女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

35話 王城に行く前に教える事



 その日からなんだかんだで、ダラダラと王城に行くタイミングを伺っていた。
 部屋で皆と話したり遊んだりしているのも楽しいが、早く王城にも行きたい。


「あっひゃっひゃっひゃっ! やめっっやめひぇっ」
「ほらほら〜! こちょこちょ〜」


 ティライがソフィを擽って遊んでいる。俺とリグは、それを遠い目で眺める。こんなのが毎日なのだが、いつ王城に行こうか迷っている。


「明日王城行こうかな」
「「えっ!?」」


 その一言で、さっきまで遊んでいたティライとソフィが俺の方を向いた。


「まだ一緒に居ようよ〜!」
「そうだよ! 遊ぼうよ!」
「どうせ明日すぐ帰ってくるから、そんなに寂しくないって」
「でもぉ〜」
「でもねぇ〜……」


 2人だけで遊んでるだけなのに、なんで俺がいなきゃならないんだ。


「なぁリグ」
「なぁって……まあいつまでも行かないのは良くないしな。行かせてやれ」
「えぇ〜」
「そんなぁ〜」


 流石リグだ。


「じゃあちょっと学園長と話したいから、リグよろしく」
「はいよ」


 リグに学園長室まで転移してもらって、部屋の扉をノックする。


「クロアです」
ガチャ 「さぁ入って。……リグリフさんも来るの?」


 俺を見た瞬間ニコッとした学園長だが、隣にリグがいる事に気づくと真面目な顔になった。


「いや、俺はすぐ下に戻るよ」
「そうですか。ではクロアさん」
「うぉっ」


 腕を掴まれて部屋の中に入れられた。まるで今から襲われそうな雰囲気だな。


「どう? 行く気にはなったかしら」
「はい。明日の……朝からでも行きます」
「分かったわ。じゃあ伝えておくから、急に予定を変えるのは無しよ」
「はい」
「それじゃあ早速だけど」
「え……なんですか……?」


 突然俺の方を掴んで、部屋の奥に連れられた。


「服、脱いでくれる?」
「……え?」
「脱いでくれる?」
「え?」


 お、襲われてしまうのか……?


「王国騎士団は専用の鎧があるのよ」
「あ、あぁそういう事ですか。えっと……ここで脱ぐんですか?」
「そうよ? 鎧を装備方法を教えなくちゃ」


 この獣の前で服を脱げと……?


「そう怯えないで。大丈夫、襲ったりしないわ。今は」
「今は……?」
「仕方ないわね」
「えっ!?」


 突然指先が俺の身体に触れたかと思うと、俺はスポーツブラとパンツのみの姿になっていた。いままで着ていた学園指定の制服は学園長の手元。


「はっ、恥ずかしいんで……早く鎧着させてください」
「あらあら……良い身体」


 くっ……魔女め……人の服を簡単に奪いさりやがって。


 学園長の手元に、突然白い鎧が現れた。


「今のは……?」
「特別な空間に物を保管できる魔法よ。いつでも入れたり出したりできるの」


 へぇ〜便利だな。ってそんな事より早く鎧を着させてくれ。


ーーーーー


「──ね? 簡単でしょ?」
「意外と手間は掛からないんですね」


 ガチャガチャと音を立てながら、鎧を着た手足を曲げたり伸ばしたり。
 着方は案外普通だった。鉄の内側には革があって、それが丁度手足を通せるようになっている。それに手足を通して、最後に魔力を込めるとフィットするようになっている。


「重いですね」
「魔力コントロールが完璧なら大丈夫よ」


 魔力がない前世では、身体の力だけで重い鎧を着ていたのか……凄いな。まさか前世の昔の人々も魔力持ってたんじゃ……んなことないか。


「でも、こんな鎧どうやって持ち運ぶんですか? さっきみたいに空間に物を入れられたら良いんですけど……」
「えぇだから私が今から魔法を教えるわ」
「良いんですか!?」


 まさにあの魔法は 【アイテムボックス】 とかいうラノベによく出てくる魔法。ちょっと痛いネーミングだからそんな風には言わないけど、教えてもらえるのか。


「どうするんですか?」
「手の平に魔力を集めて、そこに集まった魔力をパカッと開くのよ」
「えっと……よく分からないです」
「簡単に説明すると、物を魔力と同化させて体内の魔力に変換する事よ」


 物を魔力と同化? それって、俺の身体と似たような感じだな。物は生命体じゃないからそういう事ができるのか。


「ま、いきなり出来るようにはならないわ。私だって一つ歳を取る頃にやっとできるようになったから」
「多分……こんな感じに。あ、出来ました」


 手の平の魔力をパカッと開いて隙間を与える。そのまま鎧に触れて、身体を魔力に変換させる感覚ですると簡単に出来た。


「……やっぱりクロアさんは天才ね」


 まあこれも神様の稽古が無ければ全く出来ない事だっただろう。


「って……服!」


 鎧を収納してしまった為、下着のみになってしまった。


ーーーーー


「じゃあ明日、私が朝から迎えに来るわね」
「はい。ありがとうございます」


 部屋に転移で帰してもらう。


「ただいま〜……って、寝てる?」


 部屋に戻ると、ティライとソフィとリグはぐっすり眠っていた。最近寝不足だったから仕方ないか。


 ベッドはソフィとティライに占領されていて、もう片方のベッドも荷物だらけになっているので、リグの横に座って俺も眠ることにした。
 起こさないように、ゆっくりと腰を下ろす。


「……」


 リグの寝顔を横から見て、カッコイイと思ってしまった。いやカッコイイんだけど、それをぼんやり眺めてしまった自分が恥ずかしい。
 少しだけ心拍数の上がった心臓を落ち着けて、目を閉じる。明日の朝、ついに王城へと向かう。礼儀正しくしていないとな。

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