か相談でも?」
「まあ……人に話しにくいような話だな。こんな事話せるのはクロアさんだけだよ」


 資料を両手に抱えながら、話しやすいようにと先生の部屋に向かっている。
 普段何の悩みも無さそうな先生だけど、話しにくい悩みをこっそり抱えてたんだな。


 先生の部屋は、寮塔の1階部分にある。
──先生の部屋にやってきた。


「それは適当なテーブルに置いてくれ」
「分かりました」


 綺麗……とはいえない部屋の、少しゴミが散らかったテーブルの上に資料を置いた。


──ガチャ


「……? どうして鍵を?」
「人に聞かれるのは恥ずかしくてね……念の為だよ」
「そうですか」
「どこで話す……と言っても座る場所無いね」


 床は散らかっていて、座る椅子も無い。


「とりあえずここに座って話しましょう」
「そうだな」


 一つしかないベッドに座って、俺は先生の話を聞く姿勢になる。


「……」
「どんな内容でも絶対に他言しないので、何でも聞きますよ」
「いざ話すとなると……緊張するな」


 ははは、と笑いながら頭の後ろをかいた。


「先生にそんな大きな悩みがあるなんて、ビックリしました」
「う〜ん……そうだね」
「信用してください。先生」


 どんなに大きな悩みでも、聞くだけなら出来る。口に出して吐き出してしまえば少しは気が楽になる。
 もしかしたら力になれるかもしれない、と。そう思って先生に強く言った。


「……ごめん……」
「どうして謝るんです?」
「実は俺……童貞なんだ」
「そうなんですか。気にしませんよ」


 俺だって童貞だ。前世から守り抜いた童貞。童貞を失う事すらできなくなった今じゃ、他人を童貞だと馬鹿にする事は出来ない。


「俺……クロアさんを襲おうとしてたんだ」
「襲おうと……それは性的な意味で?」
「本当に申し訳ないと思ってる。いざこのシチュエーションになると、勇気が出なくて……冷静になって考えたら、俺はなんて事をしようとしてたんだって……」


 俺を襲おうと……か。まあ襲われたとしても俺なら抵抗出来るし、そもそも行為まで走ってないから許せる。


「だから、気持ちを確認させてくれないか」
「気持ち?」
「クロアさんは……俺の事好き?」
「……」


 好きと言われたら好きだし、嫌いとは言えない関係だけどなぁ……。恋愛的な意味での好きとは違う、友情的な意味の好きだな。なんといっても童貞という共通点がある。


「友達以上、恋人未満で好きですよ」


 つまり、この好きに恋愛的な意味はないと傷つけないように言った。


「好き……クロアさんは俺の事が好きなのか……」


 その言葉をしっかり心に受け止めようとしている。


「じゃあ両思いだ」
「……はい?」
「実俺もクロアさんの事が好きだったんだ。クロアさんも俺の事が好きなら両思いだな」


 童貞特有の勘違い、という奴だろうか。


「い、いえ。恋愛的な意味は無いんですよ?」
「でも嫌いじゃないんだよね?」
「えぇまあ……」
「じゃあ両思いだ……俺と君は付き合える」


 こ、この人は何を言ってるんだ。


「先生と生徒の恋愛は校則で禁止されてますよ」
「俺達の愛を縛れるものなんてないじゃないか。なぁ、俺達恋人なんだから……してもいいよね」
「っ……」


 そういってニヤニヤとしながら身を寄せてきた。
 思わず後ずさりしてしまうと、先生は不機嫌な顔になった。


「どうして好きな人から離れるんだ? 好きなら、身を任せてくれてもいいじゃないか」
「いやだか──」
「しようっ!!」


 先生が興奮したまま飛びかかってきたので、すぐに避けて部屋の外に出ようとするが。


「開かないっ……」
「この日のために細工をしてるんだよ。出る方法は俺しか知らない……2人っきりだね!」


 先生がジリジリと距離を詰めてくる。ここで魔法を使って部屋から逃げるというのも有りだが、それだと後々に響いてきそうだ。
 とりあえず鍵の部分に魔力を流して、どのような構造になっているのかすぐに把握する。


「先生、もししてしまったら未成年に対する性的暴行で退職。運が悪ければ奴隷になりますよ」


 その間もなんとか説得をする。


「俺は今この時の為に生きてきたんだ。君と出来さえすれば死んだっていい」
「気持ち悪い……」
「気持ち悪い?」


 しまった。思わず本音を口に出してしまった。


「俺が気持ち悪いだと!? じゃあなんで俺を好きだと言った! 気持ち悪いのが好きなら好きなだけ気持ち悪くしてやるよ!!」


 どこからか剣を取り出し、今にも襲いかかって来そうな体勢になった。
 が、もう既に鍵の開ける方法は分かったし、いますぐに開けることだって出来る。簡単な事に、ドアノブを1度引いて押せば開くようだった。


「俺が考えた最高のプレイで楽しませてやるよぉっ!!」


──ガチャッ


 剣を持って襲いかかってきたタイミングに、ドアを開けて部屋の外に逃げる。


「何っ!?」
「あらクロアさん。こんにち……何が起きてるの?」
「この人が私を計画的に襲おうとしてきたので、対処お願いします」
「なっ……分かったわ。誰か〜!! 助けて〜!!」


 こんな時には女は頼りになるな。


「どうした!」
「何があった!」


 女先生の声で、周りの部屋から続々と先生達が出てきた。


「ち、違うんだっ! こ、これは……そう! 剣術を教えていたんだ!!」


 ここまで来て嘘で誤魔化そうとするが、時すでに遅し。


「がっ、学園長!?」
「クロアさん大丈夫だった?」
「はい。まだ触れられていません」
「良かった。……貴方は私のクロアさんに手を出そうとしたのだから、死ぬまで奴隷として働いて貰うわ」
「違うん──」


 最後に何か叫ぼうとして、学園長に転移させられた。


「クロアさん大丈夫?」
「怖かっただろう」
「もう大丈夫だからね」


 周りの先生達に優しい声を掛けてもらった。


 まさか真面目そうな先生がこんな事をするなんてな。犯罪を起こすような人は案外近くにいるのかもしれない。

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