女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

27話 一歩前進する事は危険が伴う



 次の日から、俺はリグと顔を合わせる事も出来ないで過ごしていた。ソフィやティライにどうしたのかと聞かれても、妄想の事は言えるはずがない。ただ無言で避け続けた。


 あれから授業もまともに出ていない。一応魔力コントロールの授業は先生の手伝いとして出ているが、それ以外は全くだ。
 1人で図書室に行くのもやめている。エミルに会ってしまうからだ。


 こんな事で引きこもりになるなんて思わなかった。


「はぁ…………っ〜〜〜!!」


 あの時の事を思い出すと悶え死んでしまうくらい恥ずかしい。記憶を消し去って欲しい。
 ベッドの上で1人、バタバタと暴れているだけで1日が終わっていく。


 この感情は俺自身がどうにかしないとダメだ。そもそもあれはただの妄想……実際に起きていた訳じゃない。
 それなのに……触れた感覚、触られた感覚が今も唇に残っている。エミルさんの唇だが……リグの顔を見る度にあの時を思い出してしまう。


 これはもう、少し怖いけどエミルさんに助けてもらうしか……いや、この場合学園長が良いだろう。この気分を落ち着ける為の知識を何か知っているかもしれない。


ーーーーー


 雲の高さまである学園、その階段を1人で一生懸命登った。これ登山よりきついんじゃないか? 転移したい。


「はぁっ……はぁっ……ついたっ……」


 学園長の部屋らしき扉の前。この先に、俺を救ってくれる人生の先輩がいる、と思う。


コンコン 「クロアです」


 しばらくすると、扉がゆっくりと開かれた。


「……どうぞ」


 わざわざこの部屋まで1人で来た俺に驚いたのか、学園長は一瞬目を丸くして部屋の中に入れてくれた。


「これ飲んで落ち着きなさい」
「あ、ありがとうございます」


 白いティーカップに入った紅茶を1口飲んで、話し始める。


「相談……というか教えてほしい事があります」
「その様子からしてただ事では無いようね」
「はい。私のこれからの人生、そして友人関係に深く関わっています」
「…………良いわ。私に出来ることならなんでもする」


 やはり、学園長は頼れるな。


「人の顔を見るのが恥ずかしくて見れない。というのはどうしたら治るのでしょうか……」
「……」


 それを聞いた学園長は、ふっと笑った。


「その相手は誰かしら?」
「……リグ……です」
「そう、それは当たり前の事よ」
「当たり前?」
「女の子が男の人を好きになる。とても良いじゃない」
「い、いやっ……別に私はリグの事好きだなんて……」
「そうよね……まだ信じられないわよね」


 俺がリグの事を好き……? ありえない。俺はただ頭の中で妄想してしまった内容が恥ずかしいだけで……そもそもなんで俺はリグにキスされた妄想で恥ずかしがってるんだ?


「1度、リグリフさんと話したらどうかしら」
「それが難しいから相談してるんです」
「そこを一歩踏み出せば、良い方向か悪い方向か、必ずどちらかには進むことになる。立ち止まっちゃダメ」


 そう……だろうか。1度リグと話すことで……あれはただの妄想に過ぎないという事を理解すれば良いのか。
 なるほど、現実を見れば……あれくらいどうでもいい、そういう事……なのだろう。


「分かりました……ありがとうございます」
「大丈夫? 部屋に送るわよ」
「いえ、心の準備をする為にも自分で降ります」
「……頑張って」


 その頑張って、は俺が階段を降りることなのか、それともリグに会って話すことなのか。どちらなのかよく分からない。


ーーーーー


「あと少し……」
「あ、クロア。最近どうしたんだ?」
「っ!」


 もう少しで俺の部屋がある階に到着する、そう思っていた時、突然リグが横から現れた。
 そ、そうだ……リグが俺の部屋の前いるなんてのは、授業がある時だけだった。


「えっ、あっ…………」
「おいっ! クロアッッ!!」


 ボーッとしていたのだろうか……俺は階段の下に落ちてしまった。
 全身を階段の角に打ち付けて痛い。


「いっ…………た…………」
「大丈夫か!? おいっ……血がっ…………誰かっ!! ティライ! ティライ先生を──で────!! ──」
「……ごめ…………ん……」
「────!! ──!」


 遠ざかっていく意識の中、リグが必死に俺の名前を叫んでいる顔が見えた。カッコイイ……な。


ーーーーー


「クロアの意識は?」
「表面的な傷は治したけど……かなり酷い状態だったから」


 そうだよな、階段から落ちて……頭が潰れていたような…………。


「っ……!」


 思い出しただけで胸が苦しい……あの時、俺は助けれていたはずだ。でも……あの時クロアの俺を見る目が、いつも拒絶しているような目に感じて……動けなかった。


「くそっ……」
「大丈夫。クロアちゃんならきっと……」


 違う、俺は自分にイラついてるんだ。俺がクロアに拒絶されるような事をした覚えはない……でも、きっとどこかで傷つけていたのだろう。いつまでもそれを聞き出せずに……クロアにいつも通りに接してしまった。
 意識を取り戻した時、合わせる顔がない……。


「クロア……」


 今はただ、クロアが目を覚ますのを祈ることしか出来ない。手を握って、ゆっくりと呼吸をしているクロアを応援するしかない。


 いつもなら、こんな可愛い寝顔を見れて喜ぶのだが今回ばかりは理由が違う。


「あまり自分を攻めない方が良いよ。クロアちゃん、最近様子がおかしかったから……きっと不注意の事故だよ」
「……」


 様子がおかしいのも、俺のせいだ。
 俺はクロアに何と言って謝ればいい……。

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