女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

36話 いざ王城へ! 皆の父親アーガス

「クロア起きろ」
「……」
「おい」
「っ……んん……?」
「学園長が来たぞ」
「っ! どこ!?」


 リグに起こされて、すぐに起き上がる。


「そこ」
「おはよう」
「あっ……おはようございます」


 部屋の外に学園長が立っていた。扉が開きっぱなしになっており、俺が寝ている時から見られていたのだろう。
 ティライとソフィはまだ眠っている。


「さあ、着替えたらすぐに出発するわよ」
「待ってください……髪結い直します」


 髪がボサボサになっている為、1度紐を解いて自分で頑張って……無理だ。


「私がしてあげるから、鎧に着替えなさい」
「はい」


 鎧を体の周りに出現させて魔力を込める。これだけで装備完了だ。


「その魔法……学園長、どうして俺には教えてくれないんですか」
「必要ないでしょう? 男なら自分の力で運びなさい」
「? リグは学園長に魔法教えて貰ってたのか?」
「ああ」


 知らなかった。だからあんな凄い魔法使えたんだな。っと、その前に準備だ。
 荷物置き場になっているベッドの上から、昔貰った剣を右手にとる。


「そういえば模擬戦の時から気になってたんだけど、クロアは左手で剣を構えるんだな」
「うん。その方が持ちやすいんだ」


 常に右手に持つことで、左手で抜刀しやすくしている。


「では髪を結ったら行きましょうか。リグリフさんありがとうね」
「いや、たまたま最初に起きたからしただけだ」


 リグが起こしてくれなかったらティライとソフィに迷惑を掛けていたかもしれないな。


 学園長に髪を結ってもらい終わり、準備を完璧に済ませる。


「頑張れよ」
「ああ。なるべく早く帰ってくるようにするよ」
「では、しっかり捕まってね」


 学園長の腕に捕まると、いつもの浮遊感と共に視界が別のものに変わった。
 チカチカと眩しい装飾がされた家具に、ピカピカの木製床。天井には大きなシャンデリアが光っている。


「ベリアストロ、その子が王国騎士団に?」
「そうよ」


 目の前にいる男の人も王国騎士団の1人だろう。俺とは少し違うが、ほぼ同じような鎧を着ている。赤い髪で短髪。両目が赤色で、鼻の部分に横に斬られた後がある。


「は、初めまして……クロアです」


 厳つい雰囲気に威圧されつつも、なんとか事前に考えていた短い挨拶を口に出す。


「10年も眠ってたんだろ。それなのにしっかりしてんな」
「1歳の時からこうらしいわよ」
「ふむ……俺はアーガス。この騎士団の団長を務めている」


 だっ、団長!? 王国騎士団の団長っていきなり凄い人に会ってしまった!


「よっ、よよ……よろしくお願いします!」
「そう緊張する事は無い。騎士団に入ったからには、皆家族同然。気軽に接してくれ」


 右手を差し出された。握手だろう。
 俺も手を伸ばす。


「っ!」
「おぉ気づいたか」
「いきなりそれはどうかと思うけれど」


 アーガスさんの右手に大量の魔力が集まっていた。学園長程ではないが、その魔力量で握られてしまえば俺の右手が潰れてしまう。


「な、なんですか」
「いや、魔力を感知できるか試したんだ。どうやら魔術の才能もあるようだな」
「学園のグラウンドで見たのだけれど、凄かったわ。私の知らない魔法」
「何……?」


 な、何この人……家族同然の相手の右手をいきなり握り潰そうとしてきたんですけど……。


「ここで使うと皆を起こしてしまうわ。今はダメ」
「ほぉ、そんなに凄いのか」
「あの……あんまり期待されると余計に緊張するんですけど……」
「ああ緊張するな。ついでにその硬い言葉もやめろ。騎士団に入ったからにはありのままの自分で接するんだ。それが礼儀」
「……わ、分かった」


 最初は俺の右手壊そうとしてきたけど、話していると案外接しやすい人物だ。まるで父親のような暖かさと優しさ、そして威厳を持っている。王国騎士団の団長というのも頷ける。


「にしても可愛いなぁ……ベリアストロに変な事されなかったか?」
「ディープキスしちゃった」
「……」
「はっはっはっ……は? お前、こんな美少女の大事な初体験奪ったのか?」
「ごめんね」


 学園長も砕けた口調になっている。が、それが余計に腹立つ。
 そうだぞ、俺の初体験を奪ったんだ。罪を償ってほしいな。


「クロア、お前は今日から俺の娘だ。危ない人には近づくなよ」
「っ!」


 尻の下に腕を回されて、そのまま片手で抱えられた。地味にセクハラしてくるけど、筋肉が凄い。


「私が危ない人? 私はクロアさんに愛情を注いだだけよ。ね?」
「あの学園長……それ犯罪を犯す人のセリフです」
「……いいわねアーガスは。あっという間にクロアさんに懐かれちゃって」
「俺も驚いた……普通警戒しそうなんだが……」
「この状況でどちら側に付いたら有利なのか考えただけです」
「はっはっはっ!! 15歳にしては見事な戦術だな!!」


 戦術って……。俺はただ単に女より男の方が安心できるからであって、別に学園長を敵と見なしているわけじゃない。
 でも、アーガスさん傍にいると安心感が凄い。この人にならどんな事をされても許してしまいそうだ。


「やっぱ、女は強い男に惹かれるって言うからな! 後3年経ったら俺の嫁になるか!」
「アーガスはもう嫁さんいるでしょ」
「冗談だよ!!」


 強い男に惹かれる……か。あまり女と一緒にして欲しくはないが、この人に言われたら嫌悪感は全く感じない。
 アーガスさんは変なことしてこない。という安心感があるからな。セクハラしてるけど。



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