女嫌いの俺が女に転生した件。
37話 アーガスの噂
「早く騎士団加入の手続きしてくれる?」
「おぉそうだった。んじゃちょっと待っててくれよ」
何やらカウンター席のような場所の奥に入っていった。この場所はまるでお店のような作りになっていて、皆で宴会でもしそうな場所だな。
しばらくしてアーガスさんが帰ってきた。手には1枚の紙。
「この紋章に魔力を注いでくれ」
髪には鱗が沢山ついた盾のような紋章が描かれている。
「これは?」
「フロンガード王国の国旗のような物だ。これに魔力を注げば、お前の鎧に紋章が浮かんでくる。これで立派な王国騎士団になる」
「そんな簡単に騎士団になっていいんですか?」
「なんせ幹部のベリアストロからの推薦だ。試験なんて必要ないさ」
なるほど。じゃあ俺は学園長に感謝しなければならない。
「ありがとうございます、学園長さん」
「礼を言うのなら私の事はベリアストロと呼んで」
「ベリアストロさん」
「はい」
礼を言ってから、紙の紋章に魔力を注いだ。
すると、手の平から何かが流れ込んでくるのが分かった。不思議な感覚だ。魔力とは違って、少しだけ冷たい。
その不思議な物が胸元まで行くと、段々と暖かくなり。鎧の右胸に紋章が浮かび上がった。
「おめでとう。今日からお前は王国騎士団の1人、俺達の家族だ」
「ありがとうございます……」
ついに……俺に職業が出来たのか。それも王国騎士団……カッコイイな。騎士団ってだけでカッコイイのに、それが王国を守るという大きな仕事を持つ騎士団。ワクワクが止まらない。
「この騎士団には今46人の人間が入っている。クロアを合わせて47人だ」
「……46人?」
「少ないと思っただろう。だが、一人一人が盗賊団を壊滅させることができるほどの戦力を持っている。それが47人も集まれば更に戦力は上がる。
騎士団に入ったらには、皆の命を守れる強さ。足を引っ張らないように日々精進する事だ。
1人は皆の為に、皆は1人の為に。常に命を背負ってる事を忘れるな」
「……分かりました」
王国騎士団に入るからには、それだけの覚悟が必要だという事だろう。楽しい仕事じゃない。常に死と隣り合わせのこの世界で、最も危険な仕事。それが守る事だ。
守る事を仕事にした騎士は、稼ぎは良いが死ぬ確率も高いだろう。毎日戦闘的な面を鍛えた方が良さそうだ。
「つっても、騎士団にいる奴らは皆化け物並だからな。死にたくても死ねないほど強い」
「アーガスが1番化け物なのにね」
「はっはっ! こんだけ化け物が集まればフロンガード王国は無敵よ!!」
なんじゃそりゃ……二人の様子からして、危険な仕事をしてるとは思えないほど平和な笑い方をしている。この騎士団は化け物だらけというのは本当のようだ。
「えっと……アーガスさん」
「おぉなんだ。新人だからって気を使わずに何でも言え!」
「私は早速何をしたらいいんで……だ?」
あやうく敬語を使ってしまうところだった。アーガスさんの思想では、家族である仲間に稽古を使うのは侮辱、という認識らしい。
「初日からそんなに焦るな。騎士は基本的に国が危機に陥った時に助ける物だ。毎日する事と言ったら国中を散歩するだけよ。
それに、まだ学生だろ? 学園に戻って自慢してきたらどうだ」
「そうね。クロアさん、帰りましょうか」
元々今日は騎士団加入するだけの予定だったし、何も問題が無いのなら帰っても良さそうだな。
「では、今日はありがとう」
どうも敬語で喋るな、と言われたのを意識すると変な言葉になってしまう。
「おう! また好きな時に遊びに来い!」
「じゃあ捕まって」
「はい」
最後にアーガスさんに一礼して、学園へと帰っていった。
ーーーーー
学園長室に転移してきた。
「お疲れ様。何か不安とかはない?」
「今のところ大丈夫そうだ。思ったより穏やかな場所で安心した」
「それは良かった。じゃあこれからは1人の騎士として、学園の平和を守ってもらおうかしら」
「自分にやれる範囲で……」
なんか恥ずかしいな。でも、こうして小さい時からの夢である "騎士になる" 事が出来た。俺の本当の人生はここから始まる。
「では学園長さん、今日はありがとうございます」
「なんだか気合が入ってるわね。しばらくは王城には行かずに、勉強に集中するのよ。もし何かあったら呼びに行くわ」
「分かった」
じゃあ俺は自由に学園生活を送るとしよう。前世のように毎日働く社畜──奴隷にならなくて良かった。
「じゃあ私は色々とする事があるから。皆に報告してきなさい」
「はい」
ニコッと笑った学園長に、A-975号室に転移させてもらった。
「ただいま〜」
「あっクロアちゃん!」
「クロアちゃん雰囲気変わった!」
ティライとソフィが、俺を見た瞬間満面と笑みで近づいてきた。
「ほら、正式に騎士団に加入したから紋章があるんだよ」
「わぁ! カッコイイ!」
「クロアちゃんが王国騎士団……凄い!!」
二人とも子供のように喜んでいる。ソフィは良いとして、ティライは先生なんだからもっと落ち着け。
「どうだった? 王城」
「意外と穏やかな場所だったよ。団長さんに挨拶と加入手続き終わらせてすぐに帰ってきたけど」
「団長さんって……アーガスさんだよね?」
「知ってるのか?」
まあ王国騎士団の団長なんだし、かなり有名なんだろうけど。
「知ってるも何も、アーガスさんは20歳の時に国同士の戦争に出向いて、1人で劣勢だった戦況をひっくり返した凄い人だよ」
「へぇ〜……そんなに凄い人だったのか」
「噂によると凄く怖い人って話だけど……」
「凄く優しいよ。騎士団の人は皆家族同然。まるで皆のお父さんのような存在だった」
「ほぇ〜……。クロアちゃんそんな凄い人と会えるなんて……やっぱり天才は生きる次元が違うね」
前世の記憶と神様との交流があるだけで、そんなに尊敬されると照れるな。
「私のクロアちゃんがしゅごいひとに……」
ソフィが俺に抱きついてごにょごにょ何か言っている。
「あぁぁ〜っ! 早く皆に自慢しなきゃ! 先生達に言ってくる!」
「なんて?」
「あの王国騎士団に加入した天才クロアちゃんを育てたのは私だって! じゃあねっ!!」
「あっ」
凄い勢いで部屋から出ていった。
育てたのがティライってのは粗方間違ってはいないんだけど……なんだろう。良いとこどりされたような感覚は。
「クロアちゃん」
「ん?」
「大好きっ……!」
そしてどうやら、ソフィには更に懐かれたようだ。
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