女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

26話 教えてあげる……乙女心



「入っていいよ」
「し、失礼します」


 一応他に人がいる可能性もあるので挨拶をして部屋の中に入る。


「今は誰もいないから、ゆっくりして」
「えっと……」
「そこ、座っていいよ」
「はい」


 二つのベッドで向かい合うように座った。これから悩み相談をすると思うのだが、俺なんかで大丈夫だろうか。……心配だ。


「早速本題に入りたいんだけど、良いかしら」
「どうぞ」
「そうね……まず、クロアちゃんはリグリフ君の事は友達としか思ってないのね?」
「はい。まあ他の人よりも仲の良い特別な友達ですけど」
「特別……恋愛的な意味ではないのね」
「はい」


 これでリグに告白しても問題ないぞ。アイツがOKするか分からないけどな。


「クロアちゃんは好きな人いるの?」


 ん、何故俺の恋愛について……。


「いない……ですけど」
「クロアちゃんの事を好きな人は?」
「好きな人なら……数名」
「教えてくれる?」


 教えて良いのだろうか……まあ特に問題は無いか。それにリグは俺を恋愛的に好きじゃない、という事を伝えれるだけでも良いし。


「えっと……一緒の部屋にいるソフィアに、学園長のベリアストロさん。他には……いないかな?」
「……同性愛についてどう思う?」
「ん〜……まあその人個人の問題ですし、別に同性愛については特に何も」


 好きという気持ちがあるんならそれで良いんじゃないかと俺は思う。本人は迷惑だろうと思うけど。


「なるほど……」
「何か……力になれましたか?」
「……その、ね。最後にいいかな?」
「どうぞ」


 何か言いづらそうな顔をしているな。ここは真剣に聞いた方が良い。


「私ね、クロアちゃんが図書室に来て本を読む時、観察してたの」
「そうなんですか」
「でね、他の子とは違う……なんていうんだろう、不思議な雰囲気があるの」
「不思議……ですか」


 まあ、確かに前世の記憶を持って生まれた訳だから、変な雰囲気ではあるよな。


「言葉や態度、性格もだけど、男らしいというか……こんな事女の子に言うの失礼なんだとは思うけど、男っぽいって」
「……私個人としても、男っぽいって言われるのは嬉しいよ」


 他の女と同じように見られるのは不愉快だからな。


「良かった……。それで、段々とクロアちゃんを観察していく内にね……好きになっちゃったの」
「好きになっちゃった……え?」
「クロアちゃん独特の魅力がね、私の心を寄せ付けるの。他の誰にも気づいてない、不思議な魅力を私が分かってる」
「そ、そう」
「急にとは言わない。でも、いつか返事を返してほしい」


 いや……まさか告白する相手が俺だったとはビックリだ。エミルさんもそっち系……というか俺でそっちに目覚めてしまったのか。
 どうして俺は女に好かれてしまうんだ……。


「ごめんなさい」
「っ……そうよね……歳離れてるし……それに私女だもんね」


 うっ、そんな悲しそうな顔されると……罪悪感が働くじゃないか。


「いやっ……その、まだいきなり恋愛するのは早いかなって……」
「いきなり……じゃあ少しずつお互いの心の距離を縮めれば、可能性はあるの?」


 それも違うんだが……くそっ、いままでクールな表情だった人が急に感情を出してくると動揺するじゃないか。


「……まだ難しいかな……」
「そうだよね、いくら頭が良いからって5歳の子が恋愛って難しいよね…………私が教えてあげる」
「えっ?」
「私が……人を好きになる事。そして、好きになった人にどう接したら良いか……恋心を教えてあげる」
「ど、どういう事……」


 エミルさんが俺の前に立った。
 そのまま肩を押されて、エミルさんに押し倒される形で倒れ込む。


「……ドキッとした……?」
「えっと……何するんですか?」
「クロアちゃん……今から一番仲の良い人の事を思い浮かべて」
「どうして……ですか?」
「いいから」
「っ……」


 仕方なく、俺はリグ──颯太の事を思い浮かべる。前世で遊んだ記憶、現世のカッコイイ姿。


「目を閉じて」
「は、はい……」
「いま、目の前にいるのはその人。クロアちゃんの頬に触れる手は、その人の手」


 颯太の……手……。


「その手がゆっくり……頬をなぞっていく」


 す〜っと動いていく指先がくすぐったく、つい顔を動かしてしまう。
 するともう片方の手で、顎クイのような事をされた。


「今、その人の顔がゆっくりと近づいていく。その人の息が顔にかかる……」


 ふ〜っ、と生暖かい風が顔にかかった。
 なんで俺は……颯太でこんな妄想してるんだっ!
 途端にそんな妄想をしている自分に恥ずかしくなってしまった。普通この場合、俺は女性の事を思い浮かべなければならないんじゃないのか!? なんで俺は颯太なんかにっ……。


「っっ!?」
「……」


 唇に柔らかい何かが触れた。その瞬間、俺の心の中の何かが壊れるような……そして何かスッキリとした感情が芽生えた。


「〜〜〜っ!? なっ、何っ……」
「ドキドキした……?」
「っ…………」


 この気持ちが……何なのか分からない。不思議な感情が、俺の顔を真っ赤に染め上げる。


「クロアちゃん、女の子の顔してる」
「っ〜〜〜!」


 俺はすぐにその部屋から逃げ出した。エミルさんに何をされたのか、いや……エミルさんに何を覚えさせられたのか。それを理解した途端、それ以上の事を知りたくないと思い、必死に逃げた。


 A-975号室、俺とソフィの部屋に帰ろうとして来たのだが、そこにはリグがいた。


「おおクロア。探したぞ」
「っっ〜!」
「おっ、おいどうし──」


 いつの間にか部屋の中に入り、扉が開かないように鍵をかけていた。
 リグの顔を見た瞬間、ついさっきまで俺の頭の中の妄想が蘇り、恥ずかしくなった。


「っ!」


 唇を制服でゴシゴシと拭いて、俺はベッドの中に潜り込んだ。


「クロアちゃんどうしたの?」
「気にしないで……寝る……」


 もうリグの顔を見ることが出来ないかもしれない。

コメント

  • ノーベル

    5歳児相手に……気持ち悪いわ。

    0
  • ノベルバユーザー339879

    Fantastic!

    0
  • 神弥

    リグのことが..........好き........?

    1
  • ノベルバユーザー267938

    隠れホモなのか?

    1
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